第70話 またも森の中の俺達

 俺が執務室で灯籠祭りの招待状をせっせと作っていると、黒髪ぱっつんストレートヘアの女性が現れた。


 彼女は大森林捜索の時にお世話になり、王弟殿下の推薦魔法使いだったマーヤさん!



「マーヤ・レイダです。魔法使い募集中とのことで申請を出し、借金も完済したのでこちらに移動が叶いました」

「あー! マーヤさんだ! お久しぶり! 君が来てくれるとは助かるよ!」



 コニーとマーヤで交代で仕事がやれるからな。



「さんはおやめください」

「あ、そうか、なら……マーヤ?」

「はい、それで大丈夫です」



 そういや報酬で借金が返せたんだな。

 でも、王弟殿下のとこの方が給料は良さそうなんだが、そこはもう妥協したのか……。


 ともかく後は騎士と兵士と神殿のゲート管理のできる神官だな。

 見習い騎士だけでなく、傭兵団でも視察に行くべきなのかな。


 などと、考えを巡らせていると、マーヤが部屋から退室せずにモジモジしてる。

 はっと理由に思い至る俺。



「あ、せっかくだから治療しようか」

「はい、申し訳ありません、よろしくお願いします」



 手を洗ってからマーヤの治療を終えた俺は、お弁当を用意して、雇われの傭兵団30人ほどがいるという森の中の砦へ向かう事にした。


 何人かスカウトできるかもしれないし、丸ごと雇用できるならそれでもいい。


 森に行くと言うと、アルテちゃんがついてくると騒いだ。

 仕方ないから連れて行くことにした。

 護衛騎士に魔法使いもいるから大丈夫だろう。


 そしてなにより森だし、また何か美味しいものでも見つけてくれるかもしれない。

 ちなみにエイダさんは俺の司祭服の簡易版の着替えを作ってくれるらしいから、置いて行く。

 

 ◆ ◆ ◆


 しばらく森を歩いていると、アルテちゃんが声をあげた。



「あっち!」

「なんだ? またきのこの匂いでもした?」

「ちがーう」


 ガサガサと秋らしい色の落ち葉や小枝を踏みながらアルテちゃんの後をついて行くと、人が倒れているではないか!



「大丈夫ですか?」


 ボロくうす汚れた旅人の服を着た男性に俺に声をかけたら、


「お腹……空いた」


 目の前の男性からぐうぅーという音が響く。

 どうやらこの人は空腹で倒れていて、マギアストームの患者ではないようだ。



「空腹の行倒れ!?」

「も、森の中で迷ってしまい……食料も尽き……」

「おやおや、ではこのお弁当を」


 魔法の布からお弁当を取り出す俺だったが、


「お、弟がその辺に……食べ物を……探しに」

「弟もその辺にいるんだ!?」


「狼煙の魔法でも上げたら弟さんも何事かと駆け付けて来るかもしれません」



 魔法使いのマーヤがそう提案してくれた。



「じゃあ、それを頼む」

「はい」


 マーヤさんが何言か呟くと杖の先から赤い光の玉が出て、それが上空に登り、しばらく煌々と光を放ってる。



「ついでに待ってる間、暇だし、温かいスープを作る為に火も焚いてみるか」

「ではそのへんの小枝でも拾いますか」


 と、護衛騎士が周囲を見渡した。


「ああ、頼む」



 それにしてもアルテちゃんには探索、斥候向きのスキルがあるのかな。

 よく行き倒れの人を見つける……。


 それにしてはゴブリンの背後からの襲撃にはあっさりやられたが……いや、あの時は具合の悪いエイダさんを心配するあまりに……集中力が偏っていたという可能性もある。



 ひとまず空腹の男性にはお弁当の卵焼きとりんごを食べさせる。



「アルテちゃんは将来何になりたいとかある?」

「うーんと……さんしょくひるねつき!」


「三食昼寝つき! 確かにそれはいいよなー! 皆憧れるやつ」


 しかしそれはペット枠!!



「人の匂いか気配に敏感ならば、斥候のスキルを磨いて子爵様の護衛でいいのではないですか?」


 マーヤさんも斥候向きだと思ったようで、そう提案してきた。


「しかし護衛なら昼寝は難しいな」

「休日に寝ればよいのではないですか?」


 薪を抱えてきた護衛騎士がそう言うが、


「まあ、まだ子供だから、遊ぶのとお勉強が仕事だよな」


 と、また早いと擁護する俺は日本人感覚が抜けてないかな。


「お……べんきょう……」


 アルテちゃんはがっくりとうなだれた。

 今はマナーや簡単な読み書きなどを教わってるからそれがお勉強なのだが……その手のことは苦手なんだな……。


 焚き火できのこのスープを温めつつ、そんな話をしてると、行き倒れさんと似た顔の男性が息を切らして茂みの向こうから現れた。























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