第122話 有言実行
「あ、ミゲールお帰り! なんて言ってた?」
『息子の現状が気になるらしくてー、本当に知りたいのかって念をおすと、やはり知りたいって言うからー、正直に過労死したって伝えたら泣いてたよー』
「……そうか……両親には申し訳ないけど、俺の為にも泣いてくれる人がいたんだな……」
思わず目頭が熱くなる。
『でもねー、こちらに転生済みっていうのも伝えたからー、せめてもの慰めにはなったはずだしー、息子の為に無理やり向こうに帰ろうとして、徒労になるのは防げたと思うよー』
そうか……。
その為に、わざわざ真実を伝えてくれたんだな……。
「ありがとう、ミゲール」
『あとー、ムネオがネオってことも伝えたよー』
「えっ! そこまで!?」
『転生した姿でもいいから会いたいっていうからー』
となると……
「これから……二人のこと、なんて呼べばいいかわからないな。身分的には呼び捨てが普通だろうが、昔の両親の名前を呼び捨てするのも微妙だし、今の俺が父や母と言うのもおかしいし……」
「愛称でもつけたら?」
「流石だ、ユージーン、その手が!」
「ところで戦場が小休止になったっぽいよ」
「戦場に小休止とかあるんだ? どちらか敗走した?」
「ザカロス軍が魔法で巨大な土壁を作って撤退した……」
「へー、ツェーザルロが強くて怯んだのかな」
『あっ、スクロールでネズミが入り込んだから、ソーテーリアに行ってくる!』
「えっ!?」
そう言ってミゲールは俺達の目の前から姿を消した。
俺は慌てて鏡の映像を自分の領地のソーテーリアに切り替えた。
するとソーテーリアにある山が映った。
そして、人を乗せたワイバーンが三匹!!
恐らくソーテーリアの砦方向に向かうつもりだ!
俺がいるかもしれないと考えて!
「竜に乗ってる敵が……あっちの竜騎士か!!」
「あ、ネオ! ソル卿ともう一人の竜騎士もいた! 応戦に行ってくれてるよ!」
竜騎士達が衝突した!
皆、槍で闘っていた。
敵に肉迫しては打ちこみ、躱されたり、掠ったり。
槍に魔力の輝きが纏わせてあるのか、光ってるから魔力強化してあるようだ。
「ホントだ! 槍で戦って……あっ、こっちは一人たりない!!」
「一匹がソーテーリア砦を目がけて爆走してる!?」
ヒヤリとした瞬間、そこへ何故か巨大化したミゲールが現れた!
「クラゲ!?」
敵の竜騎士が思わず前方を塞ぐように浮かぶクラゲに面喰らう。
『ここは通さないよー』
そう言ったミゲールは、触手をうねらせ、複数の細い針のようなものを敵に向かって撃ち出した!
細い光の針のようなものがワイバーンに突き刺さる!
「うわっ、なんだ!?」
『麻痺毒だよー』
ミゲールが親切に解説してくれたように、敵のワイバーンの目がぐるりと白目を剥き、そして、それは竜騎士を載せたまま、落下をはじめた。
「おい!? 気絶か!? 起きろおおっっ!?」
流石に自力では飛べない竜騎士は、ワイバーンと共に、絶叫しながら山に落ちていった。
「あの高さなら、墜落死だよね」
冷静に戦況を見ていたユージーンがそう語る。
「ああ、めちゃくちゃ頑丈で、仮に生きていてもしばらく動けないくらいのダメージは負ってるはず!」
『おつーー』
ミゲールがそう言うと、ソル卿ともう一人の味方の竜騎士が、敵を討ち取ったところだった。
敵はそれぞれ首や胸を穿たれ、衝撃でワイバーンから落ち、そのまま単身で森に落ちていった。
「討ち取った!!」
ソル卿が叫んだ。
『せっかくだし、貰おうかー』
主を失ったワイバーンにミゲールの触手が伸びて絡みついたと思ったら、ワイバーンの体がミゲールの魔力に包まれた。
絡ませていた触手を離すと、ワイバーンはミゲールの周りをグルグルと旋回した。
「なんだ? もしかして手懐けたのか?」
もう一人の竜騎士がそう言った。
『そうだよー、戦利品のワイバーンを貰ってソーテーリアに戻るよー』
「おい! 伯爵様のクラゲだ!」
城壁上の兵士がミゲールを見つけた。
「姿は見えないが、伯爵様は使い魔を援軍によこしてくださっていたんだな!」
「つまり遠距離使役が可能なのかぁ……すげーなぁ」
「ネオ様!!」
急にニコレットが礼儀も忘れて俺の天幕に入って来た。
「どうした!? 急患か!?」
「前線に出ていた父からの連絡があったのです!」
「あ、そっちか!」
「ザカロスをツェーザルロの王太子と王弟殿下が落としたようです!」
「は!? たった二人で!?」
「はい! ザカロス城がメテオで瓦礫の山になって! 軍事拠点も凄まじい雷撃魔法で落とされたと!」
「大丈夫か? 残敵の兵士に囲まれたりしてないか!?」
「うちの兄達がいつのまにか敵の王太子と王妃と王女も捕らえたそうですわ!」
今度はレベッカが報告に来た。
「敵が白旗を掲げましたわ! ツェーザルロの勝ちですわ!」
いつの間にかエマも来ていて、鏡を指さした。
確かに敵が白旗を掲げてる。
「戦争終結速くないか?」
俺がそう言うと、
「遅いよりは、よいかと」
エマがあっさりと言った。
「確かに……そういえば聖女はどうしてる?」
「食後からずっとお祈りを捧げてらしたようでしたわ」
ニコレットがそう証言した。
「聖女の加護もあったのかなぁ? ともかくよかった……」
爆速の終戦である。
━━俺、何もしてないや。
ま、いいか、両親と会って……飯作って……そのくらいしかやってない。
「では帰りますか?」
ユージーンがまた敬語に戻って聞いた。
「そうだな、帰ろうか……ちょっとだけ魔晶石貰っていいか、聞いてから……」
そして国王陛下に魔法の伝書鳥を飛ばした。
戦勝祝いの言葉と、お土産に魔晶石を少し貰ってソーテーリアに帰っていいかとお伺いをたてると、あっさり許可が出たので、帰ることにした。
ついでに貰った豪華なお土産の石に、うちのマーヤが大喜びした。
━━にしても、陛下はなるべく早く戦争を終わらせると言ったが、ここまでとはね。
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