第95話 アップルパイ
「なんてつややかで美味しそうなアップルパイでしょう」
「どうぞ、伯爵夫人もご賞味ください」
「ありがとう存じます」
今回のお茶の席には伯爵夫人もおられる。
「ネオ様! これは……リンゴがたっぷり入っていて、生地もしっとりしていてとても美味しいですわ!」
「本当に甘さもほどよくて美味しいわね」
伯爵令嬢と伯爵夫人も満足できる味だったようで、良かった。
「シナモンの香りが効いていて、やや大きめで食べごたえもあり、美味しいです」
こちらは俺についててくれるドラゴンスレイヤーのユージーンの言葉。
伯爵夫人とレベッカの前で丁寧な言葉使いをしている。
「葡萄ジュースも美味しいですね」
美味しいアップルパイを皆でいただいて、残りのエマの持参金の土地をユージーンも連れて視察した。
山の麓の平地に到着すると、村人達は俺たちを覚えていて、また英雄扱いされた。
ここに農場か薬草園を作ろうなどど、夢を膨らませ、一旦伯爵家に帰ったら、レベッカも夜には帰り着いていた。
俺が風呂を借りて入っていると、エマの家から俺宛の魔法の鳥が来た。
『大変です! ネオ様に差し上げる領地に新しいダンジョンゲートが出現してしまいました!』
とのことだった。
俺は風呂から出て、事の次第をレベッカに伝えた。
「ドラゴンの次はエマの持参金の土地にダンジョン発生したらしい」
「またトラブルですか」
レベッカが心配そうな顔をした。
「今回のように金になるトラブルならまだいいんですが……」
ダンジョン発生も脅威レベルがよくわからず、一大事なので次は不思議な水の鑑定結果前だが、ひとまずダンジョンの入り口までは行くことにした。
が、その前にと。
俺は出かける準備の祭にレベッカを借りていた自分の部屋に呼び出した。
俺は風呂上がりに既に例の治癒師の服を着てる。
「レベッカ、例の治療しておこう。先日は急に結界などで魔力を沢山使って体内魔力がかなり乱れて発作が起きるといけない」
魔力が乱れたまま沢山魔力を使うと発作が起きやすいと本には書いてあったので、念の為。
「あっ、はっ、ハイ!」
この返事を聞いて、ユージーンも速やかに部屋からから出た。
そして、ベッドサイドに腰掛けているレベッカの胸に手を当てて、意識を集中する。
「魔力調整」
体内の魔力の流れがなるべく正常になるようにと俺は言霊をつむぐ。
そして、胸を揉みしだく!
「……んっ、……ふうっ」
色っぽいため息が聞こえますねけど、俺はあくまで真面目に揉んでおります!
「はあっ……ああんっ」
ほんとに真面目にやってます!!
しばらく施術し、
「よし、こんなもんかな、水質調査の件は結界がでたら追って知らせてくれ」
「わ、わかりましたわぁ……」
ヘロヘロになったレベッカはそのままベッドに倒れこんだので、俺達は馬と転移ゲートを使いそのまま出発することにした。
◆ ◆ ◆
俺達はエマの実家のジェラルディーヌ子爵領の島に新たに出現したダンジョンに着いた。
しかし、危険なのでエマは来ないよう言ってある。
神殿からはまた馬に乗って移動し、到着したら現場近くは棒と紐で簡易的な立ち入り禁止区域が作られていた。
地下に潜る系のダンジョンだった。
サファイアも下だったな……などと思いつつ、外側からはどのレベルのダンジョンか不明だ。
「まず浅いのか深いのかも分からんが、ひとまずチャレンジャーな冒険者に新たなダンジョンが出ましたよと募集をかけるか、一か八かで自分で地下一階だけ見てくるか……」
俺はどうすべきか入り口の近くで頭を悩ませている。
「子爵様が直接行くのは危険では?」
護衛騎士はもっとなことを言う。
「それはそうなんだが、俺の持参金の領地に現れたってので、すごく気になるんだよ」
その時、ふわりとミゲールがまた現れた。
『行くよーー』
と、一言言ってから、単身でダンジョンに突っ込んで行くクラゲ。
「おい! 待て! ミゲール! 急だぞ!」
「まさかまた宝石の原石でも出てくるのでしょうか?」
魔法のコニーが驚きに目を見開いている。
「分からんが、ミゲールが行くよと言うから追うしかない!」
俺がそう言うと、
「皆! 薬草と毒消しとポーションは持ったな!?」
「はい!!」
ユージーンが問うと、他の者も標準装備なのか、はいと答えたし、俺も食料は持ってるし。
「食料は俺の魔法の収納布に入ってるから!」
「では行きますか! 先行します!」
オリハルコンの剣を持つユージーンが先行した。
頼もしい。
「ダンジョン内って不思議だな、こんな感じなんだ……」
「ここは、草原ですね……風も吹いていて、何故か爽やかな……」
ユージーンは周囲を警戒しつつも、緑なす草原に清涼感すら感じているようだった。
不思議な第一層は草原が広がっていて、角のあるウサギなどの魔物が出たり、バッファローのような魔物がでたが、騎士と魔法の使いの連携でなんなく倒した。
ミゲールの後を追うと、石の柱に囲まれたストーンヘンジのような場所があった。
ミゲールが触手で手招きのような事をしたストーンヘンジのような柱の中心には、更に地下二階へと続く階段があった。
「いよいよ地下二階か、油断せず行こう」
「はい」
俺がそう言うと、ミゲールが先行し、次にユージーンが続く。
俺は護衛に挟まれ、真ん中に位置したまま階段を降りていく。
地下二階は一階とうって変わってゴツゴツした岩の多い荒地が広がっていた。
たまに紫色のいかにも毒の沼のようなものもある。あれ絶対に入るとヒットポイントが減るやつだろ? などと思いつつ、ミゲールの後を追うと目の前で女性が一人でうつ伏せで倒れていた。
ミゲールが俺を待つように待機している。
「大丈夫ですか!?」
護衛騎士が女性を助け起こし、仰向けにすると、女性は口から血を流している。
吐血したらしい。
「外傷は!?」
俺が問うと、
「私が見ます!」
と、魔法使いのコニーが服の裾をめくって確認した。
「腕や足に打撲のような跡があります!」
「打撲!? 毒蛇に噛まれたとかではないのか?」
「うう……っ」
あ、女性が呻いた! 意識がある!
「どうしました? 仲間はいませんか? 痛み止めのポーションは飲めますか!?」
矢継早に質問する俺。
「痛い……苦しい……」
「いかん、急いでいたせいでヒーラー無しでダンジョンに突っ込んで来てしまった」
「ネオ様、でも、ちょっとこの方の衣装は異国の巫女服のような?」
そういや、彼女の近くにロッドらしきものも転がっている。そして他に荷物は見つからない。
「確かにそれっぽいけど、巫女が一人でこんなダンジョンにいるのおかしくないか?」
「仲間とはぐれたんでしょうか?」
『彼女はマギアストームの患者だよ』
ミゲールが俺に向かってサクッと言った。
「あ! それで俺を連れて来たのか! わかった! 今から治療する!」
男性陣は紳士なので一斉に倒れてる女性から目をそらす。
「では子爵様、よろしくお願いします」
コニーがそう言って再び彼女を今度は仰向けで横たえたので俺は手袋を外し、手のひらに意識を集中する。
すると白銀色に輝きだす俺の両手。
「魔力吸収!!」
この娘は魔力が体内で乱れ過ぎて自分で自分を癒すことも出来なくなってるのかな?
俺はせっせと胸をさすったり、揉んだりしてみた。
巫女系の女性の胸を揉むとか、やや背徳感があるが、これはあくまで治療である!
「あ……痛みが……マシに……」
施術が終ると彼女がそう呟きつて、目を開いた。
「すみません、俺はマギアストームの治療はできますが、打撲などは治せなくて」
「いいえっ、助かりました……っ!」
泣きながら礼を言われた。
「あなたはどうして、こんな所に一人でおられるのですか?」
「私はマハビーヨニ王国で聖女をやってたのですが、マギアストームの病にかかって、肝心の治癒の力が使えなくなり、神の寵愛を失った穢れ持ちとして、ダンジョンに捨てられました」
「ええ? 過去に誰かを治癒で救っていてもそんな扱いなんですか? 聖女なのに?」
「マギアストームにかかると治癒の力を使おうとするだけで苦しくなってのたうちまわったり吐いたりするので役に立たなくなりますし……神の怒りを受けた者と言われております……」
「なんてことだ、でもミゲールが貴方を見つけたなら、神の怒りをうけている訳ではないと思うんですよ」
ただ運が悪かったのではないか?
病とはそういうものでは?
「でもマハビーヨニ国の人が何故わざわざツェーザルロのダンジョンに捨てられるんでしょう?」
コニーが首を傾げた。
『それは彼女が向こうにあったダンジョンの転移トラップを踏んでしまっから、こちらに来たんだよ』
コニーの疑問にはミゲールが答えてくれた。
「なるほど! 転移トラップがこちらにつながっていたのか!!」
『ちなみにその転移トラップはランダムだからどこのダンジョンに転移させられるか分からない』
「そ、そうなのか、怖いな」
『実はボク、まだ疲労回復してないからまたね』
そう言うとミゲールはすうっと姿を消した。
精霊界に充電しに行ったようだ。
「あの、その打撲跡は魔物にでも?」
コニーが聖女に問うた。
「いえ、私が穢れを受けたということで、神殿の者に折檻を……」
唖然……。
「これが病人にする仕打ちか? ほっとけないなら連れて帰るか、ミゲールも帰ったし」
「ひとまず地下二階まではたいした脅威ではないようですね、これだけでも収穫です」
俺はユージーンの言葉に頷いて、地上に戻る事にした。
『癒しの奇跡を……』
立ち上がるのに手を貸そうとしたら、聖女がおもむろに自分で自分の治療を行った。
「あ、痛みなく治癒ができました! 本当に貴方の治療は素晴らしいですね」
聖女に尊敬の眼差しでみられた。
「あ、それは良かった! でもその病はぶり返すので、油断しないように」
「はい……ありがとうございます」
聖女はロッドを手にして自ら立ち上がった。
「大丈夫ですか? 肩でも貸しますか?」
「ありがとうございます、それは大丈夫なのですが……こちらの国王陛下は私の亡命を許してくださるでしょうか?」
自国に見捨てられ、頑張って一人で立とうとする彼女だったか、その瞳は不安気に揺れていた。
「病持ちでも聖女を拒むとは思えません」
俺は彼女を励ますようにそう言った。
聖女追放てラノベでわりと見るよな。
そして追放側はだいたい悲惨な末路を辿るものだ。
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