第118話 懐かしい面影

 丸太に乗って空を飛べば障害物もなく、最短距離で洞窟前まで来れた。


 魔法ってほんとに便利だな。

 魔力多すぎだと病になったりはするけど。


「無事に着地しましたわー」

「お疲れ様、ニコレット。そして魔力提供の皆もありがとう」

「「いえいえー」」


 もはや夜なので、洞窟の先もただ闇。



「さむい……」


 ブルッと身震いするアルテちゃん。

 俺はもうここからは人目もないなと、魔法の布から毛皮を人数分出してやって着せた。


 そしてついでに火の魔石を懐にセットさせる。



「しかしここが、アイスドラゴンの巣穴か……」

『ライティング!!』


 すかさずマーヤが魔法の灯りを灯してくれた。

 球体の光が、洞窟へ誘うように先行する。


「アルテいくよー」


 アルテちゃんが灯りの照らす方向に洞窟に足を踏み入れた。


「奥から冷気が漂ってきますけど、もうドラゴンはいない筈ですよね……?」


 コニーがこわごわとしつつ、足を進める。


「ああ、そのはずだが……」


 俺がそう言うと、


「きゃっ!!」


 急にエマがびっくりして悲鳴を上げた。

 壁際の氷柱に光が反射してる。


「したいー」

「これが氷漬けのご遺体か……」


 俺は思わず手を合わせてから、さらに奥へ進む。


「彼らの魂が安らかに眠れますように……」


 聖女のリーディアが清らかな祈りをささげてくれて、いくぶん恐怖が薄れてくる。


 しばらく歩くと、確かにそこかしこに氷漬けのご遺体がある。

 座り込んでいるうちに眠り、凍ってしまったようなものが多い。


 それは冒険者風、猟師風、旅人風、様々だったし、なんならたまに白骨死体もあるし、獣の骨らしきものもある。


 南無阿弥陀仏……南無阿弥陀仏……。


 心の中で念仏を唱えつつ、奥へ奥へと向かうと、チラホラ壁が光るゾーンがあった。

 水晶のような石が岩肌に見える。



「あ、魔晶石がチラホラ出て来ましたわ」

「へえ、確かに綺麗だ」

「貴重な魔法素材が、あちらこちらに……ちょっとだけいただいても?」


 マーヤが興奮し、目を光らせた。


「言えば少しくらいは貰えるかもしれないな」

「どなたに言えば?」

「え、国王陛下ではないか?」


「うーん、やはりそうですか」


 マーヤはがっかりした。

 でも盗掘防止にわざわざ死体もそのままにしてるくらいなんだぜ。ちゃんと訊かないとな。


「ネオ様を無事に守り通せば魔晶石も多少は分けていただけるでしょう」

「そうですよね!」


 ニコレットの言葉にまた元気になる現金なマーヤ。


 それにしても……ファビオラの父親が自暴自棄になるとは、よほど娘を大切に思っていたんだな、戦争を、起こす程に……。


 前世では幼い頃にも親に捨てられ、こちらの世界でも、追放され……すごい違いだなと、俺は思わずため息をついた。


 そして縛っ歩き続けた俺達は、ホールのようにかなり開けた場所まで辿りついた。

 美しい魔晶石がかなりある。


 その時、また氷漬けの遺体を見つけた。



「え?」


 そして、俺は絶句した。


「この遺体、この辺では見ない、珍しい服を着てますわね」

「夫婦のようですわ、男性が女性を庇うように抱きしめて……」


「お父さん……お母さん?」


 二人とも、リュックを背負っている。

 片方はスーツ姿の男性と、ジーンズと赤いニットカーディガンを着てる女性。


 これは、入院した知り合いの見舞いに着替えを届けて来るといって、昼過ぎには帰るから、お腹空いたらテーブの上のサンドイッチを食べておいて。


 そして何かあったらお隣さんに頼んでるからと……俺に言って家を出た……はずの両親だった……。


 あのまま二人はずっと帰って来なかったから、俺を捨てる為の、てっきり嘘の言い訳だと思った。


 なんで、こんな所に!?


「ネオのおとーさんとおかーさん?」


 アルテちゃんが、不思議そうに首を傾げた。


「違う……」


 違う、ネオではなく、ムネオの親だ。


 俺は思わず、膝から崩れ落ちた。


「ネオ!?」


 シンガリにいたユージーンが俺に駆け寄って来た。


「なんでこんなところに、俺の前世の親がいるんだよ……」


「前世? まさか、たまに異界から現れるという、時空の狭間に落ち込んだ人が…迷い込んで……」


 聖女がポツリと呟いた。


「ネオ様には、前世の記憶があるのですか?」


 ニコレットが問いかける。


「ああ、ある。俺の料理の知識は、実はそこからだ……」


 ついでなので洗いざらいぶち撒けた。


「な、なるほど、しかしこの方達、急速に冷凍されたならですよ、解凍すればもしや……」


 マーヤが呟いた。


「確かにこのお二人がアイスドラゴンの息吹で急に凍ったなら! 私、解凍を試してみますわ!」


 炎属性の魔法を使うレベッカがそう言って、魔力を氷漬けの二人に向かって放った。

 俺は呆然とそれを眺めてた。


「私もお手伝いします!」


 聖女がロットを構え、温かい光を両親に向けた。


 俺は……もしかして……本当の両親に捨てられた訳ではなくて、二人はうっかり不幸にも異世界に迷い込んで、帰れなくなっていたのか!?




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