第2話 結婚式の後


 降り積もる雪の中で生を終えたことは覚えている。


 目を覚ますと真っ白な空間だった。


 まだ雪原にいるのかと思ったが、寒さはもう感じない。ポカポカと暖かい。こんなに暖かいのはいつぶりだろう。

 手をついて起き上がる。どうやらベッドの上に寝かされていたようだ。隣のベッドにはティモテが寝息をたてていた。

 ここはいったいどこだろう。真っ白な空間。人が生まれ変わる時に通ると言われている白い空間にいるのだろうか。


 白い空間の一部が開き、二十歳前後の男性が現れた。銀色の髪の青年で、物腰が柔らかく温和そうな性格を窺い知ることができた。

「やあ、お目覚めかい」

「あなたは?」

「僕はマイク・ハルフォード、PSD(Psychological Department)の局員だ。君たちが今いるここは塔の中の医療施設だよ」

「PSD? 医療施設?」

「あとで説明するよ。君たちの名前と年齢を教えてくれるかい?」

「あたしはチェルシー、この子はティモテ、ふたりとも13歳よ」

「チェルシーとティモテ、13歳っと」

 マイクはパネルにデータを打ち込んだ。

「それじゃ、ゆっくりしていってね」

 コンソールを幾つか確認してマイクは部屋から出ていった。

 チェルシーは再びベッドに身を横たえた。

「あたしたち…助かったの?」


 ほどなくして、チェルシーとティモテはベッドから起き上がれるようになった。

「マイクさんから聞いたよ。わたしたちが倒れていた場所、そこだけ雪が積もってなかったんだって」

 ティモテもマイクと話をしたようだ。

「雪が積もってなかったってどうゆうこと?」

「目に見えない防護膜シールドのようなものが張ってあって守られてたって」

防護膜シールド? 誰かが防護膜シールドを張って守ってくれてたの?」

「さあ、わかんない」

「きっとそれも含めて検査なのね」

 このところずっとマイクがやってきてはなにかしらの検査を行っていた。

 彼が言うには他の男の子三人も同じ検査を受けているとのことだった。

「あの状況で5人とも助かったのは、奇跡としか言いようがないわね」


「おめでとう」

 マイクに言われてチェルシーとティモテはきょとんとした。

「君たちは新たなる力を手に入れたんだよ」

「新たなる力?」

 ふたりには何のことだかさっぱりだった。

「雪原で君たちは無意識のうちに、新たなる力を使っていたんだ。でなければ、とっくの昔に黄泉の国へ旅立っていたはずさ」

 と言われても、実感のわかないふたりだった。

 マイクはテーブルの上に置いてあったペンを取って、手のひらの上で転がした。

「見ててごらん」

 ペンは手のひらを離れ、ふわりと浮かび上がった。

「「!」」

「こんなのは初歩中の初歩、誰にでもできることさ。君たちにはもっと上を目指してもらうことになると思うよ」

 チェルシーはマイクからペンを受け取って、手のひらの上に乗せた。ペンはうんともすんとも動かなかった。

「どうしてペンが浮くの?」

「えい…やあ、って感じかな」

「む、無理でしょう?」

 ティモテも眉間に皺を寄せて、ペンを眺めていたが、動く気配は全くなかった。

「コツを掴めば簡単だよ。しばらくの間、練習してみるといい」


 マイクはそう言ったが、チェルシーもティモテもできる気は全然しなかった。

「もしかして、マイクさん揶揄からかってるのかしら?」


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