第90話 ドラゴンと戦う
山の麓の村に到着した。
「村人のほとんどは硬く扉と窓を閉ざし、息を殺すようにして潜んでいるようです」
魔法使いのコニーがそう報告してくれた。
傍らにはウンディーネがもう召喚されて出ている。
「ドラゴンに見つかりたくないなら当然ですね」
騎士団もそのような見解だったが……
「ひとまず村長あたりの家の敷地内で馬達を預かってもらいたい」
借り物の馬を逃がすわけにはいかないから。
「それはそうですね」と、コニーも頷いた。
結局一番でかい村長の家に向かい、馬を預かってくれと頼みに行き、了承を得た。
そしてついでに少し情報収集を。
「村長、あの山、ドラゴンが好むような何かがあるのか?」
「えー、美しい滝とか、美味しい岩清水が飲める場所があるんですが、旅人や商人の話によるとその水を飲むと気力が湧いてくるとかいう噂はあります」
白いお髭の老人村長はそう語った。
「美味しい岩清水に気力が湧いてくる……手負いのドラゴンももしやそれ目当てなんだろうか?」
「ありえない話ではありませんね、ドラゴンでも生物であるなら水くらい飲むでしょうし」
人前なので敬語モードのユージーンも俺にそう言ってから窓越しに山の方を見た。
「あ、それと村長、さっき旅人や商人の話と行ったが、村人などはその滝などの水場へはいかないのか?」
「よっぽどでないと奥までは行きません、護衛なしだと魔物や獣も出ますから」
「ふむ……とにかく馬は舗装されてない山登りは厳しそうだし、預けていくからよろしく頼む」
「はい、わかりました」
軽食として魔法の布に入れてきた、パンと果物と飲み物を登山組に配って食べて、即エナジーチャージをしてから移動した。
「この山やけに静かだな」
我々は山に入ったが、鹿の鳴き声すらしないのは珍しいらしい。
「ドラゴンなんかが飛んで来たせいで遠くに逃げたのではないかと」
人前なのでやはり丁寧な言葉を使うユージーン。
「それはそうかもな」
「どうします? 暗いまま進軍しますか? 野営して夜明けを待ちますか?」
神殿で合流したレベッカの領地の傭兵や騎士達も俺達の会話に耳を傾けている。
「野営するつもりなら村に泊まっただろう。ドラゴンが回復しきる前に追撃しなければ村人が、領民が安心して過ごせない」
やるしかない。例の水場がゲームでよく見る回復の泉的な場所であるなら、なるべく早く。
「では視界はイマイチでも夜陰に紛れてドラゴンの寝込みを襲うでよろしいのですね?」
ユージーンが強い眼差しで最終確認のために俺に問う。
「ああ」
そもそもドラゴンも夜は寝るのか? という疑問はあったが、ひとまず寝込みを襲えるならそれのがいい。不意打ちの方がこちらの勝率、生存率は上がるはず。
「いざとなったら私が魔法光で照らし視界を確保します。そしてこの気配からして、ドラゴンは確かにこの山にいます」
レベッカがつけてくれた魔法使いがそう断言した。
思わず鳥肌が立つが、俺達はドラゴン討伐しにきたのだし、今さらやっぱ怖いから帰るとも言えない。
「頼む」
しばらく月灯りを頼りに登山していくと、水音が聞こえて来たとコニーのウンディーネが教えてくれた。
「私のウンディーネが水場へ先導してくれます」
「ああ、よろしく頼む」
体力回復のエナドリのような水薬と、魔法使いの足腰にかける速度ブーストの魔法のおかげで、ややして我々はウンディーネのナビで水場付近に到着した。
滝の音がする。
ウンディーネの報告によれば不思議な光を放つ滝壺付近の岩の上に眠るドラゴンがいるとのこと。
作戦としてはまず魔法のブーストのかかった槍でぐさーっとやるという方式だ。
矢では軽くてドラゴンの硬い鱗にダメージを与えられないらしいから。
寝ている手負いとはいえ、ドラゴン相手に槍を直接差しに行くのは危険すぎるので、投げ槍にはなるらしい。
俺がそっと手をあげると、前列の騎士が10人ほど、雷の魔法を纏った槍を構えた。
そして俺が上げた手をドラゴンの方向に向けた瞬間、一勢に槍が放たれ、ドスッと既にある傷目掛けていくつか命中!
「ギャアアアッ!!」
傷をえぐられ、絶叫を上げるドラゴン。
寝込みを襲われ、怒りに血走る爬虫類系の黄色い目がこちらに向けられた!
やつが口を開け、ブレスが来る気配を察知!
「シールド!」
ユージーンがそう叫ぶと、
「はい!」
我々の目の前に魔法の盾が展開された。
三重のシールドがドラゴンブレスを阻んでくれてる!
一枚はレベッカの派遣した魔法使いのもの、もう1枚は神官の光の盾、そしてもう一枚は……え?
誰? コニーのウンディーネの水の壁だと蒸発して無理だと言われてたし……では誰が!?
後ろを振り向くと、レベッカがしれっと混ざっていた。
「レベッカ!? いつの間に!?」
待っていろと言ったのに、いつの間にかローブを纏って紛れ混んでた!
「ドラゴンブレスは炎の攻撃なので、私の火属性魔法陣はそこそこ吸収できますの!」
「危ないなぁ! もう!」
「ドラゴンが動くぞ!」
騎士が叫んだ。
ドラゴンの羽ばたきが風圧を起こす。
それも魔法の盾が防ぐが続いてドラゴン本体がコチラに向かって来ようとしてる。
本体の突撃はよりやばい!
その時疾風のような動きでオリハルコンの剣を構えたユージーンが風魔法の援護で空を飛び、翼を切り込みに行った!
鋭い斬撃が片翼を落とした!
ユージーンすげー!
ドラゴンはバランスを崩しつつ、巨体をよじり、尻尾でユージーンを狙った!
華麗に飛び退いて尻尾攻撃を逃れたユージーン!
叩きつけるように動いた尻尾がバシャンと激しい衝撃音を立て、周囲の岩と水が飛び散る!!
戦闘員達は盾で飛び散る岩と水から主に頭部を守ったと思ったら、ボディにいくつかくらって血飛沫が舞う。
しかし次の瞬間、
「うおおおおおっっ!!」
次の動作の猶予は与えぬとばかりに一勢に斬りかかる騎士と傭兵達。
仲間がドラゴンの爪で狙われたが、その振り上げた腕をオリハルコンの刃が斬り落とした!
更に魔法の炎の矢がドラゴンの目に命中!
ドラゴンが絶叫をあげ、周囲の空氣がビリビリと振動し、山が震えるかのようだ。
って、よく見ると目を狙ったのはレベッカだった!
そしてドラゴンがブレスの代わりに血を吐いた!
「今ですわ!」
今度はドラゴンの頭部に飛び乗り、眉間に剣を突き立てるユージーン!!
これがトドメか!?
ドラゴンは……沈黙した。
「やった!!」
「倒した!」
「うおおっ!!」
戦士達が勝利の雄叫びを上げようとした瞬間、神官が叫んだ!
「いかん! 退避!!」
皆、その声を聞くと素早く剣を抜き、弾けるようにドラゴンから離れたが、倒れたドラゴンから流れ出る赤い血が急に黒く変わっていった!
ドラゴンの体全体から黒い煙のようなオーラが出たと思ったら、それが集まり黒い竜の形を成して、こちらを向いた。
「呪いです!」
神官が再び叫んだ時、俺は────、
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