第111話 知らせ……。

 ◆◆◆ 〜ネオ視点〜 ◆◆◆


「ファビオラが事故死した?」


 ある冬の寒い日の朝、最近伯爵になった俺の元に文官が訃報をもってきた。



「はい、ネオ様。バルコニーから飛び降りたらしいのです、おそらく幻覚を見て……」   

「そうか……幻覚で……」



 朝から元婚約者の物悲しい訃報が届いてしまった。

 娘を溺愛していたネーリグ侯爵はさぞショックを受けているだろうな……。


 せっかく娘を助ける為にツェーザルロを優遇したのに……。

 しかし、娘が急死したからといって、今更約束した条件の変更などできない。


 俺はその日、元婚約者で、今はただの治療師と患者の関係ではあったが、一応は黒い服を着て過ごす事にした。



「ネオ……黒い服……どなたか亡くなった?」

「ああ、ユージーン、ファビオラが事故死したんだと」


 夕刻に夕日の中で、砦の城壁の上で剣の素振りをしていたユージーンと鉢合わせした。



「ファビオラ嬢が……そうか」

「麻薬の後遺症が抜けてなくて、幻覚を見たのか、バルコニーから飛んでしまったらしい」

「そう……やっぱりネオも悲しい?」


「なんというか……ボロボロになって必死に他国まで来て俺に頭を下げたのに、やけにあっさり死んだから、さすがにもの悲しくなってしまうな」

「そう……」



 砦の上の方から、主婦が落ち葉を集めて燃やしている姿が見えた。

 煙が……砦の上の方にいる俺達よりも、高く高く、空に登っていくのを……俺はしばしユージーンと二人して、静かに眺めていた……。


 ◆ ◆ ◆


 その夜は俺がなんとなく物悲しい気分でいたのを察知したのか、アルテちゃんが俺のベッドに潜り込んで来て、俺の腹の上で寝た。

 温かい……。猫かわいい、癒される……。


 ──このしばらく後に、ジョーベルトの父の訃報を某掲示板で見つけたが、そちらはわりと、どうでもよく、天罰だよなと、思っただけだった。


 ◆ ◆ ◆


 冬の昼時。


 執務室で仕事をしていた時の事。

 「滝付近の水質検査の結果、やはり気力と魔力回復に効くようです。病院や騎士団や、冒険者ギルドなどからも需要が見込めます」


 文官の説明を聞いて、俺は思わず膝を打った。


「ほほーそれは朗報! 流通ルートを確保せねば」



 資金源が増える! 領地が豊かになる!



「加えて、てん菜、カカオの実やバナナの方も既に噂が出回って問い合わせがきております」

「おお、耳が早いな。何処からだ?」

「ツェーザルロ王室です。転移スクロールまで付いておりますよ」


 王室! 転移スクロールつきなら持って来いと言ってるようなもの!


「それは……てん菜はまだ砂糖に加工してないからチョコレートとバナナを献上した方が良さげだなぁ」

「では伯爵様、荷物の、貢ぎ物の手配をしますか?」

「スクロールつきだし、直接持って行くかなぁ」



 俺は耳の飾りの魔道具で、ニコレットに王都へ向かうという内容の連絡を取ったわけだが、彼女と行くこととなった。


 そして俺はその時には、チョコバナナケーキを手土産に王城へ向かう事にしたので、今から試作品を作ることにした。


 俺は早足で厨房に来た。

 そして魔法の布から続々材料を出して揃えたので、今から指示出し、料理人にレシピを覚えてもらう。

 

「まず材料だが、バナナ、チョコレート、小麦粉、天然酵母、砂糖、卵、 牛乳、バター、油、塩少々ってとこだ」

「はい!」


「下ごしらえ として、薄力粉をふるっておき、バナナは2本をフォークで潰し、1本は1cm幅にスライス 」

「はい!」


 俺の指示したとおりにいてくれる料理人達。


「型に油を塗り、オーブンは良い感じに予熱しておく」

「はい!」


「ボウルに液状のチョコレートと溶かしたバターを入れる。最初は分離した状態なので、ツヤが出るまで泡だて器で静かに混ぜ合わせる」

「はい」


「振るった薄力粉とバナナを加えて混ぜ、少し粉っぽさが残るくらいで潰したバナナを加え、よく混ぜる。バナナが見えなくなったら、混ぜるのをやめる」

「はい!」


 そしていよいよバナナをのせ、焼きの作業だ。


「型に生地を流し入れて、スライスしたバナナを表面に飾るようにのせ、 予熱しておいたオーブンで50分ほど焼く」

「はいっ!」



 ──そして、約50分くらいした後。



「ケーキが冷めたら、お好みで粉砂糖をかけ、あとはカットして食べるだけだ!」


「はい! ところで味見をしてもよろしいでしょうか!?」

「よし、許す! そして私も味見する!」

「はい!!」


 厨房の皆とチョコバナナケーキを味見した。


「よし! 美味い! チョコの味も濃厚!」



 俺はケーキの味に満足した。



「はい! とても美味しいケーキです!」

「最高ですね!」

「これなら王妃様もお喜びでしょう!」



 料理人達も満足のいく出来栄えで、誇らしげだった。

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