第114話 内密に。

 とりあえず朝を迎えてから、ユージーンには戦争の気配があると伝えることにした。

 気になって眠れなくなるといけないので。


 ◆◆◆


 チュンチュンと小鳥の囀りが聞こえて来て、瞼の上に陽が……差してる。


 メイドが今、窓のカーテンを開けたのだ。

 一応施術や移動で疲れてはいたので俺は寝れたな。



「おはようございます、伯爵様。じきに朝食の時間になりますよ」


「そうか、ユージーンはどこか知らないか?」

「日課の鍛錬の為に庭を借りたいと仰せでしたので、庭でございます」

「ありがとう」


 メイドの言葉によれば、もうユージーンは早朝から剣の素振りなどをしてるそうだから、俺は顔を洗ったり、身支度をしてから庭に向かった。



「あ、ネオ、おはよう」

「おはよう、ユージーン。ちと込み入った話があるんだ、そこの木の陰ででも」

「うん?」


 俺は広い庭の木陰にユージーンを引っ張りこんだ。ヒソヒソ話をするからな。



「昨夜寝る前にまた魔道サロンを覗いたんだが」

「うん」



 ユージーンには本当に君はそれが好きだなって顔をされた。



「隣国が武器や食料をかき集めてるという噂があってな」

「!!」

「まあ、実際にこれを見てくれ」


 俺はスマホ的な魔道具をポケットから取り出し、ユージーンに見せた。


「……確かに、きな臭いね」


 彼はとても真剣な顔で端末を眺めている。


「なあ、貴族って特権階級は戦争に出るもんだよな? てことは俺もでるよな?」

「唯一の治療師が危険な前線に出るのはおかしいよ」


「でも普段贅沢な暮らしができるのは、いざ戦争になったら戦いに行き、領民の皆の生活や命を守る為のもんみたいなもんだし……」


「この話が本当なら、聖女と君は一番安全な場所に隠れているべきだよ」

「やー、どうなるかな」


 俺は思わず天を仰いだ。


「とにかくすぐに王城から使者が来ると思うから、このまま王都にいたほうがいいよ」


 それはそうだろうな。


「でも領地にも有事に備えろと連絡は入れておかないと、下手すれば俺と聖女が目当てなら俺の領地が目的地の戦場になる」

「国が兵士を沢山よこして守りをガチガチに固めてくれるとは思うけどね」


 ひとまず魔法の伝書鳥をニコレットに飛ばしてもらおう。


 俺は朝食の為に貴族用の食堂へ向った。



「おはようございます……ネオ様」


 ニコレットは先に席についていた。


「おはよう、ところで魔道サロンを見たかな?」

「はい……」


 彼女のその重苦しい表情で、魔道サロンの情報を彼女も見たのは察せた。


「後で魔法の伝書鳥を貸してくれ、領地の防衛を固めなくては」

「はい、あ!」


 魔法の伝書鳥が窓の外からすり抜けて飛んで来た。

 霊体のように。


『ネオ伯爵と聖女は王城へ来られたし、身の回りに細心の注意を払うべし』


「承知しました、聖女を呼び寄せます……」


 俺は鳥に簡潔に答えた。


 でも聖女以外もアルテちゃんとエイダと、俺の保護下にいるマギアストームの患者をまとめて呼び寄せるようにニコレットに頼んだ。


 俺が側にいないと、発作が起きた時に対処出来ないから。


 ◆ ◆ ◆


 そんな訳で俺はまた昨日の今日ではあるが、国王陛下のところにユージーンを伴って拝謁しに来た。


 そして人払いをされた蜜室で、陛下からとんでもない話を聞いた。



「ドラゴンの巣穴へ向かえ? このタイミングでドラゴン退治をせよと?」


「実は……そこのドラゴンは既に倒されている」


 王様は声を潜めてそう言った。


「ん?」

「私が王となる試練にて、弟達と倒した」

「すごい」


 王様と王弟殿下ってドラゴンスレイヤーだったんだ!


「しかし、表向きにはドラゴン一匹は倒したが、二匹目がいたということになっている」

「え?」

「一匹でもドラゴンを倒したなら、試練はクリアということになっているから」

「? 二匹目は本当はいないのです?」


「ああ。実は貴重な魔晶石が採れる場所でな、一般の者が近寄らないよう、そんな噂を流している」


「な、なるほど」

「アイスドラゴンの洞窟は寒くて気持ちいい場所ではないが、中はけっこう広いし、天幕も張れる。ちゃんと魔道具で天幕の中は温かくなるようにするから、しばらくそこで隠れて生活してくれ」


「あの、気持ちいい場所ではないとは? 魔晶石て気持ち悪いものなのですか?」


「魔晶石はとても美しいよ、でもドラゴンの巣穴は、氷漬けの死体が多いし、人間の死体もある」


 ヒィ!!


「昔何も知らずに洞窟に入って氷漬けにされた人間か、命知らずの冒険者が挑んだのか、とにかく氷漬けの死体がそこかしこにあるんだ。入り口付近で入った者がすぐさま引き返すように、死体もそのままにしてあるし、採掘担当と警備の人間はもう少し奥に進んだ場所にいる」


「な、なるほど、確かに氷漬けの死体だらけの怖い場所にずんずん進むのは命知らずな人か獣だけですよね」


 王様はこくりと頷いた。



「なので申し訳ないが、戦いが終るまでしばらくそこで隠れ住んで欲しい。戦争はなるべく早く終わらせるつもりだ」


「しかし、皆が命がけで戦うのに自分は安全な場所で待つなんて……」


「そなたが死ぬような目にあったり奪われては元も子もないから聞き分けてくれ。それに安全ではあるかも知れんが気持ち悪い場所ではある」


 確かに!!


 ずっと死体の側にいる生活はメンタル病みそうだからホントに早く終わらせて欲しい。


「分かり……ました」


 俺になにかあると、ニコレット達の治療もできなくなるからな……。



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