呪いのスキル?


 いや待て落ち着け。多分、ほらアレだ。焦れば焦るほどどうしていいかわかんなくなるヤツだ。普段は何げなくできていることなのに時間とか成果とか何か制限がかかってしまうと無意識に心と身体が緊張して思考や動きを阻害するんだそれにほら私か弱くって繊細でデリケートだから余計にダイレクトにそういったシチュに流されやすいんだろう誰だ中の人未来の心と身体はバリケードだろとか抜かしやがったのは表に出ろいや私しかいないだろテヘペロ☆とか言ってる場合じゃねえし考えろ考えろ考えろ私はこの世界でいっぱい幸せになるんだから海賊王はちょっと無理どこに海があるんだ地図なんて見たことないしイヤ本当マジでいい加減にしろパッシブ一人ボケツッコミのヤツめ絶対にアンタには負けへん集中しろ集中しろ全集中全集中頑張る呼吸ひっひっふーひっひっふー閃け閃け閃けっ!(五秒)


「お、おい……もう帰った方が……」

「随分と苦しそう……だ、大丈夫?」

「呪いっ て叩けば治る?」

「治るかあ!」


 くっ、まさか私のスキルでもツッコみ切れないとはこの娘、本当に恐るべし。まさかボケのスキルでも会得してるんじゃなかろうな……じゃないってば。いいや、このまま行け行け行け!


「ごめんごめん、考え事してた」

「「「…………」」」


 家政婦が二人に増えた。いや君たちトーマを人柱にするでないよ、顔、めっちゃ引きつってるし。


「でね、何を考えてたかと言うとぉ……聞きたい? 聞きたい?」


 こらトーマ。ラルフを前に押し出そうとするなよ。でもリルには絡めないよね……瞳孔すぼまってるし爪出てるし毛ぇ逆立ってるし……ってめっちゃええ! 私が隠れたいわ!


 だがしかぁし! こんな事で私の心が折れるなどと思うなよ!


 ひっひっふー。

 ひっひっふー。


「私、スキルを習得したんだ! それでどんな風にスキルを使えばいいか昨日からいろいろ考えすぎちゃってさ、あはは」

「え? すげえ」

「…………!」

「呪いのスキル?」

「何でだよ!」


 リル貴様、顎下さすさすしてゴロゴロさせたろか! ヤバい、萌える。リルとラルフ、めっちゃ手触りがいいんだよね。でも今のリルに手を伸ばすのは危険だ。撫デルナ危険。


 お、トーマとラルフの目つきが変わった。


 こっちの世界ではスキル持ちって特殊職か冒険者が大半だし、特に冒険者=強いってイメージが根強くて男の子の憧れの職業って感じだからね。日本で言う警察官、野球選手、サッカー選手みたいなもんか。そういえばYouTuber、VTuberの動画投稿者も人気が上がってきてたっけ。今は知らんけど。


「学校、そろそろ行かないと遅刻する」

「やべ、父ちゃんに怒られる」

「歩きながら話そうよ!」

「あ、アイラ……何のスキルを使えるの?」


 可愛いのうラルフ。目ぇキラキラさせちゃってさ。


「鑑定!」

「うっわ、ホントかよ! あああ、神様! 頼んます俺にもいつか鑑定スキルを! 母ちゃんのスキルを下さい!」


 あ、ユラおばさん鑑定スキル持ってるんだ! なるほどねえ……小道具屋のトーマんちがあんなに繁盛してるのはおばさんの力もあんのかもね。


「いいないいな。僕もいつかスキル使えるようになるかな」

「なるよ、きっと」


 ラルフは気が弱いけど頑張り屋だもんね。……というかみんなといるうちにいつものアイラっぽく振舞えてる気がする。


 11年ってやっぱ大きいね。


 いつもの街並み。

 いつもの空気。


 いつもの関係。

 いつもの友情。


 私の心と身体には、この世界がこんなにも息づいている。















「駒でち!」

「「「…………」」」


 あはは、これクセになりそう! でもお爺ちゃんはもっとキレのある動きして面白かったんだよなあ……両手を引っ張り上げる動きがハイレグに見えるようにしないとダメだとか何とか。うぷぷ、あの動き絶妙だったなあ。思い出しただけでマジウケる。こうか? こうなのか?


「もう置いていこうぜ」

「あ、アイラ……女の子がガニ股とかダメだよ」

「まずは自分を鑑定すべき」

「あああ、待ってえ!」


 本当はもっと面白いんだってば!

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