20
武僧は戒律により、刃物のついた武具をつかうことが日に一度しか許されていない。ゆえにその体術と組み合わせのよい魔道武具を戦には用いたよシカルダは言うが、
「もっとも。如意の使用には重力魔法を要したといいます。その遣い手も絶えて、つまり今はただの鉄の棒の山でございますよ」
「え? 重力魔法が、絶えた?」
そうタケシが頓狂な声をあげたのと同時に、シカルダは道着をさぐり当てたらしく、
「ええ。転生者と同様、四勇者の時代がすぎたあと、重力魔法使いはその強大さゆえ血筋ごと迫害をうけましてね」
「そうなんだ……」
「さあ。では道場へ戻って道着を試着とまいりましょう」シカルダはそうタケシの顔のあるほうにむけ、声をかけたが、彼からの返事がない。
「気になりますか?」
「──ええ。重力魔法使いのお話しもですが、如意が……」
なにが気になるといえば、薄暗いなか、この距離を隔てていてもあきらかな、その如意なる金属柱の工作精度のたかさであり、また、
「──手にとってみても かまいませんか。シカルダさま」
なにか、それが自分を呼んでいるような気がしてならないのだ。
タケシはランプをかざして、金属柱を積みあげたその山のまえに立った。
ひとつひとつの金属柱は、1メートル弱から30センチ強ほどの長短で寸法を統一してている様子だが、これらが10本ずつ薪の束のように針金で巻かれ、倉庫の壁際に山積みされているのだ。
下半分には長い如意を。そしてうえ半分に短い如意を束で集めてあることからそれはダハシュールの屈折ピラミッドのように歪な三角形をしてはいるものの、彼はまず、その束の数をざっと計算しようと、如意の山の底辺の一列にある数をとった。
「1、2、3、4……」底辺だけでそれは十二束あった。
そこからうえに向けて等間隔に一をひきながら十一段あるとして暗算し、彼はくちびるにメモを残すかのようつぶやく。
「── 78束か」
ひと束につき10本ずつ束ねているとすれば、長短の如意はこの山だけで計七八〇本あることになる。
「しかしバルディアって10進法か12進法か分かんないな。それとも
さらに足をすすめて如意の山に近づけば、いつの時代に誰がどこの束から抜き取ったものなのか、一本の如意が抜かれ、あしもとに転がっていた。
タケシはその一本をランプで照らし、両手で拾いあげようとすると、思いのほかそれは軽く、太さでいえば十センチもない握れるほどの直径をしているが、鉄製とおぼしき表面材質で全長も一メートル弱はあるのに、意外なほど軽い。
ならば構造的には中空かとタケシは思い、その一メートル弱の円筒を爪でつついてみると、たしかになかには液体でも充填してあるかような詰まった感触が返ってくる。
だとすれば耳に当てれば中身の動く音が聴こえないかと如意を逆さまに立てたところ、それは特殊警棒のように、あるいは伸縮式の釣り竿のように、内側の筒をゆっくりと、だらりと垂らして、全長を伸ばしはじめた。
おどろいて手を放しかけたタケシだが、ゆっくりと時間をかけて伸びゆく如意を目の高さまで持ちあげると、中子はもとの長さよりも四割ほど全長を伸ばしたところで止まった。
中子の直径は6センチほど。となると外殻の円筒の厚みは2センチほどか。
タケシは今度はそれを、逆さまに立ててみた。すると伸び出ていた中子は再びゆっくりと、しずかに金属のこすれあう音を立てながら外筒のなかへと押し戻ってゆく。
垂らしてみたり、引っぱりだしてみたりして、どうもそれが入れ子の構造、つまり、注射器のような、あるいは車両のショックアブソーバーのような外筒と押子の関係、シリンダーとピストンのような関係にあるようだとタケシはその構造を推測した。
ただし、本来の姿が伸ばした状態にあるのか、それとも縮めた状態なのかはわからないし、第一、用途もさっぱりわからない。
「──この如意とは、どうやって使うものなんですか」
すると彼のほうは、道着さがしにひっくり返した
「
ゆえに、もはや如意をあつかう
ランプの灯心のゆらめきが、倉庫の壁にタケシの陰影を大きくゆらしている。
彼には、その話が信じがたくあった。
では、あのイリアとは一体。
いましがた別れたばかりの彼女の横顔が、急に遠のいたように感じた。
『バルディアの魔動機兵』第二章 了
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