第4話
それから二週間。
仕事終わりの彩は同窓会の会場へと向かっていた。
バスの窓に映る自分の顔は、ほんの少し血色が悪くやつれている。
(メイクは直したけど、やっぱりちょっとクマが気になるな)
彩の心臓は生まれつき形がおかしかった。
幼い頃に何度も手術を受けたおかげで大人にはなれたけど、普通の人より体力はなく制限も多い。
疲れてくると血液循環が悪くなり息切れするので、仕事のあとの外出は正直不安だった。まして、疲れのたまった金曜日。無理をしたら倒れてしまうかもしれない。
(今日はお酒を飲まないようにしよう)
少量の飲酒は許可されているけど、今日はやめておいた方が良いだろう。うっかり倒れてみんなに迷惑をかけるわけにもいかないし。
そんなリスクを承知で参加を決意したのは、高橋くんの話を聞いたからだ。
(絶対に会いたい、か)
ずっと会えていなかった高橋くん。だからこそ、彩も彼に会いたくなった。
どんな人に成長しているのか、なぜそこまで彩に会いたいと思ってくれているのか、聞いてみたい。
期待を胸に、彩は駅前のバス停でバスを降りた。
◇
「かんぱーい!」
駅前のビルの三階にある海鮮居酒屋に元気な声が響く。
総勢二十数名の同窓会は、こじんまりとした居酒屋を貸し切っておこなわれた。
彩は仲良しグループの女子三人と四人掛け席についている。
隣のテーブルには昔チャラチャラしていた男子数人がスーツ姿で座っていた。すっかり落ち着きはらった彼らに時の流れを感じる。自分はこんなに成長しただろうか。彩はちょっと自信がなかった。一方、ギャルだったクラスメイトは赤ちゃん連れで顔を出し、赤ちゃんをひと通り披露して早々に帰っていった。和気あいあいとした雰囲気は、卒業後十年以上たっても変わっていない。
「彩、体調大丈夫?」
友人たちが彩を気づかいつつ料理を取り分けてくれた。
「うん、たっぷり寝てきたし、今日は疲れる仕事をしないように気をつけてたから大丈夫!」
「そっか。でも無理しないで。辛かったら早めに言うんだよ」
「わかった、ありがとう」
友人の怜奈は彩のウーロン茶のグラスに自分のレモンサワーをカチンと合わせ、ニコッとほほ笑む。怜奈の優しさも変わっていない。
「あはは! 怜奈、お母さんみたい」
「昔から彩の保護者だよね、怜奈は」
「まあね。まかせて」
あはは、と笑いあう友人たちに囲まれて、彩はホッと息をついた。本当の母よりずっと優しいみんなの事が、彩は大好きだった。
(来て良かった)
心からそう思えた。
笑みをこぼした彩は、目の前の怜奈がニヤニヤと自分の顔を眺めている事に気付く。
「……何?」
「えー? いやあ、なんでもない。あー、えっと、私ちょっと向こうのテーブル行ってこよっと。じゃあね!」
「へ?」
キョトンとする彩を無視して、怜奈はレモンサワーを持って立ち去ってしまった。移動するにしても早すぎない? と思っていると、頭上から男性の声が降ってくる。
「二階堂さん。ここ、良い?」
その声に彩はドキッとして顔を上げた。
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