第5話 勇者


「受け取れ、挨拶代わりだ」

 塔を出ると、いきなり魔法が飛んできて足元の雪が飛び散った。


「ちょっと、なにするのよ!」

 チェルシーの怒りなどどこ吹く風の勇者たちだった。

 

「さっさと塔を明け渡せばこんなことをせずに済んだんだぜ」


 マイクが間に割って入った。

「とりあえず、自己紹介しようか。僕はマイク。塔の責任者だ」

「わたしはチェルシー、所属は管理部よ」

「ティモテよ。同じく管理部」

「ピーターだ。マイクさんの助手をしてる」

「オレはアシャー。地下のプラントで働いている」

「僕はニック。僕もプラントにいるよ」


「俺は竜崎キョウ、勇者・キョウだ」

「天河リュウ、俺も勇者だ」

「夢野らみあだよ。防衛担当かな」

「世良未来ミク。わたしは勇者の剣だ」


 一通り自己紹介が終わったところでマイクさんが質問した。

「勇者たちは何しにここへ?」


「さすがに俺たちもこの寒さは堪えるのさ」

「やっぱ基点となるアジトが必要だよな」

「あたしたちもそろそろ人心地つきたいのよね」

「塔の中は暖かそうだわ」

「そういうわけだから、さっさと塔を明け渡せ」


「寝言は寝ていいなさいよ!」


「なんだと」

 チェルシーを見るキョウの目が冷酷な光を帯びた。

「てめえ、誰に口を聞いている? どうやら命が惜しくないようだな」

「なにそれ? 思い通りにならなければ暴力? それが勇者のすることなの? あんたたちのせいで、あたしの可愛いパールが怯えちゃったのよ、どうしてくれるのよ!」

「うるさいメスガキだ、消えろ!」

 キョウの放った攻撃魔法はチェルシーの手前で方向を変えて空の彼方に消えた。

「なんだ?」

 魔法が逸らされた。こいつら魔法を使ったようには見えなかったが…。


っちゃおうか」

 チェルシーの耳元でティモテがボソッと物騒なことをつぶやいた。

「そうね、話が通じる相手じゃなさそうだし」


「あいつらはオレがぶんなぐる」

 振り返るとアシャーがそこにいた。

「アシャー?」

 制止する間もなくアシャーは勇者たちに殴りかかった。

「おまえらのせいどでれだけ人が死んだと思ってんだ!」 

 しかし、アシャーの拳が勇者たちに届くことはなかった。

「はははは。ムダムダムダ! 俺たちには天使がついているからな」

「もう、響ったら。その呼び方はずかしいからやめてよね」

「夢野さんの魔法は確かにすごい! おかげで攻撃に集中できる」

「そういうわけだから、あなたたちに勝ち目はないわ、諦めて」

 勇者たちは自分たちの勝利がゆるぎないものだと確信した。

「俺たち勇者こそ塔の主にふさわしい。さっさと明け渡せ」



 * * *



「お断りだね」

 マイクは勇者の言う事など歯牙にもかけなかった。

「なにィ! てめえ自分の立場わかってんのか?」

「立場って何の? 僕はもともと戦闘などするつもりはないよ」

「じゃあ何のために出て来た?」

「アドバイス、かなあ」

 マイクは顎に手をあてて、勇者たちを眺めた。

「老婆心ながら言わせてもらうと、君たちは世界を破壊した責任を取って、生き残っている人たちの手助けをしたらいいんじゃないかな」


「責任、責任って、あたしたちまだ15歳なのよ!」

「最低だわ! 大人が子供に責任をなすりつけるなんて!」

「ごたくはいい、さっさとやっちまおうぜ、龍!」

「おう! 響! いくぜ!」

「「全員まとめて燃え尽きろ、異世界人ども! ドラゴンファイヤー!」」


 チェルシーは瞬時に防護壁バリアを展開して攻撃魔法ドラゴンファイヤーを防いだ。

 目をみはる勇者たち。

「俺たちの攻撃魔法ドラゴンファイヤーが防がれただと!? てめえなんで魔法が使えるんだよ」

「これは魔法じゃない」

「じゃあなんなんだよ!」

「あたしたちが生きていくための力よ!」


「ゴミどもが!」

 勇者たちは更に攻撃魔法を放った。

 防護壁バリアはチェルシーに任せて、ティモテは不可視の手インビジブルタッチを伸ばして、勇者・響の首を掴んだ。

「ぐはっ!」

 空中に持ち上げられた響は足をバタバタさせてもがいた。

「きょ、響! てめえ、響を離しやがれ!」

「ほい」


 ポイッ! ドサッ!


 龍の上に響を投げ飛ばた。

 折り重なって倒れた二人の勇者はなかなか立ち上がれずにうめき声を上げていた。

「え、うそ?」 

「響、龍、しっかりして!」

 勇者の女の子たちがあわてふためいていた。


「勇者ってたいしたことない?」

 首をかしげてつぶやくティモテに、アシャーはあきれた視線を向けた。

「おまえら、強くなりすぎだ」

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