第86話 抑えられない欲望
「子爵様、土壌改良についてですが、以前落ち葉の利用の仕方も何か言っておられませんでした?」
記憶力のいい文官がそんな事を言ってくれた。
そういえば以前茶飲み話の途中で言ったかもな。
「ああ、あれもだいたい似た感じでたまにかき混ぜたらいいとは思うが、きちんと書き足した方が親切か」
「はい、あった方がよいかと」
俺は腐葉土や草の扱いも書類に書き足した。
手書き文字めんどくさいんだよな。
ちょい書き間違えても修正液もないし、修正テープもないし。
パソコンとプリンターとかはないのかね、掲示板が見れるスマホもどきはあるのに。
「うっ」
「どうした?」
40代くらいの年齢の文官が急に呻いて固まった。
頭を押さえてる。
「す、すみません、急に耳鳴りが」
「えーと、耳鳴りは片方か?」
「はい、左のみで、キーンと」
「ではひとまず左の耳を真横にぐいっと引っ張ってみてくれ」
文官は俺の言う通り、左耳を指で摘んで真横に引っ張った。
「……こうですか? あ、消えました、謎の耳鳴り」
「疲労からくるものかな? 詳しくは分からないし、それで完全に治ってるかは不明だから、念の為神殿で治療を受けるといい、弟の方が治癒の力を持っている」
「もう治ったので大丈夫です。それにしても子爵様は色々と以外な知識をお持ちですね?」
「んん、まあ、読書は趣味だったしな。とにかくしっかり寝て、体を風呂で温めたり、軽い運動で血流よくしても耳鳴りがぶり返して治らないなら、ちゃんと治療を受けるんだぞ」
「はい、ありがとうございます」
◆ ◆ ◆
ランチタイム。
「子爵様、昼食はどちらでなさいますか?」
メイドがそんな事をわざわざ訊きに来てくれる。
俺が気分で食べる場所を変えるからだ。
「ここへ、執務室に運んでくれ」
「かしこまりました」
食事が運ばれてくるのを待つ間も、つらつらと考え事をする。
精米機を作ってもらったばかりではあるが、食べたいものを考える度に、やはりひき肉製造機とパスタマシーンや人力でない泡だて器も欲しいと思ってしまうんだよな……作ってくれないかな?
──なんて言ったら、多忙過ぎて錬金術師さんはキレるだろうか。
こちらはもう少しゆっくりでもいいと言えばいいかな。
売れば金にはなるはずなんだよ。
米もいっぱい普及すればあの精米機の需要も上がるし。
お金も儲かるはず……お金といえば……色々優先すべきことが増えてまだ食堂や宿屋も作れてないな……などと金策を考えていたら、ノック音。
「入れ」
「失礼します、お食事をお持ちしました」
メイドがワゴンにのせて料理を運んで来た。
「ありがとう」
俺はミートソースのパスタが食べたいなーとか思いつつも、ひとまず今日のところは料理人が作ってくれたチキンステーキとバゲットときのこのスープをランチとして食べた。
──これもしっかり美味しい。
チキンもいい色で焼けてるし、きのこのスープが秋感を演出している。
◆ ◆ ◆
食後、満腹にはなったのだが、やはり諦めきれないので、軽くこのような形でどのようなものができるものだという、パスタマシーンと挽き肉製造機と、ハンドミキサーと言う、今度作って欲しい道具のざっくりした説明文と絵を紙に書いた。
後は頭のいい人(魔道具製作の錬金術師)がなんとかして細かい設計をしてくれるだろうという、丸投げ方式。
あ、そうそう、黒板に配布物を文字で書いても識字率が不安なので、なるべく記号やイラストつけた方がいいとの意見も文官から食事の際にもらったので、なるべくそれも描くことにした。
教会や神殿の日曜学校で簡単な文字は習ってるとは聞いてはいるんだけど、念の為。
その後はお迎えする三人の夫人達の部屋の事を考えたり、色々と細かい仕事をしていると、執務室にノック音が響いた。
「子爵様、そろそろ例の作業のお時間です」
メイドの声が聞こえて時計を見ると、確かに3時少し前だ。
「よし、アパートの拡張作業に行くぞ!」
そう言って執務室の扉を開けると、ミゲールも姿を現し、ふわふわと飛びながらついてきてくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます