第109話 父との約束と日常の一コマ。

 〜〜 ユージーン視点 〜〜


 湯が沸き立ち、光を反射するその様を宝石のようにキラキラした琥珀色の瞳が見つめてる。


 寒い冬に見つけた、輝き。


 じっと見てると、美味しそうな匂いもしてくる。

 冬でもわりと暖かく晴れた日には、彼はたまにこうやって砦の庭の共同カマドで料理をする。


 普段は砦で働く女性達がパンなどを焼いたりしているのだが、たまにネオも使いつつ、料理のレシピを主婦達にも少しずつ広めている。


 異世界から来たらしい、稀有な存在。

 珍しい料理を、色々知っている。


 前世で料理が趣味だったと語っていた彼は、慣れた手つきでガーリックパウダーに塩コショウをまぶしたエビを焼いていく。


 ……いい色に焼けたようだ。


 リボンみたいな蝶々みたいな形のパスタを茹であげ、それに惜しげもなく削ったチーズを沢山ふりかける。


 エビと組み合わせて素晴らしく美味しそう。

 若々しい緑色のベビーリーフもふりかけ、


「できたぞユージーン、温かいうちに一緒に食べよう」


 微笑んで、テーブルセットの上に料理を並べ、勧めてくる。彼の料理は、いつも美味しい。



 この人が、僕が選んだ主人。

 人を笑顔にできる、料理を作れる人。

 名前はネオ。

 かつてジョーベルトだった人。


 亡くなった父が、死ぬ前に言った言葉を思い出す。



「お前の真の力は、お前が選んだ主人が正しく力をふるえるようになるまで、隠しておくんだぞ」

「お父さん……」



「かつて西の勇者を看取った時、俺が勇者の力の一部を譲渡された。俺が死んだら、その力は息子のお前に移行する……分かったな?」


「はい、父上……受け取りました」



 ──父は、先代のビニエス家当主に恩義があったから、あの家に仕えていた。

 祖母が病気の時、高価な薬を分け、助けてくださったらしいし、その恩義で母も乳母として、ジョーに尽くした。。


 正直、先代とジョーベルト以外は好きじゃなかった、あの家の人間は。


 うちの家族以外で、ビニエス家で優しいのはあの二人だけだったのだ。



 ──かつてジョーベルトだったネオの銀髪がきらきらと光を受ける。


 次に揺れる尻尾の先端の白が視界を横切った。


 猫の獣人族のアルテちゃんだ。

 美味しそうな匂いに惹かれて来たんだな。


 この子も、晴れた日の湖面の輝きのように綺麗な青い瞳をしている。


 この間は聖女のリーディアさんと台所の仕事を手伝って、一緒に泣きながらタマネギを刻んでいて、かわいそうだけど健気でかわいかったな。


 だいぶんタマネギが染みたのだろう。

 途中から、うさぎ獣人のエイダさんと交代し、ネオからレシピを教わったハンバーグを作ってくれた。



 ネオと、僕と、アルテちゃん、エイダさん、聖女のリーディアさんと5人で、まだ温かい湯気の立っている間に室内に運び、ネオが作ったエビのパスタを美味しく食べた。



「ご馳走様でした」

「美味しかったですー」

「おいちかった」


「片付けは私におまかせください」

「ありがとう、エイダ。冬は水が冷たいから火の魔石を使ってくれ、渡しておく」

「ありがとうございます」


 火の魔石で水をぬるま湯にできるからね。


「アルテもエイダのお手伝いするー」

「ありがとう、アルテ」


「あ、私もお手伝いします!」

「まあ、聖女様まで、ありがとうございます!」



 片付けは女性陣が引き受けてくれたので、食事の後、僕とネオは畑に向かった。


 先日ダンジョンで見つけ、移植したてん菜の様子を見る為だ。


 良かった。

 枯れてる様子はない。

 このまま順調に育つといいな。


 畑を眺めながらネオが静かに語る。



「婚約式は春になったら王都のタウンハウスでやるから、冬でも建築工事を頑張ってるらしい」


 いよいよ彼も結婚するんだ。

 なんだか、感慨深い。

 かつては婚約破棄などされていたが……あ、あれはジョーの方だけど。



「そう、土魔法使いを総動員して屋敷を作っているんだね」

「はは、オラール侯爵が娘の為に持参金として贈るものだから、頑張ってくれてるな」


 オラール侯爵は、ニコレット様の父君だ。


 そう言えば、ネオが少し前に、僕を気にしているらしい貴族女性へ紹介状を送ると行ってたな。


 僕は主を変えるつもりはないから、もし移籍をと願われて、断っても恨まないでいてくれるレディだといいけれど……。



「一応、聞いておきたい、ユージーンの好みの女性ってどんな?」



 多分僕の幸せを願って、こんな事を聞いてくるんだろう。



「そうだね、自分以外の誰かの幸せを願える人かな」

「優しい人ってことだな、なるほど、容姿とかは?」

「特にこだわりはないけど」


「そんなことあるか!? 胸がでかいとか尻がでかいとかさ、何かあるだろ」


「好きになった人が好みになるかもしれないじゃないか」

「あ、あー、確かに。それはあるか……」

「逆にネオの好みは?」

「うーん……」


 彼は言葉を選んでるようだ。三人の夫人候補の共通点を脳内で探してると予想する。


「そんなに悩む?」

「あ、あれだ。肌が綺麗な人」

「……なるほどね」



 貴族令嬢は過酷な仕事をしないし、そのへんの村娘よりは肌が綺麗なはず。

 優しい彼は、このように、よく気を使うのだ。

 本人達が、側にいない時にまで。


 





























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