俺が考えていた通り、美月と唯は気が合いそうだった。本が好きだという共通のことがあるからなのか、雰囲気的なものなのかはよくわからないけれど。

 無愛想に見えるけれど、美月は本来面倒見が良い。何せ十数年と会っていなかった同級生をあっさり家に住まわせてしまうのだから。しかもご飯まで作ってくれるという破格の対応。

 そんな美月は唯のことも心配して、なんと料理を教えるまでになった。

 春のはじめくらいにはこのアパートから出ることにさえ恐怖を抱いていた唯が、俺以外の人と親しく、…………とまではいかないかもしれないが、時間を共有するくらいにはなれたということが、とても嬉しかった。

 唯はこのままいけば、きっと大丈夫だろう。時間が掛かってもこうして他人と関わっていけるのなら。とすれば、俺がどうにかしなければならないのは父の方だと思う。





 決意を固める為にも、お盆に墓参りに来た。美月と唯も一緒に来てもらったのは、同じ風景が見たかったからだ。

 墓は遠縁の親戚でもある、亡くなった祖母の友人がこまめに手入れをしてくれていて、綺麗だった。花はすぐに枯れてしまうから買ってこなかった。回収するのにまた来るというのも大変だし、親戚に頼むのも悪い気がしたのだが、どうやら先に墓参りを済ませて花も飾ってくれたらしい。

 墓参りだというのにほぼ手ぶらだ、と美月は少し不思議そうにしていた。唯は子供の頃はここに来て墓参りはしていたけれど、両親の離婚後はわからない。恐らく、来れてはいなかったと思う。

 子供の頃、家族四人でここに訪れた時は幸せだった。母は癇癪持ちではあったが優しい父がよく宥めていたし、祖母がまだ生きていた頃は祖母の家で遊んだものだ。懐かしい景色。今はもう取り戻せない。

「俺、この島の景色がすごく好きなんだ」

「うん、それはわかる」

 俺の言葉に美月はすぐに頷いてくれた。

 穏やかで、自然が溢れていて。ゲームセンターや何でも売っているデパートがなくても、ここには何もかもがあって満たされるような、そんな気さえしていた。

「砂浜の方に行くとさ、ちょっとした階段とポールがあるんだけど、景色一面が海で、そこにいるとなんだか空でも飛べそうな気がするんだ」

 そんなことを言ったら普通は、子供じゃないんだから、とか、そんなわけがないだろう、とか、そんな風にばっさり言われてしまいそうだけれど、美月は否定をしないだろうという確信があった。それよりも俺がどんなものを好きだと思うか聞いてほしいと、そう思った。

「そっか。見てみたいな」

 美月が話したのはそれだけで。ぽつりと出る美月の言葉には、いつも嘘がない。俺は美月の言葉なら信じることが出来ると、そう思っている。これは昔からのもので、今でもそれは変わっていない。

 大人になって嘘が上手くなったり、ずるくなったりはたくさんある。けれど美月はそうではなかったことがとても嬉しい。


 帰り道、真夏だというのに体の痣を隠す為に長袖で来た唯は、かなりつらそうだった。

「唯、大丈夫か?」

 心配になって問い掛ける。墓参りには来たかったのか、唯は帰りたいとは一言も言わなかった。美月もまた、ずっと唯のことを気にしてくれているようだった。

「うん。飲み物、飲んでるから平気」

「そっか」

 くしゃくしゃと唯の頭を撫でる。大丈夫、ではなく、平気、と言ったから、とりあえずは本当に大丈夫なのだろう。

 それでも美月は時折心配そうに唯を見つめていて、唯はそんな美月に気付いているのか、警戒心を少しずつ解いていっているように見える。

 もしかしたら美月と唯は少しずつ、惹かれあっているのだろうか。そんなことを思う。そつだったらいいなという、俺の勝手な希望だ。でも、出来れば叶ってくれたら嬉しい。



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