第123話 愛称
マーヤがうきうきと魔晶石をドワーフに採掘して貰ってる様子を眺めていたら、令嬢達が着替えを終えて来ている。
今回はスクロールでしゅっと帰還予定なので、女装は無しだ。
「ところでザカロスの王はどうなったんだろう? 捕らえたのは王妃と王太子と王女だよな?」
俺が誰ともなしに疑問を呟くと、
「城の屋上に出て海上戦を眺めていたらしいので、王太子殿下のメテオの直撃で即死だそうですわ」
ニコレットが答えてくれた。
しかしツェーザルロの王太子! メテオを使えるなんて強すぎないか?
ドラゴン退治の時は、巣穴の中なら自分も巻き添えになるから、そんな大魔法は使えなかっただろうけど。
「王太子殿下お強いなぁ……そして海上戦もやってたんだな……」
そういえば……俺は陸路を諦めて海路を使ってツェーザルロに来たのだった。
「魔弾砲撃で次々に敵の船を沈めたそうですわ。まぁ、多少はツェーザルロの船も沈みましたが」
ニコレットは父親から戦況を伝え聞いてたのか、サクッと語ってくれた。
「ソル卿達の竜騎士戦を見ていたから気がつかなかった……」
命が雑に消えていくのが戦争なんだな……。
そして、魔法のある世界って驚くほど戦争の決着がつくの早い場合があるんだなぁと、感慨にふけっていたら……
「ところで戦勝パーティーと凱旋式が追加されますわよね」
あーーっっ!! イベントが増えてる!!
出費が増える!!
「俺だけ全部同じ治癒師の衣装って訳にはいかないかな?」
「お金が無いなら当家から出しますわよ?」
ニコレットが頼ってそうにドヤ顔で言う。
「いや! 金は無くはないけど、これから出費が多くなるから、自分の衣装は経費節約で……」
国民の血税は……無駄には出来ないし。
庶民だった時の貧乏性が……。
「えー、伯爵様も品位維持の為に予算を使いませんと……」
「品位……維持……か」
そういえばで品位維持費ってあったよね……。
貴族の漫画や小説でも度々目にしたし。
『あのぉ……』
日本の母が遠慮がちに話しかけて来た。
『あ、移動するけど、準備は出来たかな?』
両親にはこちら風の衣装を渡しておいたので、ちゃんと着替えたようだ。
悪目立ちしないようにそのほうがいい。
『はい。料理でも掃除でも、出来ることはやりますので、これからずっと……伯爵様の側に置いていただけますか?』
『俺も、いえ、私も掃除や雑用など、出来ることは何でもやりますので……あ、犯罪以外は……』
今や身分のへだたりがあるのだと、母の敬語を聞いて痛感した。
しかし、父はわざわざ犯罪以外って念をおす所が真面目な日本人らしい。経理を任せたい……。
多分数字には強いだろ、日本人……。
『パッパは文字や言葉を覚えてもらえたらいずれ経理の仕事あたりについてくれたらと思ってるけど、それまでは雑用になると思う。マッマは言葉覚えるまでは簡単な作業の掃除か……あるいは厨房で料理を頼む』
『ぶっ』
父が噴き出した。
俺が今、苦肉の策で考えたパッパというあだ名で……。
『呼び方に困っていたら、友人が愛称にしたらと言うので……苦肉の策で……』
恥ずかしいけど、仕方ないだろ!
元は親だった人の名前呼び捨てが嫌なんだから!
『し、失礼しました! 伯爵様……』
『あなたったら! もう! あ、もちろん料理も掃除も出来ます!』
まだ笑いが収まらないのか、マッマに肘でどつかれるパッパ。
久し振りに父の笑顔を見た気がした。
母も、結局俺のマッマ呼びがおかしかったのか、泣き笑いの顔になっていた。
「伯爵様! 採掘は終わったので帰りましょうか!」
マーヤが声をかけて来た。
聖女達も準備を終えて集まって来た。
「ああ、じゃあ転移スクロールを使うが、忘れものないか? 全員揃ってるか?」
「アルテもエイダもいるよー」
「そうか、ならスクロールで飛ぶぞー、床に書いた線の内側に入れー」
「入りました!!」
そして俺は手にしたスクロールをビリっと破き、ソーテーリアの砦内に作ってある転移の間に飛んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます