第15話 滝夜叉姫 6
「確かに百パーセントそうだというわけではありませんが、半分くらいはそうじゃありませんか」
「なぜそんなに理由にこだわるんだ? こいつらのためである必要とかあるか?」
「それは……彼らはまだ子供ですから」
「子供?」
頼光はフンっと鼻で笑った。
「甘やかすな。もう高校生だぞ。それに記憶を無くしているとはいえ、精神は一体何千歳だ?」
「それでも」
須佐はぐっと拳を握った。
「私からすれば、やはり幼いのです」
頼光はしばらく須佐を見ていたが、ふいっと視線を大和と武尊に向けた。
「確かに須佐殿の言う通り、記憶の無いお前らの様子見も兼ねてはいるが、一番の目的は東京に『鬼』がいる確率が高いと判断したからだ」
「鬼?」
頼光は二人の方にぐいっと身を乗り出した。
「お前たちはまさかあの女子高生が、一人で八岐大蛇を召喚したとか思ってるわけじゃないよな?」
「辰巳に八岐大蛇を召喚させた人物が背後にいて、それが『鬼』だということですか?」
大和が聞くと、頼光は頷いて鞄から透明なジッパー袋を取り出した。
「それは……」
シャリン、とあの日地面に落ちたペンダント。辰巳が大事そうに手のひらに抱えていて、今は真っ二つに割れてしまった彼女の形見が、小さな袋の中に収まっていた。
「これは八岐大蛇の鱗だ」
「え! ウロコ?」
武尊は恐る恐る袋に顔を近づけた。紐の先に付いている飾りは真っ二つに割れて半月型になっている。まるで綺麗な貝殻の内側のように、見る角度によって色が変わる代物だ。ただのちょっと変わったエスニックなペンダントにしか見えなかった。
「え……蛇の鱗には見えないけど」
「当然だ。加工を施してあるし、そもそも鱗本体だけだったら普通の人には見えないからただの紐になってしまうだろ。贈り物として成り立たない」
「このペンダントを贈った者が鬼なんですか?」
大和の問いに頼光は頷いた。
「こういう呪われた物の一部を、心に隙のある人間の元へ送り込むのは鬼の常套手段だ。呪われた物は陰の感情を強め、この世のものでないものを呼び出してしまう。鬼はそうやって人心を乱し、世を乱すのだ」
頼光の視線が急に暗い影を帯びた。
「しかし今回の鬼は非常に狡猾で手強い可能性がある」
「どういうことですか?」
頼光が急に考え事をするように黙ったので、須佐が代わりに答えた。
「八人も犠牲者を出すなんて、過去最悪の被害と言ってもいいくらいなんだ。しかも今は主要な戦闘員が成熟して油の乗った時期であるにも関わらず、だよ。過去に戦闘員が若すぎたり逆に歳をとり過ぎて苦戦したことはあっても、こんなふうに出し抜かれたことはかつて無かった」
須佐の視線も暗くなった。
「今回こんな被害を出してしまった原因は発見が遅れたからだ。あの八岐大蛇は娘を週に一人ずつ食ってたけど、普通女子高生が失踪したら事件になる。本来ならそこで気づかなければならなかったのに、元々失踪癖のある女の子ばかりだったから事件にならなかったんだ。これを偶然と捉えるか、それとも……」
「おそらく意図的にそういう娘を狙ったのだ」
頼光の言葉に須佐も頷いた。
「私もそう思います」
「現在綱に彼女の交友歴を探らせているところだが、生活圏内に鬼が潜んでいると考えるのがまあ妥当だろう」
「本当にそうでしょうか?」
大和が疑問を口にした。
「遠距離恋愛の可能性もあるし、そもそも本当に贈られた物かも分からなくないですか? たまたまお店で買っただけかも……」
須佐が意味ありげに頼光を見ながらにっこり笑ったので、大和は口をつぐんだ。
「もちろん、可能性は無限大だ。だからこそね、ほら、君たちのいる東京を第一候補に上げたんじゃないか」
大和と武尊は揃って頼光を見た。頼光は「ちょっとトイレ……」とそそくさとその場を離れるところだった。
「……厳しいことをおっしゃられるけど、一番君たちの事を気にかけていらっしゃるのは頼光さんなんだよ」
「何でそんな事が分かるんですか?」
「いつの時代も、そうだったからさ。もちろん私も、他の代行者たちだって君たちのことを気にかけてるけど、頼光さんは特に戦闘員のリーダーというのもあって、心を砕いていらっしゃるんだ」
「……俺たちだけですか?」
須佐はゆっくりと大和に視線を向けた。
「他の代行者たちより、ずっと俺たちのことだけ気にかけて下さっているんですか? いつの時代も?」
「……そうだよ」
「それは……」
バアン! と空き教室の扉が勢いよく開いて、中にいた三人は椅子から飛び上がった。
「飯が終わったならお前らガキどもはさっさと教室に戻れ」
「え……なんでですか?」
別にここにいたいわけではなかったが、そんな言い方で出ていけと言われると武尊はついカチンときて頼光に食ってかかった。
「情報収集だ。顔使ってクラスの女子と喋ってこい。亡くなった女子生徒たちの情報を集めるんだ」
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