赤ずきんちゃん
洞貝 渉
赤ずきんちゃん
ハロー、人類。
わたし、人畜無害な女の子。
今、森に住むオオカミの腹の中にいるの。
狭いし臭いし、なんかちょっと生暖かくて不快感凄いんですけど。
オオカミの腹の中に入るのはこれで三回目。
一回目はおばあさんのフリをしたオオカミに丸呑みされたとき。あの時はすぐに狩人さんが助けてくれた。
二回目はおばあさんの家に遊びに行ったとき。お母さんの言いつけ通り、寄り道せずに真っ直ぐおばあさんの家に向かったのに、道中で問答無用にパクリとやられた。この時は何かと物騒だからと町の人から貰った笛をオオカミの腹の中で吹きまくって、狩人さんに見つけてもらい助けてもらった。
そして、三回目は、今。やっぱりおばあさんの家に向かう道中で。
おばあさんは好きだし、おつかいも嫌いじゃない。お母さんのお手伝いをするのも好きだ。
でも、今回わたしは断った。オオカミが嫌だったから。
だけどお母さんは、わがまま言わないのと言って聞いてくれなかった。おまけに、おつかいするのにおもちゃは要らないでしょうと言って私から笛を取り上げた。ひどい話でしょ?
……さて、そろそろここから脱出しないと。おばあさんが待っているし、単純にオオカミの腹の中は不快だし。
わたしは自衛用に持ってきた肉切り包丁で、オオカミの腹を内側から切り裂く。
もともと赤かった頭巾が、オオカミの鮮血でより真っ赤に染まった。うん、元の色も悪くなかったけど、この色もなかなか。
オオカミの腹から抜け出して、新鮮な外の空気を思いっきり吸い込み、わたしは空を仰ぎ見る。
わたし、赤ずきんちゃん。これから、おばあさんの家に行くところなの。大きなカシの木が三本立っているその下に、おばあさんのおうちがあるのよ。まわりには、クルミの生いけ垣がきがあるわ。あなた、知っているでしょう。
言って、腹を裂かれて息絶えたオオカミに微笑みかける。
ああ、純粋無垢な女の子で在り続けるのって、本当に大変だ。
わたしはため息を一つ吐いて、おばあさんの家に向かった。
赤ずきんちゃん 洞貝 渉 @horagai
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