第96話 図書館デート

 拾った聖女を連れ帰り、一旦エマの屋敷に帰って事情を説明した。


「まあ、聖女がダンジョンに捨てられるなんて初めて聞きましたわ!」


 目を丸くして驚くエマ。


「俺、いや私も驚いた。ひとまず事情を説明して陛下に彼女の亡命と保護の許可を得たいと思う」


 俺の時も王弟殿下を救って許されたし、彼女は聖女なのだし多分許されるだろう。

 粗末にするとバチが当たりそうだし。



「そうですわね、持参金の領地のダンジョンに出てきたとのことなので、ネオ様の方からどうぞ」


「ああ、書簡を書くのでひとまず彼女を、聖女を風呂にでも入れてやってほしい」

「わかりましたわ」


 聖女はエマに促されて風呂へ向かった。

その間に俺はこちらのメイドが用意してくれた紙とペンで王室に聖女、名をリーディアと言うらしい、   彼女の事を書いて送る。


 ついでにニコレットにも手紙を書く。 


 ドラゴンを倒した後、俺はとても疲れていたので報告は騎士に任せてしまったが、冷静になればニコレット相手ならわざわざ手紙でなくとも耳飾りの通信魔道具があった。


 しかし、ドラゴン退治の後に宴があるとなると、彼女を誘えばファーストダンスは第一夫人になるニコレットを優先する事になる。


 しかし伯爵家主催の宴なので、それは心苦しい。

 親御さんも階級社会とはいえ、自分のとこの宴で娘が2番目かぁ……と、なると複雑だろうし。


 なので謝罪と、埋め合わせをするという内容で手紙を書くのだ。

 相手の領地にいる時くらいは、優先してあげないと……。


 明日はエマとちょっとくらいは二人一緒に過ごせるように時間を作ろう。


 俺は手紙を書き終え、後は魔法使いに手紙を託した。

 そして簡単な軽食を食べてから、風呂に入り、寝室で休ませて貰う事にした。


 ◆ ◆ ◆


 翌朝。


 聖女はまだ色々あって主に心が疲弊してそうなので、屋敷で休ませて、ユージーンも仕事量がエグかったのでゆっくりしろと命じておいた。



 そして朝食の時にはエマと二人でとることにした。

 仲良くお食事デートっぽくな。



「ネオ様は土壌改良が上手くいけばこちらに農場か薬草園を作る予定なのですよね?」

「それなんだが、エマ、ここって島だよな」


 ──ふと、前世の記憶で思い出した事がある。


「はい、当領地は島でございます」

「潮風が吹くよな?」

「はい、海の側はかなり吹くかと、主に冬」


「であれば、塩耐性のある植物を植える方がいいのかもしれない。確か、えーと、アスパラガス、てん菜、ブロッコリー、ワタ、オオムギ、トマト、キャベツ、ホウレンソウなどだ」


「塩耐性……植物にそのようなものが……」


 農民でもない令嬢が知らなくても仕方ない。


「俺のおすすめはトマトとてん菜だ」

「な、なるほど! トマトですか、しかしテンサイとは?」


「呼び名は色々あるかもしれない、てん菜とかビートとかサトウダイコンとか……とにかく砂糖がとれる植物だ」


「そのような植物が存在するのですか……砂糖は南国のサトウキビからとるものと思っておりましたが」


「てん菜からも採れると思う、見た目はカブに似ている」


 植生は地球と似てるものが多いから、探せばありそうなんだよな。


「まあ……」

「その、この国でも入手可能か知りたいし、良ければ一緒に図書館へ行ってみないか? あ、エマは好きな本を読んでてくれていいから」


「行きたいですわ!」


 エマは頬を染め、とても嬉しそうに微笑んだ。


 文学少女でも無ければ図書館デートなど地味で歓迎されにくいかもしれないが、喜んでるようだから良かった。


 そしてエマと一緒に図書館に向かって、俺はカブに似た甘い植物を探しまくった。

 エマは恋愛小説でも探すかと思いきや、普通に植物の本を探してくれてた。


 ──そして、俺は見つけた。



「カブに似た甘いビートは、ダンジョンでたまに見られる……だと?」


 ダンジョン、ダンジョンか、まさかあの先日行ったダンジョンにあったりするか?


「……よし、冒険者ギルドにビートがあるか探してもらう依頼を出してみよう」


 その方が効率が良さそうだし、なにしろ砂糖は金になるから!


「わかりました、では冒険者ギルドへ依頼を出しておきます」

「ああ、ありがとう」

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