第94話 果樹園デート

 不思議な滝の水を素材ギルドに鑑定を頼んでいる為、しばらくはレベッカの屋敷に滞在している俺達だったが、


「ネオ様の好きなことは何ですか?」 


 レベッカが食事の場で俺にそんなことを聞いてくれた。

 自分のやりたいことより、俺の好きなものをわざわざ!


 でも、好きなことがただ食材ゲットだなんて言うと、貧乏くさい男だと思われそうだな。



「えーと、収穫の喜びがあるやつとか」


 俺は言い方を変えて伝えてみた。


「では果樹園に行かれませんか?」

「果樹園! いいですね!」

「では、決まりですわね」


 果樹園ならばうちの猫ちゃんことアルテちゃんも連れてってやりたいイベントだが、今回は伯爵領だから仕方ない。わざわざ子爵領から呼びつけるとお金もかかるし、お留守番しててもらおう。


 果樹園には美味しそうな葡萄やらりんごやらが立派に実っていた。


 種類により、収穫時期が違うらしい。

 葡萄の果樹園の方は乙女達が足で葡萄を踏みながらワインを作る様子が見れた。


 うら若き乙女の生足サイコー! と、思わずスマホ的な魔道具のカメラを構える俺にレベッカの視線が突き刺さった。 

 ──あ、ヤバい! 地味に怒ってる!


「あ、レベッカ! りんごの果樹園の方に行こうか!」

「はい、葡萄ジュースとワインは持ってこさせますわ」


 良かった、機嫌なおった!

 そして移動後、瑞々しいりんごを収穫することにした。しかしまずはレディファースト。


「レベッカはハシゴなんか使い慣れてないのではないかな?」

「しっかり支えてくださっていたら、大丈夫ですわ!」


 レベッカはハシゴに登り、俺がそのハシゴを支える栄誉をもらってる。

 そして彼女は高い位置にあるりんごを収穫していく。


 それはいいのだが、レベッカは採ったりんごをほいっと下に投げるものだから、周囲にいるユージーンや騎士達が慌ててキャッチする。


 籠に入れるという選択肢はないのか?

 斬新なりんごの収穫の仕方だ。ま、いいか。

 レベッカはひとしきり採ってから、満足したようで、いい笑顔で笑った。


「なかなか楽しかったわ! さあネオ様、交代しましょうか」

「ああ!」


 やっと俺の収穫のターンか! と、喜んでいたら、ハシゴから降りるレベッカが危なっかしくも、よろけた。


 すかさず支える俺だったか、何かデジャヴを感じた。


 ──あ、思い……出した。

 令嬢系漫画でめちゃくちゃ見るシーンだ。

 令嬢が走って足をくじき、よろけるとこをヒーローが華麗にささえるやつだ。


 あいつらめちゃくちゃ転けるんだが、あれに似てる!


「も、申し訳ありません、よろけてしまって」

「いや、大丈夫だ」


 俺は笑ってしまいそうになるのを堪え、冷静を装ってはしごを移動させてから、今度は籠を背負い、自らりんごを収穫していく。


 赤く綺麗なりんごが沢山実っていて、楽しい!

 因みに俺はちゃんと自分で背負った籠に入れてるので、だんだん重くなってく。



「ネオ様、沢山採れましたわね!」

「ああ、帰ったらこれで美味しいアップルパイを作ろう」

「では近くに当家の別荘がありますから、そちらで」


 俺はハシゴから降り、籠いっぱいに採れたりんごを魔法の収納袋に入れ、レベッカの別荘に向かった。


 果樹園側の別荘に着いたら早速厨房を借りることにした。


 俺は魔法の収納から果樹園で収穫して来たばかりの赤く瑞々しいりんごをテーブルの上の籠に盛った。

 

「アップルパイを作るから、パイ生地作りを頼む」

「かしこまりました」


 伯爵家の料理人は俺の言った通りにバターや小麦粉を使ってパイ生地を作っていく。


 一方俺の方はりんごの皮を剥きら芯を取り、実をくし切りにし、5mmくらいにスライスする。


 そしてビスケットを清潔な布巾に包み、めん棒で潰して粉々にした後、フライパンには砂糖を入れてきつね色になるまで加熱する。


 カットしておいたりんごにバターを加えて全体を混ぜる。

 バニラがあれば使ったけど、ここにはないからそれは省く。


 りんごの水分がなくなるまでしっかりと煮詰め、

 火からおろしたらバットなどに出し、レモン汁、シナモンを加えて魔道具の冷蔵庫で冷ます。


 料理人に用意して貰ったパイ生地に打ち粉をふりながら、型より一回り大きいサイズになるまでのばす。

 1枚を型に敷き込み、余分な生地を切り落とす。


 そしてフォークでパイシート全体に穴をあけ、砕いたビスケットや冷ましたりんごのフィリングを敷き詰める。


 もう一枚のパイ生地を1.5㎝程度の幅で11本カットし、パイの上カットした生地にをのせ、編んでいき、余分な生地を切り落とす。


 残りの生地を周りにのせてはりつける。


 更に余分な生地をカットして、フォークで生地を押さえてしっかりと接着し、ハケで塗る用の溶き卵を表面に塗る。


「さて、いよいよ焼きの作業だ」 

「子爵様、オーブンの準備はできております」

「ありがとう」


 俺は料理人に礼を言ってから、パイを200℃位のオーブンで20分焼き、180℃くらいに温度を下げてさらに20分焼く。


 しっかりと濃い焼き色がついたらオッケーなので、粗熱がとれて型からはずしたら完成となる。


 ややして、俺は焼きあがったアップルパイをオーブンから取り出し、厨房の皿に盛り付ける。


 黄金色に輝くパイの表面は、つややかで見るからに美味しそうだった。 






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る