第87話 勝者の証

 不思議な力を持つクラゲのミゲールと妻帯者、家族持ち用のアパートを拡張に向かった。


 砦内のアパートの前に着くと、ソワソワして既に外に出ている者達がほとんどのようだった。


「皆、既に全員外に出ているか!?」


 念の為にアパートに向けて声を張り上げる俺。


「「はい!!」」

「子爵様、人数を確認しましたが、ちゃんと外に出たようです」


 使用人の1人がそう教えてくれた。


『大丈夫、皆でてるよー、それじゃ、いくよー』


 ミゲールもしっかりと保証してくれ、即、前回同様キラキラと発光しながら、拡張作業をしていく。



「おお〜〜っ!!」

「すごい、光ってる!」

「ママー、あのそらとぶひかるクラゲなに?」


 それは俺も知りたい。


「分からないけど、神様の御使いかもしれないわね、あんなに神々しく光ってるのだから」


 やはりそうなのかな?


『終わったよー』

「ミゲールありがとう! 皆! 作業は完了だ! 入ってよし! そして内側が広くなっているから、棚や椅子、衣料箱など追加したい場合は倉庫内の予備を使うといい」



「「はいっ!!」」

「ありがとうございます!」

「パパ~〜、もう入っていいの?」

「ああ、一緒に入ってみようか」

「うん!」


 アパートの住民達が誘い合って中に入って行った。


「ふしぎーっ! 広くなってるー!」

「だからといってそんなに走るなよ! 転ぶぞ!」


 ややしてそんな声が聞こえた。

 どうやら今回もちゃんと成功しているようだ、よかった。


 既に住民の家具とかもいくらかは入っているし、こちらのアパートの方は立ち入るのは止めておいた。

 女性の下着とかもあるだろうから。


 ちなみに砦の外にも俺が所有している村はあるし、砦はせいぜい村一つ分の規模なので、それ以外の村の公民館みたいな建物も、少しずつ増やして行きたいと思っている。


 ◆ ◆ ◆


 砦内では未だ冬支度の最中。

 その日の昼には契約した傭兵達も元々防衛していた場所の引き継ぎを終えて、続々入ってきた。


 錬金術師にはダメ元でゆっくりでいいから! と、例の物の設計企画書もしれっと送っておいた。

 ただいま返事待ち。


 そして冬越しの為の保存食の燻製やらソーセージ作りやら毛皮作りやらの様子を見守っていたら、夕刻には伝令が来た。


 剣が出来上がったと聞いて、納品された複数の剣を受け取った。そして、その中には当然あれもあった。


「おお、こ、これがオリハルコンの剣……伝説の勇者でもないのに、持ててしまった!」


「子爵様、オリハルコンの量的につなぎの石も混ざっていますけど、強度は保証するということです」


 文官が保証書的なものを読み上げてくれた。



「そうか! いや、十分だよ」


 青白く輝くオリハルコンの剣!!

 本当にかっこいい!!

 

 納品された剣は大事に魔法の布に収納した。


 ◆ ◆ ◆


 そして日々は過ぎ、ユージーンのトーナメントの日がやってきた。


 ユージーンのトーナメント戦は話し合いの結果、夫人達の中で第一夫人のニコレットだけを王都のコロシアムに連れて行く事になった。


 この手の剣術大会の時には、勝者の騎士は男性の主人にはゴブレットを捧げ、婚約者や家門の夫人へは花を贈る事が多いようだが、開催側が用意している花は一本で、三人の夫人全員には渡せないからだ。


 そういう背景もあるし、俺は以前、ニコレットから貰った貴族服で出かけた。


「お似合いで、よかったですわ」

「着るのが遅れてすまない」

「いいえ! 当家の騎士となる者の晴れの舞台で選んでくださって嬉しいですわ」


 まだ必ずしも勝てるとは決まってないが、勝てる見込みはありそうな雰囲気をユージーンが醸し出していたのでニコレットも信じているようだ。


 はたしてどうなるのとやらと、激しい剣撃の音を聞きつつ、コロシアムの観覧席にて戦いを見守っていたのだが……、


「わあ~〜っ!!」


 ひときわ大きい歓声が響いたと思ったら、なんと、


「勝者! ユージーン!!」


 やりやがった!! あいつすごい!!

 なんとトーナメントを勝ち上がり、一位優勝なのである!!

 強いな、なんだそれ、主人公補正でもついてるのか? ってくらい強かった。

 エクセレント!!



「どうぞ、マイロード」


 俺はユージーンから銀色のゴブレットを受けとった。


「おめでとう、そしてありがとう、ユージーン」

「ニコレット様どうぞ、ご婚約おめでとうございます」


 次にニコレットに花を贈るユージーン。


「ありがとう、嬉しいわ」



 ユージーンは俺に勝者の証であるゴブレットとニコレットにはバラの花を贈ってくれた!!


「これは、俺からのお返しだ」


 俺は満を持してオリハルコンの剣を渡した。

 オリハルコンの素材的に俺の騎士達、全員分はないが、トーナメント優勝者に渡すなら、誰も文句は言えまい。


「こ、この剣の輝きは……まさか?」

「オリハルコンの剣だ」


 会場でどよめきが起きる。


「オリハルコン!? 僕にそんな、そんな貴重なものを!?」

「お前はトーナメント優勝者だぞ、胸を張って受け取れ」


「……光栄です」


 わあーーーーっっ!!

 さらなる歓声と拍手喝采を浴び、ユージーンは手にした剣を天に掲げた。


 太陽光を受け、さらに輝くオリハルコンの剣。


 天国のユージーンの御両親も、ずいぶんと誇らしいことだろうな……。

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