第117話 丸太の用意
「このパン、硬いわね……」
レベッカが食堂の粗末なパンをひと噛りしてから、渋い顔をした。
「硬いパンはスープに浸して食べるんですよ」
庶民の魔法使いのコニーがそっと耳打ちして教える。
「ふーん、ありがと」
ぶっきらぼうに礼を言うレベッカ。
ツンデレに見えなくもない。
そうしてスープとチキンのハーブ焼きと硬いパンという、シンプルだが素材の味を生かした食事を終え、森へ向かうことにして席を立った。
そしてそのタイミングで、
「あんた達、宿は決まってるのかい? この村には宿はないんだけどね」
食事のオバサンが気にかけてくれた。
硬いパンの話は聞こえてなかったようで、よかった。
「えーと、どのみち団長達の病院代も工面する為にも、ただ食材を狩りに森に入るので野宿します」
テキトーに言い訳する俺。
「この寒いのに……大変だねえ。魔獣もたまに出るから気をつけるんだよ」
「はい、ありがとうございます」
まさかドラゴンの洞窟を目指してるとは言えないからな。
そして俺達は、幌馬車を村に預けてから、徒歩で森に入った。
「徒歩ですが、令嬢達は大丈夫ですか?」
しばらく森を進んだ後で、ユージーンが令嬢達を気にかけた。
「ユージーンさん、私が皆に身体強化の魔法をかけます」
「それはよかった、マーヤさん、ありがとうございます」
チームワークって素晴らしいな。
しばらく進んでいたら、魔法の伝書鳥が飛んで来たので俺は自分で読み上げた。
「ソル卿がニコレットの侍女のマリアンを実家に送ってから追って来てくれるらしい、ワイバーンで」
「なんと、伯爵様がもらえるという噂のワイバーンですか?」
魔法使いのコニーが何やら興味津々だ。
「そのようだ、ユージーンより先に乗ってしまうが」
「ソル卿ならいいと思いますよ」
ユージーンは特に気にしてないようだ。
どの道、誰かが届けてくれないといけないしな。
ちな、俺にといわれた竜騎士の方は俺の領地のソーテーリアの防衛にあたってくれるらしい。
空からの目があるのはいいな。心強い。
なんて考えている時に、今度は開戦の狼煙が上がったと伝えに、また魔法の伝書鳥が飛んで来た。
結局、かなりの犠牲を払ったにもかかわらず、娘を失った悲しみで自暴自棄になったのか、ファビオラの父親が、俺の存在をあちらの王に伝えたようだ。
ザカロス国は俺の身柄を要求し、ツェーザルロは当然跳ね除けた。
何しろ王までもあの病にかかったのだから、唯一の治療師を手放す訳がない。
故に、両国の衝突は免れなかった。
しかし、おかしな話だよな、俺なんか患者の胸を揉んでいただけなのに……奪い合おうとするんだからさ。
身体強化の魔法のでしばらく森歩きをした後に、休憩がてら夕食を食べる事にした。
まずは焚き火で暖をとり、俺は魔法の布から料理道具とテーブルと椅子、そして調味料と食材を取り出した。
「鋭気を養う為に、今夜は牛肉のステーキだ」
黒毛和牛とかではなく、水牛だけど!
しかも肉はあらかじめ舞茸で柔らかくしておいたやつ。
肉を火にかけると、ジューッと、いい音、そしていい匂いがしてくる。
「あら、美味しそうですわねー!」
珍しく臨場感のある音を間近に聞いて、喜ぶレディ達。
ちゃんとステーキソースや甘いにんじんも添えて、つやつやした葉っぱをまず皿に乗せ、その葉の上にステーキを飾るように置いた。
ちなみに葉っぱは後で捨てる。
「このステーキソースがまたお肉の美味しさを何倍にもしていますね!」
「おいちい」
「この脂、甘い気がします」
女性達が口々に褒めてくれた。
「ありがとう、皆、寒いのに付き合わせてすまないな」
「そんなこと、お気になさらないでください、ネオ様」
エマが優しく慰めてくれた後に、
「でも、そろそろ歩くのに飽きて来ましたわね……」
などと言う、ニコレット。
「しかし、まだ例の洞窟まで到着していませんから」
ニコレットをなだめようとするユージーン。
ニコレットはステーキを食べ終え、やおら椅子から立ち上がり、一本の木を目に止めた。
『ウインドカッター!!』
急に魔法の風で一本の木を切り倒したニコレット。
「おいおい、木に八つ当たりか?」
俺がびっくりしてニコレットに声をかけると、
「違います、この木の幹に乗り、夜の闇に紛れて空を飛ぼうと思います」
「え!? 空を飛ぶだと? そんな事が出来るのか?」
「そこのレベッカ嬢やエマ嬢や、魔法使い二人が魔力を分けてくれたら、恐らく可能なので横並びに幹に座って手を繋いでくださるかしら?」
空を飛べるだなんて!
ニコレットは流石魔力が豊富で病になるだけはあるな……。
「「はい! 喜んで!!」」
彼女等は勢いよく返事をした。
そして邪魔な枝をユージーンが前に拾ったオークの斧で切り落とし、命綱で皆と丸太を縛り、下準備ができた。
「よろしい、ではコントロールは私がします」
ニコレットが舵をとるので、先頭に座った。
そこから、レベッカ、エマ、マーヤ、コニーという順番で横向きで座り、手を握った。
そしてその後列、俺の前にアルテちゃんを前向きに座らせ、自分は丸太に紐をくくって手綱のように手に持ち、次にエイダ、シンガリにユージーンという陣形で宙に浮かぶ丸太に乗った。
「ニコレット、準備できたぞ」
「はい、では上昇しますわよ!」
月明かりの下、俺達は丸太に乗ったまま上昇していく。どんどん上昇する、森の木々の上まで来た!!
うわーーーーっっ!!
ジェットコースターより怖い!!
けど、男の俺が弱音を吐く訳にはいかない!!
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