第97話 川の異変
エマとの図書館デートが終わって、例のダンジョン捜索は冒険者に依頼してもらった。
そして聖女、名はリーディア。
彼女の処遇に対する王室からの返事はすごい速さで来た。
何と夜寝る前に手紙を送って翌日夕刻には王印つきが届いたのだ。
内容は聖女の亡命を認め、しかし特殊な病持ちであるからして、治癒が可能な俺のもとに預けるという返事だった。
彼女の保護の為の費用も送ってくださるらしい。
情のある判断ができる王様で良かったよ。
◆ ◆ ◆
一つ問題が片付き、朝になって仕事もあるのでユージーンや聖女リーディアを連れ、神殿のゲートを使い、自分の領地へと帰った。
ユージーンや聖女にも専用個室を用意した。
元からユージーンの部屋は俺の部屋の近くに用意していたのだが、聖女の部屋は大森林組の部屋に近い場所にした。
そして大森林組のアルテちゃんやエイダを聖女に紹介した。
他所から来た者同士で仲良くやれるかもしれないしな。
そして、新たな問題が発生した。
「川に死んだ魚が沢山流れてきたと?」
騎士の叙任式の手続きの書類を書いていた俺は、文官の知らせに顔を上げた。
「村では呪いをかけられたのではと騒ぎになっております、水を飲むのが怖いとも……」
「現場検証に、いや、現場に向かう、ユージーン、ついてきてくれるか?」
「もちろんです」
そばに控えていてくれたユージーンが快諾してくれた。
自領での正式な騎士の叙任式の前ではあるが、やはり信頼と安定のユージーンを連れて現場を見に行くことにした。
ちなみに聖女には猫(アルテちゃん)を与えてまだ休ませておく。
なにしろ仲間だった者達に殴られてダンジョンに捨てられたのだ、心が傷ついてるはずだ。
かわいいアルテちゃんの側にいれば癒されるはず! と、俺は思ってる。
◆ ◆ ◆
川に到着した。
確かに死んだ魚が流れついている。
ほとんどがハヤのような小魚だが。
「原因を探るため、上流に向かう」
「はい」
俺の指示で護衛騎士達と魔法の使いのマーヤは上流へ向かった。
すると、旅装の成人男性が川辺に三人ほどいて、死んだ小魚を集めてザルの上で干しているようだった。
もしかして食うつもりなのか?
「旅人っぽいのがいるぞ」
「いや、あれば旅人に扮した山賊かもしれません」
ユージーンは旅人の腰の武器に注目していた。
小刀ではなく、そこそこの長さもあり、年季も入って見える。
確かに普通の旅人にしてはものものしい。
そして川に、水の中に切られた枝を見つけた。
俺は声を潜めてユージーンに耳打ちする。
「見ろ、あの枝……叩かれた赤い枝に石の重しで川に固定してある、あれはおそらく毒だ」
「毒? 何故そんな事を?」
「多分簡単に魚が捕れるからだろう、枝から染み出す液体が魚に効く麻痺毒なんだ。生体系を壊す可能性と、人の不安をあおるので禁じられた漁法だと思うのだが」
地球ではおそらくとあるジャングルの原住民とかが似た漁法をしていたような気がするが、やはり川の生体系を壊す恐れがあるので、やらない方がいい。
「よし……捕獲します」
騎士達が三人を捕獲に走った。
「うわっ! 何だ!? 騎士か!?」
「禁じられた漁をしていた現行犯だ! 大人しく捕縛されろ!」
「俺達は魚を獲っていただけなのに!?」
「村人が呪いだと怯えていたんだぞ!」
「毒を使うなバカ者ども!」
三人の男はすぐに捕縛された。
「魚を毒で獲ってはいけないとは知らなかったんだよ!」
「知らなかったではすまない! どこの国から来たんだ!? 流民か!?」
「どこでもいいだろ! ここも田舎だろ!? 昔から俺達はこんな風に魚を獲ってた!」
「この国では禁止されている!」
この国の騎士がそう言うのだし、やはりそうなんだろう。
「何処から来たのか知らないが、この地では毒使用の漁は禁止だ」
俺は不穏分子を速やかに排除する為、はっきり禁止を言い渡した。
この地では俺が法律だから、住民が不安になる行為は禁止。
このあとこやつらは役人に引き渡し、牢に入れられ、罰金が払えなければ強制労働だ。
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