第112話 夜の出来事
それは夜の9時くらいのこと。
チョコの実とバナナとチョコバナナケーキを用意して、さて明日は朝から王都のタウンハウスにいるニコレットと合流し、茶でもしばいてから昼頃王城に向かうか!
という状態になっていたら、急に俺の元へ魔法の伝書鳥が飛んできて、嘴を開いた。
『ネオ伯爵、至急王城まで来られたし。繰り返す、至急である』
「え? 王城から至急? 今すぐに!? わ、分かりました!」
明日、ニコレットと茶をしばいてから優雅に参内する時間的余裕がない!
仕方ないので、ニコレットに耳の飾りの通信で今回は護衛騎士と先に行くと知らせた。
なんだろう?
他国から賓客が来て、すぐにバナナやチョコでもてなしたいとかなんだろうか?
幸い既にケーキと素材も魔法の布に収納してあるから、すぐさま砦内にいるユージーンを呼びつける。
「ユージーン! 王城に至急向かうことになった! 同行を頼む!」
「承知しました!」
そんな訳で、魔法の転移スクロールで最寄り神殿へと到着し、それから馬をとばし、王城へと向かった。
テロ対策などで安全のため、王城内への直通ではないのである。
「至急来られたしと伺って参りました、ソーテーリア伯爵とその護衛騎士です」
門番にそう伝えると、我々はすぐに通された。
「こちらへどうぞ」
次に騎士に案内され、広い王城内を早歩きで進む。
やたらに急いで豪華そうな部屋の扉の前に来た。
「護衛の方はこちらで待機を」
「はい」
ユージーンは扉の側の廊下で待機を命じられた。
侍女も扉側に控えており、彼女がノックをすると中から返事があり、すぐさま扉は開かれた。
するとすぐに大きな寝台が目に入った。
そしてその側に青ざめた顔の王妃様が……。
え!? 王妃!?
そして、俺の目の前に現れたヒゲの男性が切迫した表情で伝えてきた。
「私は宮廷医です! 陛下がマギアストームを発症されました! 治療をお願い致します!」
な、なんだって!?
「陛下が!?」
「伯爵! 早く陛下を治療してください!」
王妃の叫びを聞いて、俺は反射的に天蓋付きベッドに駆け寄った。
すると蒼白な顔で苦しむ陛下が、確かにベッドの中で悶え苦しんでいる!
血管が浮き出て、すごく苦しそう!
って、待ってくれ!
王妃様の前で、俺が王様の胸を揉むのか!?
「あの、王妃様はご自分の部屋にお戻りを!」
と、一応お願いしてはみたが、
「何故ですか!? 私の夫が苦しんでいるのですよ! 最後まで見守ります!」
そ、そう来たかーー! やっぱり駄目か!
「では、あくまで治療行為ですので、お怒りになられないでくださいね」
「ううっ!!」
胸を抑えて苦しむ陛下!
「早くしてちょうだい! 陛下が!」
「はい! ただいま!」
俺は手の平に意識と力を集中させた。
「陛下、失礼します!」
王室の護衛騎士がそう一声かけ、陛下の両肩を押さえつけ、横向きから仰向けにしてくれた。
『魔力吸収!!』
逆に考えたら、王妃様の胸を国王陛下の前で揉むよりはまだまし!!
人妻より夫は同性だから、まだマシである!!
「あ……っ、くっ……うっ」
陛下が俺の手で、胸をさせられて悶えている。
「陛下……っ!! おいたわしい!」
王妃は涙声で心配そうな声をかけるが、妻に、男の俺に胸をずっと触られてる姿を見られてるのもおいたわしいが!?
「はぁっ、はぁっ……っ!!……はぁ……」
あ、でも、徐々に陛下の呼吸が安定して来た!
ラストスパート!!
体内で乱れた魔力を調整する!
モミモミモミモミモミモミモミモミ!!
中々立派な胸筋を揉みほぐす!
「はあ……はぁ……あぁ……痛みが……消えて……消えた……」
「陛下!! ようございました!!」
医者も感極まった声を漏らした。
「陛下っ!!」
「后よ……心配をかけたな……」
「さ、最近流行りの占い師が、ソーテーリア伯爵のスケジュールを確保していたほうがいいとか、なんのことやらと思いましたら、よもや陛下が病になるなんて……」
!!
「私はてっきりダンジョン産の収穫物にご興味があるのかと……」
「理由は何でもいいから、ソーテーリア伯爵をこちらへ呼んでおく方がいいと言われたのです」
「その占い師、すごいですね。まだ王城におられるのですか?」
「城にはおりません。ジプシーらしくてもう旅立ちましたし、先日たまたま侍女からよく当たる占い師が城下街へ来ているという話を聞きつけてから、慌ててお忍びで行った時にたまたま……」
「お忍び!?」
「い、今のは聞かなかったことに! 本当は息子と公爵令嬢の相性を見てもらおうとしただけですのよ!? 最近聖女まで現れたので、どちらが良いのかと」
「恐れながら、王妃様、婚約破棄はイメージが悪うございます……王太子殿下は既に公爵令嬢とご婚約されてるのですよね?」
「ま、まあ、そうなのですけど、なにしろ聖女が現れたので……」
「公爵令嬢は昔から厳しい后教育を受けてきているのだ、今更約束の反故などできないだろう……」
陛下が起き上がって水を手に、王妃様を諭す。
「は、はい……それは、そうですわよね……」
陛下はゴブレットから水を飲み、すっかり落ち着きをとりもどしたようだ。
「伯爵、急に呼びつけてすまなかったな」
と、陛下が俺にも優しく声をかけてくださった。
知的な雰囲気のイケおじ。
「いえ、緊急事態ですので……あ、問い合わせのあったダンジョン収穫物をお持ちしました」
俺は懐から魔法の収納布を取り出し、からに魔法陣の中からバナナ、チョコなどをふろしきのような布に包んでいたのを取り出し、そのへんにあったテーブルの上に置いた。
そして、最後に取りだしたのは、
「チョコとバナナを使ったチョコバナナケーキも御用意させていただきました。なんなら今から私が自ら切り分け、毒見までいたしますが」
途中でケーキに毒でも盛られたら俺のせいになりそうなので、今すぐに勧めた。王宮は怖いから。
「そういえば、痛みのあまりに夕食を吐いたせいで急に空腹になってきたな」
よし!! 陛下も乗り気だ!
「すぐにカトラリーの準備をいたします」
侍女がそう言うと俺はすかさず、
「念の為に皿とナイフとフォークは銀でお願いします!」
「かしこまりました」
そして侍女から銀食器を借り、俺はケーキを自ら切りわけた。
「では、陛下、お好きなケーキを指さしてください、私がまずそれを一口毒見します」
「ではそれを」
陛下は無造作に自らの手前の方にあるケーキを指さしたので、俺はケーキをぐるりと回転させ、陛下の指したケーキを自分の皿に取り、毒見ですと断ってから、それを口にした。
「問題は……ありません」
先日食べた試作品と同じで、美味しい。
「そうか、ではいただこう」
陛下と王妃の皿にケーキを置いた時、バタンと寝室の扉が開いた。
「父上! もう大丈夫なのですか!?」
急に王太子が部屋に飛び込んで来た!
「ヴィーラント、部屋にいろと言いつけておいたのに」
「心配でつい! って、何故今、呑気にケーキを食べているのですか!?」
「夕食を戻して腹が減ったからだ……」
陛下は誠に素直な方である!
「はぁ……」
王太子は脱力し、ソファにどかっと腰掛けた。
「まあ! このケーキ、とっても美味しいわ!」
いつの間にか王妃が先に食べてた。
「私にもそのケーキを」
「はい、王太子殿下」
王太子も食べたいらしく、侍女はすぐに切り分けたケーキを皿に移した。
「「……美味いな!!」」
陛下と王太子のセリフが被った。
流石親子だ、息が合う。
「残りは全て私の部屋に運んでちょうだい」
しれっと侍女に言いつける王妃。
「はい、王妃様」
「「え!?」」
また陛下と王太子のセリフが被った。
「何か問題でも!? 夜中に急に心配させられたんですよ! 私は! 甘いものくらい食べます!」
そう言って王妃はチョコバナナのホールケーキの残りを全部自分のものにした。
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