第61話 回収

「君は何故、森に一人でいたのかな?

 女性の魔法使いでソロ冒険者は珍しいように思うのだが」



 魔法使いは基本的に後衛職ではなかろうか?と、俺は思ったので訊いてみた。



「発作の度に仲間に心配させるのも申し訳ないので冒険者パーティーは離脱しました。大事な時に発作が起きたら目も当てられないし、苦痛の度に痛み止めを飲んでいたけど、だんだん効かなくなっていって……辛くて」


「なるほど、自らパーティーから脱退をされたのだです……だな」


 ちょいちょいうっかり貴族らしくない言葉使いになってしまう!



「王弟殿下の辺境伯領が若い貴族に一部割譲される。その地の森で銀が出たら救われる……銀が見つからず、苦痛に耐えられなければ白いキノコを食べれば死ねる、そう言われました。旅の……ジプシーの占い師に」


「死ねるって、なんて事を言うんだ占い師! 俺の土地を自殺場所に選ばないでくれ!」


 富士の樹海じゃないんだよ! 

 あそこは近辺の人も迷惑してるらしいし。

 なんか事後処理に市民の血税が使われるそうで。



「すみません……」


 はっ! ちょいまて、まさかあの同じ占い師か!?


「あ、いや、怒鳴ってごめ……すまない、私が生きてる間は治療頑張るから、君も生きるのを諦めないでくれ」



 魔法使いは泣きだしたので、俺はハンカチを差し出した。


 そういやこの体の本来の持ち主のジョーも入水自殺したんだった……。



「銀鉱山でもない森で銀なんて、意味が分からなかったけど赤や茶色いキノコばかりで白いキノコは見つからなかったし……でも、あなたの髪が……銀色ですね」


 彼女は地面にへたり込んだまま、潤んだ瞳で俺を見上げた。


「私の名前は、ネオ。つい最近子爵の爵位を賜った。ちょうど魔法使いも雇いたかったから、よければうちの砦に来るといい」


「はい、よろしくお願いします、子爵様」



 俺は魔法使いに手を差し出して立ち上がらせた。


 そしていつの間にか騎士の手による目隠しを解除されていたアルテちゃんの方を見てみると、魔法使いが苦痛の為にゲロってしまった所に、拾った木の棒を使って土を被せていた。


 トイレに砂をかける猫感!



「においがあるとまものが来るよ」

「ご、ごめんね! そうだよね! 猫ちゃん賢いね! 小さい子に汚いものを後始末させてごめんなさい!」


 魔法使いは慌てた。



「さて、キノコは採れたし、薪を拾いつつ川辺まで帰ろうか」

「はい!」

「かしこまりました」


 魔法使いと騎士は礼儀正しく返事をした。

 

「そう言えば魔法使い、君の名前は?」

「あ、すみません! 名乗り忘れておりました! コニーです!」

「わかった」


 コニーか、呼びやすそうな名前だ。



「おさかな、はいってるかなぁ」

「入ってるといいなぁ」


 ややして川辺まで戻ったら、もう夕刻だった。



「真暗になる前に罠を回収するか」

「入るんですか!? 濡れるのでお任せください!」

「そうなのか? じゃあ頼む」


 お手並み拝見!


『ウンディーネ! そこの罠をこちらに!』


 コニーは精霊が呼べるサモナーか!



 何と呼び出したウンディーネに命じて魚を捕る罠を持ち上げてこちらによこしてくれた。

 なかなか器用な真似ができるんだな!

 素晴らしい!


 さて、中身を確認。


「はいってる!! おさかないた!」

「ホントだ! ドジョウ、ナマズに、なんか知らない川魚に、ウナギまでいるぞ!」



 罠を回収して魚ごと魔法の布にしまう。



「しかし、暗くなってしまいました」


 秋になって陽が暮れるのが早くなってしまったな。

 涼しくなったのはいいのだが。



「仕方ない、今夜は……ここをキャンプ地とする!」



 このセリフが言いたかった感があるが、急遽野営が決定した。




 テントを設営をして、焚火をして弁当を食べることにした。


 魔法の布から取りだしたのはハンバーガーだ。

 まだ温かいまま保存されていた。


「これ、すごく美味いですね! これまで、生きてた中で食べたものの中でも最高に!」

「私も過去イチ美味しいです!」


「そ、そこまでか? ありがとう。あ、ついでに川魚も焼こうか」

「はい! ありがとうございます!」

「あ、手が汚れるので、私が内蔵出して串に刺します」

「ありがとう、コニー」



 川魚も焼いて皆と美味しくいただいた。



 そして寝る前の掲示板チェックだ。

 俺と同じテントにはアルテちゃんがいるが、先に寝た。


 ◆◆◆ 続、騎士を探す令嬢の掲示板 ◆◆◆



 ★名無しの令嬢「先日とあるパーティーで金髪の侯爵令嬢に挨拶をさせていただきました」

 名無しの令嬢「!!」

 名無しの貴族「おっ」


 名無しの貴族「魔導具を取り出して、この騎士様をご存知ありませんか? と、画像を見せて確認いたしましたところ……」

 名無しの令嬢「焦らされてますわ!」

 名無しの貴族「ついに!?」


 ★名無しの貴族「当家の騎士ですわ。と、おっしゃってくださいました!」


 名無しの令嬢「きゃーーっ! ついに!」

 名無しの令嬢「おめでとうございます!」

 名無しの貴族「おめでとう、これでこの部屋ともお別れか……」


 名無しの貴族「ところで、その騎士、令嬢の家に譲ってもらえたりするのか?」


 ★名無しの令嬢「うちの家門は強くはないので難しいでしょうが、交渉はしてみます」

 名無しの貴族「なら、もう少しだけ、この部屋続くかな」


 ★名無しの令嬢「ここはもう少しだけ、残しておきます」


 名無しの貴族「家門強くないのに、よくこの魔導サロンの魔導具買えたね?」


 ★名無しの令嬢「実はとある公爵家のパーティーに招待され、そこで宝探し大会があり、隠した宝箱を見つけたら貰えるというもので、私の見つけた宝箱が大当たりでして……」


 名無しの貴族「見つけたお宝貰えたんだ! 運が強いな!」

 名無しの令嬢「まあ! 豪運令嬢と呼ばせていただくわ!」

 名無しの令嬢「あ! そういえばその催し、私も参加してましたわ!」


 *

 *

 *


 ほほー。そういう流れか。

 この恋が上手くいくといいな。

 ──でも、そうすると……ニコレット様の侯爵家は優秀かつ性格のいい騎士を一人失うことに? 元を辿れば俺のせいで?


 それはちょい申し訳ないな。

 さて、どうしたものか……。

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