第6話
「気付かなかった? 僕の気持ち」
高橋くんの問いに、彩は小さく「ごめん」と呟いた。高橋くんが首を振る。
「いや、良いんだ。僕が引っ込み思案で何も伝えられなかっただけだから。でも好きだったんだよ、ずっと」
「そう、なの?」
彩は不思議な気分だった。ずっと好いていてくれたなんて信じられない。
「なんで私なんか……」
「『なんか』じゃないよ。僕にとって二階堂さんは恩人だから」
「恩人?」
「そう。だから僕は二階堂さんに恩返しがしたくてね。二階堂さんを支えたい、二階堂さんの苦しみを取り除ける人になりたいと思って……それで僕は医者になった」
少し照れたように高橋くんが言う。
「お医者さんに?」
「そう、循環器の」
ああ、そうか。と、彩は納得した。
彼がすごく頼もしく見える理由。彼の自信の源。それは医者になった事による強さだ。彩を想い、彩を助けたいという信念が彼の表情ににじみ出ている。
「二階堂さん、困った事があったら僕に相談して。力になりたい。病気の事でも他の事でも、なんでも相談に乗るから」
そう言って高橋くんは彩の右手にそっと触れた。彩への強い想いが熱となって感じられる。温かい。
幼い頃、手術の前に「大丈夫だよ、一緒に頑張ろう」と手を握ってくれた先生の事を、彩はふと思い出した。高橋くんの手はあの時の先生みたいに、彩の不安をすべて拭い去ってくれる。そんな安心感があった。
その時。
「おっと、
テーブルの横を通りかかった友人が彩と高橋くんを不意にからかってきた。
「そう思ったなら邪魔しないで欲しいんだけどな」
高橋くんは彩の手を捕らえたまま、不機嫌そうに抗議した。
「悪い悪い!」
友人は自分の持っていたウーロンハイを彩のすぐ近くに置いて、彩の耳元に顔を近づけた。
「二階堂さん、北斗のやつ『二階堂さんを支えたい』ってずっと言ってたんだ。前向きに考えてやってよ。それに医者だぜ? 将来安泰! 結婚相手にもってこい!」
彩から顔を離した友人が、彩に向かってパチンとウインクをする。
「えっ……と」
彩はなんと答えたら良いかわからなかった。困る彩をしりめに、友人は再度グラスを持つと「邪魔してごめんね!」と言い残し別のテーブルへと去っていった。
(なんだなんだ……なんなんだ?!)
告白されて、後押しされて、みんなに良い雰囲気にされて……彩は自分の人生にこんな日が来るとは思ってもみなかった。モブどころかお荷物な人生だったはずなのに、これではまるで自分が恋愛小説の主人公にでもなった気分だ。最高潮。自分の身に起こった事とは思えない。
「二階堂さん、あいつ、何言ってたの?」
高橋くんが怪訝そうに彩の顔をのぞき込んでくる。
「な、なんでもない!」
テンパった彩はつい誤魔化してしまった。だって、「結婚相手」という単語が妙に恥ずかしかったからだ。
(落ち着け、私!)
このままではいけないと、彩は手元のグラスの中身を一気に飲み干した。
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