第89話 夜中の騒ぎ

 手負いのドラゴン事件のせいでおちおち寝てられなくなった俺は、ニコレットの侍女のマリアンの部屋の前に立ち、扉越しに事情を話した。


 彼女はすぐさまニコレットに伝えると言ってくれたので、俺は次にコニーの部屋に向かった。


 そしてユージーンに連絡し、レベッカの領地に急行したいから同行を頼めるか訊きたいと言うと、コニーはすぐに頷き、魔法の鳥を飛ばしてくれた。


 俺が廊下で騒いでいたので、ソル卿もこちらに駆けて来た。



「ソル卿、ニコレットを頼む。ユージーンから返事が来たら俺はレベッカの実家、フレーテラ伯爵領に向かうから、ここで自分の主を守っていてくれ」


「は、はい、しかし……ニコレット様がなんとおっしゃるか」

「ネオ様!」 


 ソル卿に頼んでいたら、ちょうどニコレット本人がガウンをひっかけて起きてきた。



「ニコレットは留守番をしていてくれ。明日のお散歩デートが無理になりそうですまない」

「お散歩デートはともかく! ネオ様、私も魔法が使えるのですが!?」


「嫁入り前の令嬢が無理をするものではない、怪我でもしたら大変だ」

「!!」


 ニコレットは痛いところを突かれたという顔をした。



「大丈夫、俺はちゃんと戻ってくる、無理はしないよ、危なかったらちゃんと逃げる」


 その時、ユージーンからの返事を持って鳥が飛んで来た。


「ユージーンが言うには騎士の証は後日送って貰う事にして、一緒に伯爵領へ向かってくれるらしい、途中で拾って神殿のゲートに向かう」


「お気をつけて。当家の馬は好きなのを使ってくださいませ」

「君に感謝を」


 俺はそっとニコレットの頬にキスをした。

 内心で実は照れるけど、今俺は外国人の異世界人! と、言い聞かせる。


 護衛騎士と魔法使いのコニーを連れてオラール侯爵家のタウンハウスを出た。


 ちなち今回マーヤは別の仕事を頼んでいて、魔力を消費したから領地に置いて来た。


 そしてレベッカにも当然連絡し、ユージーンと共に向かうので、ドラゴンのいる場所に一番近いゲートのある神殿の名を聞いた。


 ◆ ◆ ◆


 ユージーンの宿舎にまで馬を走らせて来たら、もう外に出て待っていてくれた。


「ユージーン、夜中に起こしてすまなかったな」

「緊急事態にそんな事どうでもいいよ! 僕は騎士なんだから」

「ありがとう」


 俺たちは馬を走らせ、神殿へ向かった。

 乗馬訓練はこの体の持ち主のジョーがやっていたから、なんとかなってるから、そこはよかった。



 俺は先を走るユージーンの馬上の背中を追いかける。


 ──しかし……なにしろ手負いのドラゴンだ。

 通常の武器で刃が立たないといけない。


 トーナメントを優勝して、オリハルコンの剣を持つユージーンなら、ドラゴン相手でもある程度戦えるのでは? と、思ってしまった。


 もちろんソロ討伐ではなく、フレーテラの騎士団あたりも当てにするし、実は怖いけど、ほうっておけない。なにしろ嫁になる人の実家の土地!

 

 ここでかっこつけないと、いつ頑張るんだと、自身を叱咤激励する。


 ──まあ、無理なら皆で逃げるしかないと思うが、なんとか領民に被害がでないところまでは追い出すとかしたい。


 しかし何故よりによってニコレットの領地からレベッカの領地へ向かったんだ?

 なにか癒しのスポットかいい餌でもあるのか?


 ぐるぐると考え事をしてる間に神殿に着いたので、神官にゲートを起動してもらい、伯爵領のドラゴンのいるという、最寄りの神殿へ飛んだ。


 あちらの神殿に着くと、騎士達が集ってざわめいていた。そして見知った赤い髪の女性が見えた。



「ネオ様!」

「レベッカ! 君まで来ていたのか」

「私の地元の事ですから!」

「詳しい場所は?」


「山です、よりによって何故ネオ様に差し上げようとした土地の山に……」

「あっ!」


 俺にくれる山にいるのか!


「あ、山だけではなく、その手前に平地もございますよ!」

「そうなのか、とにかく俺達は現場に向かうからレベッカはここか宿で待っていてくれ」

「ええ!?」


「嫁入り前の娘が怪我なんかしたらシャレにならないぞ、なにしろ相手は手負いのドラゴンだ」

「うっ!!」


「騎士団と治癒のできる神官は借りて行くから」

「はい……あなた達! しっかりネオ様を守ってくださいね!」

「はっ!!」「おおせのままに!」


 レベッカに激をとばされ、騎士達は凛々しく返事をした。


 俺達は馬に乗り、夜の道を駆ける。

 月が出ているのがわずかな救いだ。

 真っ暗ではない。


 俺たちはその手負いのドラゴンのいる山へ向かった。


 どうせ一度死んで拾った命だ。

 踏ん張りどころだ。と、己を励ましながら……。






















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