第116話 村の食堂で絡まれる。
「それとこれも陛下からですが、砦の騎士や傭兵と連絡がとれる魔道具です。片方は騎士、片方は傭兵隊長に渡しておきます」
それはブレスレット型の魔道具だった。
水晶のような飾りがついている。
「おお、よかった! ありがとうございます!」
これで離れていても連絡がとれるし、戦況は気になるからな。
「そしてこちらは緊急用のスクロール4本です。往復2回使えるようになっており、転移先は指定できます」
「何から何までありがとうございます」
そして俺は観念して女装した。
令嬢達も変装用の衣装を用意されているらしく、別室に向った。
しばらくして女性達が別室で着替えてきたのを見たら、旅の踊り子とか歌姫イメージらしく、こんな時ではあるがなかなか良いものが見れた。
おっぱいの強調されてる服って、いいよね……。
ちなみにエイダやアルテちゃん、魔法使い二人はフードつき外套で地味な装い。あと、聖女は羊飼いか小間使い風な。
その後、俺達は城の地下にある秘密の転移ゲートに案内された。
なるほど……有事の時にここから逃げられるんだな。
抜け穴よりは怖くなくていいかもな。
転移魔法を起動するのに少し時間がかかるといわれて、俺はユージーンに話しかけた。
「ところでユージーンは戦争で手柄を立てるチャンスだと思うけど、本当に俺について洞窟に行ってもいいのか?」
「はい、手柄に興味がありません、主を守るのが最優先です」
「自分の騎士領とかほしくないのか?」
「領地経営が忙してくて護衛任務がおろそかになると元も子もないので」
「な、なるほど、じゃあ護衛騎士引退考える時期にでもなったらどこかの土地を分譲するよ。そしたらよくないか?」
言われてユージーンは少し考える仕草をした後に、
「考えておきます」と、応えた。
「起動準備、完了いたしました。では、皆様で魔法陣の中へ」
「はい」
我々は魔法陣の中に立った。
「このゲートは今から洞窟の最寄り神殿へ向かいますので、あとはこの地図を頼りに向かってください」
「分かりました」
起動前にささっと侍女が地図を渡して来たので、俺はそれを懐にしまった。
『ゲートオープン!! 転送開始!』
魔法使いがそう言うと魔法陣が光りだし、我々は見知らぬ土地の神殿へ転移した。
ツェーザルロ国内ではあるが、俺は初見だ。
神殿には魔法の伝書鳥が知らせをしていたのか、既に神殿側に幌馬車の用意がされてあったので、ヒッチハイクはまぬがれた。ただ、御者はいなかった。
「僕が御者台に乗ります」
「そうか、ありがとうユージーン、じゃあ俺も御者台の隣に乗るよ」
「寒いですよ?」
「変装中だ、敬語は無しで」
「あ、そういえば……」
「アルテも御者台に行くー」
フード付きの外套に身を包んだアルテちゃんがピョンと跳ねた。
「なら猫を抱っこして御者台に乗ろう、多分温かいから」
「アルテちゃんはしっかりフードを被るんだよ、耳が見えないように」
ユージーンは仕方ないなと言う顔で許してくれた。
「はーい」
アルテちゃんは顔を隠すようにフードをきゅっと引っ張った。
「アルテ、御者台で暴れないようにね」
「わかってるー」
エイダが心配してるが、まあ大丈夫だろ。
俺とユージーンは御者台に乗り、女性達は幌馬車に乗りこむ。
綺麗どころは隠した方がいいし、寒いから中の方が良いはず。
アルテちゃんを膝に乗せつつ、そろそろ昼の一時になるなと気がついた。
森に入る前に幌馬車を預かってもらわないといけないし、 最寄りの村の中で何か食べよう。腹が……減った。
幌馬車をしばらく走らせ、村の敷地内に預けてから、俺達は村の食堂へ向った。
令嬢達の口には合わないかもしれないが、寒い冬の森の中での食事よりは多少マシかと思う。
食堂には仕事の合間、昼休憩の者か、昼から酒を飲んでる男達が数人いた。
「おや、あんた達、旅芸人かい?」
酒を飲んでた男が声をかけてきた。
「ええ、そうです」
「ひゅー♫ えらい綺麗どころが揃ってるじゃないか」
やはり令嬢達が目立ってる!
寒いけど森で食事した方がよかったかな?
令嬢達の笑顔が引きつっている!
あ! 村のおっさんが、ニヤニヤしながらテーブルから立ち上がったと思ったら、ニコレットに手を伸ばした!
すかさずその手をつかむ俺!
「はいはい、踊り子さんと歌姫にはお手を触れないでくださーい」
俺は女装中なので、高い声を使って喋る。
「ちぇ、少しくらいいいじゃねーか」
「うちの姫達はとてもお高いのでー」
「お酌頼むといくらだよ?」
「そーですねー、金貨10枚ってとこかなぁ」
「お酌だけで!? 高過ぎだろ、それで一晩お願いしたら幾らになるんだよ」
「王族の王子様にでも産まれ変わってきてくださーい」
「王族ぅー? 高過ぎだろ」
「けっして安売りはしませんのでぇ」
「じゃあ、あんたでいいや」
マジかよ! お前正気か!?
「えー、私ですかー? ただの護衛の魔法使いなんですけどぉー」
「ああ、冒険者の護衛かぁ」
「そんなとこでーす」
「おい、いいかげん、うちのもんに食事をさせてくれよ、おっさん」
ユージーンが圧を込めておっさんに言った。
彼の腰には剣があるので、護衛の剣士にでも見えるだろう。
「う、しかたねーな」
ユージーンにすごまれておっさんはすごすごと引き下がって自分のテーブルに戻ったら、店員のおばさんが俺にメニューを手渡して来た。
「決まったら呼んでおくれ」
「適当におすすめを」
「ああ、分かったよ。にしても女ばかりの一座だね? そんなんで大丈夫なのかい?」
やばい、おっさんがいなさすぎたか!?
「オジサン達は腹痛で倒れたのでまとめて病院に置いてきましたぁ! あと、用心棒の剣士が強いのでー、大丈夫でーす」
「へえ、顔だけじゃないんだねぇ」
おばさんはちょっと失礼な事を言って厨房の方に向った。
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