第108話 戦利品

 俺は念願のてん菜を手にした。

 とはいえダンジョン全域を探索した訳ではない。


 しかし踏破はまだとはいえ、無理はしないと言って出て来たので、


「よし、帰るか」

「はい!!」


 満場一致で帰ることにした。


 滝から出て、ダンジョン内の今まで見てきた階段ではなく、何故か魔法陣のゲートがあるところまで来たところで、ミゲールが言った。


『早く帰るなら、ゲート、地上入り口。と言うんだよ』



 言うとおりにしたら、ダンジョン入り口側に転位したではないか!


「帰りは便利だな! ミゲール、ナビありがとうな!」


 ショートカットできた!


 『じゃあ、おつかれー』


 そう言ってミゲールはまた精霊界に戻ったのか、姿を消した。


 ◆ ◆ ◆



「おかえりなさいませ!」



 ダンジョン側ではまだエマが健気に待っていて、外は暗く、真夜中だった。



「エマ、ただいま! 寒いのにまだ待っていたのか」

「気になりますもの! お怪我はありませんか?」

「怪我もないし、収穫も上々だよ!」


「よくご無事でお戻りを!」

「おめでとうございます、伯爵!」


 エマの側にいた護衛騎士達に祝福の言葉をもらった。



 「ありがとう、じゃあ皆、エマに戦利品を見せた後は休んで、出発は明日の朝にするからよく休んでくれ!」

「はい!!」



 俺の探索パーティーの皆は元気よく返事をし、それぞれの天幕に移動した。


 それから俺は戦利品とも言える植物達をエマの天幕の中で広げて見せた。



「まあ! これがてん菜と言うものですか!」


 カブに似たてん菜を手にしてエマが問うので俺は頷いた。


「そうだよ、そしてこっちの黄色い実とこちらも甘味なんだが、寝る前なので明日の朝に食べさせてあげよう」

「はい!」


 そしてエマの天幕から出た俺は自分用の天幕に戻ったら、アルテちゃんが先に布団、いや毛布を温めてくれていた。

 潜り込んでいたとも言う。



「おやおや、子猫が布団を温めてくれてたか」

「むにゃむにゃ」

「お疲れ様……おやすみ」



 猫の頭を軽く撫でてから、俺は温められた毛布の中で寝た。


 ◆ ◆ ◆


 朝になって起きた俺は騎士達には猪肉の残りと野菜と調味料を渡し、エマにはダンジョン内の説明をしつつ、チョコバナナトーストを食べさせてやった。



「まあ、これがチョコバナナトーストというものですか! なんて甘くて美味しいのでしょう!」


 エマはチョコバナナトーストに大喜びだ。

 流石女子!



「ほとんど素材ダンジョンだったよ、俺にとっては。しかし途中のレイスやオークとかがいなれば素材回収もわりと楽なはずなんだがなぁ」


 たまに優秀な戦闘員とレイス対策の巫女のセットで出張してもらえたらなんとか度々回収できるかなぁ。


「毒の川対策は一度橋をかければマシでしょうね」

「そうだな、今度土魔法使いあたりを連れて行って貰うか」


 エマと甘い朝食を食べ終えた後は騎士達の様子を見に行った。


 天幕の側に焚き火があった。 


 すると焼けた肉の香りが鼻腔をくすぐってくる。

 騎士達や聖女、コニー、アルテちゃんもそこにいて、猪肉を串焼きにして、それを朝食にしてい

 た。



「この串焼きですが、狩ったばかりかつ、比較的若い雌の猪肉を使っているので、厚みがありつつも柔らかくて食べやすい味になっていますし、いただいた調味料もいい仕事をしています」


 ユージーンが丁寧に説明をしてくれた。

 猪肉は雌一匹に雄二匹だったので、臭みの少ないだろう雌の肉を渡した。


 そして今日も騎士達の前でもあって、今回も丁寧な言葉だ。



「ほほー、一本貰っていいかな?」

「もちろんです」


 甘いものの後にスパイスの効いた肉の味がなんともたまらん。

 美味い!


 串焼きを食べて満足した後で、転位ゲートのある神殿まで馬車や馬で移動する。


 馬車の中で同乗しているエマにダンジョン捜索を頼んでいた冒険者ギルドに依頼の引き上げし、騎士団の方に新しい依頼をしたいと相談した。


 ルートなどの情報を開示した上で、レイス対策の巫女と橋かけ用の土魔法使いをつける条件で向かって貰う。


 素材ダンジョンとして優秀なので、魔法使いに橋を架けて貰って、回収を容易にしたい。


 そして冒険者に貴重な素材を持ち逃げされまくると困るので、今後は身元のはっきりした騎士や巫女に行ってもらう。


 ついでにあの場所は新人騎士の育成にも役に立てそうだと思った。

 勿論オーク対策にベテランもつけるが。



「では一旦あのダンジョンは、関係者以外立ち入り禁止にしますね」

「ああ、しばらくエマの家門で管理をよろしく頼む」


「おまかせください!」


 エマは俺に頼まれて誇らしげな顔をして微笑んだ。


 ソーテーリア伯爵領に帰ったら、てん菜の苗を畑に植えよう。ちゃんと増えるといいな!














 







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