第91話 解体
倒れたドラゴンから流れ出る赤い血が、急に黒く変わっていった。
そしてドラゴンの体全体から黒い煙のようなオーラが出たと思ったら、それが集まり、黒い竜の形を成してこちらを向いた。
不吉すぎるその黒いものの正体は、
「呪いです!」
神官がそう叫んだ。
そして、何故か呪いのオーラの塊ドラゴンにトドメを差したユージーン達ではなく、後方にいたこちらに向かってくるではないか!
もしや俺が司令官みたいなことをしてたとばれてた!?
俺はレベッカを守るように彼女の前に立ち、両手を広げた!
呪いを受けるなら、俺だけでいい!
「ネオ様!?」
レベッカが叫んだその時、俺の前に更にミゲールが出現し、光を放った。
ミゲールの放つ神々しい光に包まれ、黒いオーラの塊の、呪いのドラゴンは消滅した!!
「ミゲール!!」
『ふう、間に合ったぁーー』
アパート拡張の為に力を使い、精霊界で休んでいたミゲールが間一髪間に合ったようだ。
「た、助かった……ありがとう、ミゲール」
膝ががくがく笑って今にもヘタリ混みそうなのを必死で堪えながら礼を言う俺。
『おつかれー』
ミゲールは、そう言ってまた姿を消した。
まだ疲れてるところに無理して来てくれたのかもしれない。
「……なあ、もしかして俺達、ドラゴンスレイヤーになれたのか?」
眼の前に倒れ伏してるドラゴンを見ながら傭兵がポツリと呟く。
「先に侯爵領の騎士達がだいぶダメージを与えていた訳だが」
伯爵領の騎士がそう語るも、
「それでもトドメはこっちじゃないか」
傭兵はドラゴンスレイヤーの称号が欲しいのか、なおも言い募る。
騎士や傭兵達がザワザワしてる。俺の出番か。
「皆お疲れ様! 君達皆、ドラゴンスレイヤーだとも! 誇るといい!」
「そうだな! 子爵様がそう言うのだし!」
「お、おう!」
MVPはどう見てもユージーンだったが、皆も頑張ってたし!
「負傷者はこちらへ! 神官頼む!」
「はい!!」
「魔法使い! ドラゴンを倒したとお父様と麓の村に連絡を!」
レベッカが燃えるように輝く瞳でそう言うと、
「はい!!」
「今から魔法の鳥を飛ばしますね!」
魔法使い二人もいい返事をした。
俺は深い息をはいて、その場に座りこんだ。
疲れたし、怖かった!!
◆ ◆ ◆
我々は一旦山に泊まることにした。
下山にも体力と時間は必要だからだ。
それとドラゴンの遺体だ。
素材剥ぐのがセオリーなんだろ? と。
「いきなり呪いとかをかましてきた個体だが、その、やはり金になるのか?」
俺はコニーに訊ねてみた。
「損傷が酷くはありますが、流石にドラゴンですので部分的に」
「心臓とか?」
「はい、魔石なども」
ふむ……。
「コニー、死んだ後だがやはりオリハルコンの刃以外は切り分けにくいと思うか?」
やはり鱗が硬そうなんだよな。
「死んだ後は魔力の薄い防御壁も消えてますので生前よりは多少マシですが、やはり硬いと思いますよ」
「ユージーン、だそうだ。一晩寝た後ならもうひと働きできるか?」
「はい、お任せを。しかし心臓は今からでも取るべきでしょう、傷む前に」
「あ……そうか、新鮮なうちに……」
「せっかくなのでそこの水で自分の気力が本当に回復できるか試しましょうか?」
「しかし、さっきそこでドラゴンが死んだんだが」
大丈夫? 水質汚染されてない?
「この川の水は下流へ流れて行きますし、ミゲールの浄化が効いたのでは? あの一時的に黒くなった血も赤に戻っていますよ」
ユージーンが遺体から流れる赤い血を指し示した。
それはそうなんだが、なんとなく……お腹壊さないか?
まだドラゴンの血は流れてるし。
「なら、そのせめて使うのは滝の上の方の水を」
「はい」
「子爵様、私がこの水に手を突っ込んだ結果ですが……」
手をビショビショに濡らしたコニーが急に声をかけて来た。
「うわっ! コニー危ないな! まだ竜の死体あるのに無防備に手を突っ込んだのか?」
「はい、でもウンディーネが運んでくれた滝の上の方の水なので大丈夫です。微量に魔力と気力が回復するような気がします」
MP回復水?
「ほほー、それはすごいが」
「戦闘にて失った魔力の回復薬の素材になり得るので、資産価値がだいぶ……あるような」
「ドラゴンがここで死んで急に価値が下がってないかな?」
事故物件的に。
「どうでしょう? ドラゴン討伐ができた所ですし、やろうと思えば観光名所にもできるかもしれませんよ」
「いや、魔法水が作れる水源なら厳重に管理した方が」
あれやこれやと仲間内で話が脱線したり、意見はでたが、
結局コニーのウンディーネがドラゴンの血の混じらない滝の上の方の水を運んでくれて、ユージーンはそれを飲んでみた。
魔法使いでなくてもなんとなく気力が戻る気がするという話で、またユージーンはドラゴンの解体作業をも頑張った。
特別ボーナス、あげないと……!
「ああっ! わたくしったら、魔法の素材になる目を焼いてしまいましたわ!」
解体作業を眺めていたレベッカが急に叫んだ。
「ま、まだ片目が残ってるぞ!」
「両眼そろっていたらもっとお高かったでしょうに」
「レベッカ、生物の共通弱点の目を攻撃するのは正しい戦略だったと思うぞ、おかげで俺達、ちゃんと生きて帰れるし」
「それは……そうなのですが」
「大丈夫! 心臓と魔石だけでもたいしたものですし! 鱗も!」
伯爵領の騎士達もがレベッカを励ましてくる。
「そ、そうですわね……」
「よければお茶をご用意しましょうか?」
コニーがウンディーネの運んでくれた水を水筒に入れてくれてる。
「この滝の水で紅茶でも飲むとおっしゃるの?」
「あ、紅茶なら茶葉は俺が、いや私が持っているぞ、飲むかな?」
「え、ネオ様がそうおっしゃるなら……」
俺が魔法の収納布から茶葉を出し、それをコニーが受け取ってくれた。
俺の方は、
「じゃあ、せっかくだからこのドラゴン解体風景を映像で撮っておくか! めったに見れるもんじゃないし!」
流石に戦闘中にはカメラを回す余裕はなかったが、急に撮影を思いついて、魔道具カメラを構え出す俺。
「あ! ならわたくしも!」
レベッカもスマホ的な例の魔道具を出して来た。
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