第120話 不思議な鏡

 俺達は用意されていた天幕で寝ることにした。


 天幕は当然貴族と平民で分かれていたのだが、前世の両親は急に増えたメンツなので、平民魔法使いのコニーの天幕に入れてもらった。


 言葉は通じないかもしれないけど、寝るだけならなんとかなるだろう。


 そして俺は寝る前、異世界の言葉が通じない両親の為に簡単な日常会話をノートに書いた。

 この言葉はこう発音しますみたいな説明を日本で書いたのだ。


 おはようございます。ありがとうございます。申し訳ありません。分かりません。お腹がすきました。美味しいです。口に合いません。苦手です。体調不良です。問題ありません。寒いです。困っています。 


 とか、とにかく日常で使いそうな言葉を。


 ついでに何かあればこのノートをちぎって書いて俺に渡してくれてもいいとノートに書き記し、布団の中で就寝した。


 ◆ ◆ ◆


 洞窟内は暗いが、時間的には朝になってから俺は起きた。起床である。


『おはようございます。このノートに簡単な日常会話をメモしておいたので、よければどうぞ、他になにか伝えたいことがあれば、この紙を利用してください』


『おはようございます! ご親切にありがとうございます』


 父がノートを受け取ってくれた。


『あの、私はやはり息子に会いたいのですが、元の世界に戻る方法は、どなたに聞けばわかりますか?』


 多分帰れないし、よしんば帰れたところで、もう死んでるよお母さん……。



『それは……俺にも分かりませんが、念の為、外に出られた時にでも調べてみます。

 ひとまず今は戦争が始まったので、我々は隠れていますし、あなた方も終わるまでは出られません』


『せ、戦争ですか!?』


 ぎょっとする父母の顔色がみるみる悪くなっていく。


『はい……残念ながら』


 その時に、ふわりと現れたミゲール。


『クラゲ!?』

『クラゲが浮かんでるぞ!』


 ミゲールを見て驚く両親。

 得体のしれないクラゲが出てきて母は父にしがみついた。



「あ、ミゲール、ちょうどいいところに。 質問なんだが、異世界から迷い混んだ人は、どうやったら元の世界に戻れるか知ってるかな?」


『残念ながら一方通行で戻れないよー』

「やはりか………そんな気はした……」


 俺は残酷ではあるが、二人に真実を伝えることにした。

 必死で帰る努力して、徒労になるのも気の毒だ。



『このクラゲは俺の使い魔のようなものです。残念ながら一方通行で元の世界には戻れないそうです、人ではない神聖な存在がそう言うので、多分本当でしょう、嘘をつくメリットがない』


『……っ!!』

『おい、サナエ、しっかりしろ!』


 ショックをうけて、ガクリと字面に膝をつく母。

 洞窟の中は……今日も冷え冷えとしているのに……。



『天幕の中の方が温かいので、戻って休むといいですよ、後で温かいスープなど届けます』

『あ、ありがとうございます……』


 父は母を支えながら天幕に戻って行った。


「朝ごはんなにー?」

 アルテちゃんが起きてた。


「スープと、あとなんにしようかな」

「バナナー」

「なるほど、落ち込んでる時は甘いものがいいかもな、デザートはバナナにしよう」


「クラゲはなんで出てるのー?」

『あ、ネオに渡すものがあったんだよー』

「俺に?」

『この鏡で、前線とかネオの領地の様子が見れるよ』


 装飾の綺麗な四角い鏡が出てきた。

 フォトスタンドみたいに台の上に飾れる形態ている。


「めちゃくちゃ助かる!」


『他にも暇つぶしに娯楽アニメとかも自動翻訳で見れるんだー』


「自動翻訳?」 


『言語がちがっても、脳内ではその人の知る言語で再生されるよー』

「めちゃくちゃ便利!」

『しばらくの間だけ貸しておくねー』


 くれる訳ではないようだが、助かる!!



「早速領地の様子を見ても?」

『鏡の縁に触って、ソーテーリアって言うか、ツェーザルロ前線って言うんだよー。

あ、敵はツェーザルロ軍が衝突してないと見えないからねー』


 なるほど……。


 俺は天幕に戻り、テーブルの上に鏡の縁に触れ、

「ソーテーリア」と、呟いた。


 砦や村の皆はあわただしく動いていたが、まだ攻撃の手は届いてないようだった。

 ほっとしたところで、


「バナナとスープは?」


 アルテちゃんが天幕に覗きに来た。


「いかん! 忘れてた!」

「もーーっ」

「ごめん、ごめん」



 俺は急いで、スープとパンとハムとチーズとレタスの用意をして、ついでにデザートとしてバナナをつけた。


 そしてアルテちゃんには両親へ食事を届けてもらい、エイダには令嬢達の食事を運んで貰った。


 俺はユージーンを天幕に呼び、食事を急いで終わらせ、前線の様子を見ることにした。





















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