第71話 二人の正体

「本当に助かりました」

「このきのこのスープもとても美味しいです」

「これはきのこをさっとソテーしてミルクを加えて煮込むだけでマイルドな旨味がでるんだよ」



 俺は護衛騎士とアルテちゃんには唐揚げ弁当を、そして簡単で美味しいきのこスープを兄弟達にふるまいながら、二人の体調はこの食事でいかほど回復するか様子見していた。


 そう、唐揚げなんかも弁当箱には入っていたが、行倒れ兄弟がどのくらい食べてないか不明なため、ひとまず唐揚げは避けておいた。



「きのこはこの森でもたまに見つかるのですが、毒と食べていいものが見分けがつかず、初回にお試しで食べたもので腹痛を起こしてしまい……」

「ああ、きのこは分かってないと危ないですからね」


「それで腹痛は治まったのですか?」

「幸い我々は神官でして、腹痛は治癒でなんとかできましたが空腹はどうにもできず……」

「神官!?」


「はい、灯台で神官募集の貼り紙を見て、子爵領に新たに神殿が出来るというので……」


 え!?

 あの貼り紙が役にたってたんだ!?

 て、ゆーか、


「うちに来てくれようとしてたんだ! なんで先に手紙をよこしてくれなかったんだ? それなら迎えをよこしたのに」


「手紙を出す山道に最近はぐれドラゴンが出るとかで、手紙や荷物は届かないだろうと言われ……。魔法の伝書鳥を借りるのはお高いですし……」

「そ、そんな事が……」


 はぐれドラゴンとは……。

 普段ナワバリにしてない所に出たのか……。


「なんにせよ、神官が見つかってよかった」


 この兄と弟は二人とも神官だそうだ。

 交代でやれるから、二人いてよかった!!


「子爵様、どうしますか? このまま砦に行きますか?」


 護衛騎士もスープを片手に問いかけてくる。


「この神官二人がヘロヘロだから砦の傭兵団に会うのは次回にして出直そうか、休ませてやりたい」


「かしこまりました」

「申し訳ありません、我々の為に」

「いいんだ、直接行かずとも手紙で先に打診するって手もあるから」


 直接見て良さそうな集団か見て選びたかったから、自分で行こうと思っただけだったから。



 俺達はひとまず自分達の住まいのある砦へ帰ることにしたが、ところどころ赤や黄色に染まった紅葉も見れたし、神官も二人ゲット出来たので、大収穫だよ!!


 ◆ ◆ ◆



 砦に帰ってからは神官二人には風呂と部屋を用意してやり、休ませた。

 オラール侯爵領から来たならだいぶ疲れているだろうしな。


 そして俺は執務室で砦の傭兵団に向けて呼び出しの手紙を書いて出した。


 ついに貴族の権力を行使してしまう。


 それというのもひとまず団長を呼び出し、人柄を確かめたいと思ったからだ。


 傭兵団には気性の荒い、荒れくれ者っぽいのも多そうだし、でもそれをまとめる団長がまともそうなら、今後とも兵士として雇い、付き合うのもやぶさかではないというか……。


 そして傭兵団からは数日後にこちらに来てくれるとの返答があった。


「そう言えば、子爵さまに釣書が届いておりますよ」


 文官が手渡して来た釣書とは、お見合いの際に仲介者を通して相手と交換する自己紹介書のような書面であり、お見合いの成否を左右するともいわれる縁談には欠かせない書類のことだ。



「そう言えば貴族って基本的に結婚するんだった」

「当たり前でしょう、貴重なスキル持ちは遺伝を期待され、子孫を残す為に妻を複数娶ることが許されますから、子爵様は5人くらいはいけますよ」


 えっ!?

 重婚オッケーなんだ!?


「そんな俺の特殊なスキルが、子孫に遺伝するとも限らないのに5人は多いだろう」

「実際遺伝するかはさておき、複数娶れるのは事実です。ここに王からの妻を複数娶ることを許可するという書類も届いてございます」  



 ひえ……っ!!

 本当に書類出てきた!!


 特殊スキルの子供を期待されてる!!



 ◆◆◆ ◆◆◆


 一方その頃のオラール侯爵領──。



 オラール侯爵は娘のニコレットとサロンにて対峙していた。


 努めて真剣な面持ちで侯爵は口を開く。


「ニコレット、そろそろ新しい婚約者を探さないと行き遅れるぞ」



 ブランデーを少し入れた紅茶を手に、侯爵は娘と極めて大事な対話を試みた。



「我が国には特殊スキル持ちの貴族は複数の妻を娶れるという法律がありますよね……」


 娘の瞳は強い覚悟の光を宿していた。



「やはりネオ殿と結婚したいのか……」

「侯爵家から子爵家だとだいぶ家格が落ちますが、生活の水準が下がっても文句は言いませんわ」

「確かにあの病の痛みは辛いようだが、あちらにその気はありそうなのか?」


「灯籠祭りで逆プロポーズをしてみます。優しい方なので断れないかもしれません」


「そ、そこまで覚悟を決めていたのか。ニコレット……それならば頑張りなさい、王弟殿下の奥方もマギアストームで亡くなられたらしいし、命が一番大事だからな」


「ええ、お兄様と弟もじき留学先から戻られますし、私は他家に嫁いでも問題ないはずですわ。ところで話は変わりますけど、山道のはぐれドラゴン対策はどうなりまして?」


「依頼したギルドのAランク冒険者パーティーが返り討ちにあって撤退したらしいから今は騎士団を派遣したところだ」

「まあ、だいぶ手強いドラゴンですのね」






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る