八月



 お盆になって仕事も休みに入る。

 時間があるのなら美月も来ないかと誘われて、今日は仙台駅での待ち合わせではなく、逆に唯を地元の駅で待っていた。

 改札から出てきた唯は真夏だというのに相変わらず長袖のパーカーとジーンズ姿で、とても暑そうな見た目をしていた。今日は日差しがギラギラしていて、天気予報では真夏日だと言っていた。当の唯は表面上汗をかいている様子はなく、涼しげな表情をしているけれど。

「暑くないのか?」

 心配になって聞いてみるけれど、唯は特に何も言わない。表情には出ていなくても、やはり暑いのではないだろうか。

 唯の肌はとても白く、全然日焼けをしていない。だからといって日焼けを気にするようなタイプには見えないけれど。日差しが直接肌にあたるのが苦手、とかかな。

 駅のコンビニでスポーツ飲料を買ってきて、唯に渡す。

「やさしいねえ、美月」

 それを見て陽影はにやにやしながらからかってくる。

「お前が気付いてやれよ」

 普段から周りにはとても気を遣う方なのに、どうしてこう肝心な時には気が付かないのか。





 駐車場に置いていた僕の車に乗り、陽影の案内で港まで走る。港のあるところに長年住んでおきながら、船に乗ったことは僕はなかった。

 到着すると風が吹いていて、海の側独特の匂いがふんわりとしている。

「船に乗るのか」

「そ。観光船じゃないよ」

 陽影は慣れた様子で三人分の往復チケットを買った。いくつか島はあるけれど、迷いがないということは行く場所はもう決まっているのだろう。

「船が来るまで少し時間があるから、ジェラートでも食べないか?」

 陽影が提案すると、ぴくりと唯が反応する。

 そういえば建物の中に入った時、出入り口近くにジェラートが売っているお店があった。休憩スペースというか、飲食出来るスペースというか、そんな感じに見えた。フードコートのようなものだろうか、ラーメンやパンなどもあった気がする。

「美月は?ジェラート食べる?」

「そうだな……たまには」

 冷たすぎるものが得意ではなくて普段あまりアイスを食べることはないのだけれど、ジェラート店に着くや否やどこかキラキラと目を輝かせて食い入るようにショーケース越しのジェラートを見つめる唯の姿を見て、少し興味がわいた。

「ラズベリーとチーズケーキ」

 僕の方を振り返り、唯はジェラートを指差してそう言う。

「それ、唯のお勧めの組み合わせ」

「そうなの?」

 こくん、と唯が頷く。

 見るとこのジェラートは二種類の味を選べるらしい。王道のバニラやチョコレート、少し珍しい塩などの味もあったが、折角だから唯のお勧めだというラズベリーとチーズケーキを注文する。唯も僕と同じ組み合わせを選んでいた。どうやら本当に好きらしい。陽影はチョコレートと塩という、何とも複雑な組み合わせを選択していた。

 カップに雪だるまみたいに重ねられてきたジェラートは、とても涼しげだった。

 ラズベリーのジェラートは少し味が濃い感じがして、果物感がすごい。あっさりとした爽やかなチーズケーキと一緒に食べると、それがとてもちょうど良くなった。確かに美味しい。ジェラートの舌触りは滑らかで、そんなに甘くはなく、とても食べやすかった。これが唯の好きな味なのか。

 ジェラートを食べ終わる頃に船が到着して、それに乗った。乗る時はチケットは見せないらしい。用事があるのは二十分くらいで着く、最初に停船する島だと陽影は言った。窓側に唯、その隣に陽影、僕と順番に座る。船内は少し混んでいた。少しして、ぼーっと音を立てながら出航する。

「ところで、島に何しに行くんだ?」

「ん?墓参りだよ。うちのばーちゃんの」

 ああ、お盆だからか、と陽影の話を聞いて思う。それに僕が一緒に行くことは疑問だったけれど。




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