第60話 森の中で見つけたのは……。
森に入ると、生粋の大森林育ちのアルテちゃんが猫のお耳をピクピクと動かしたと思いきや、ずんずんと森の中に入って行った。
キノコには興味ないんじゃなかったのか?
「おーい、アルテちゃん! 俺を置いて行かないでくれよ!?」
「こっちーっ!!」
アルテちゃんの先導で森の中を進むと、赤くて可愛いキノコがあった。タマゴタケに似てる!
「このキノコは食べられる」
「知っているのか、アルテちゃん!」
キノコは素人が手を出すと毒のある種類もあって危ないから、俺でも知ってるやつだけ取るか、砦に有識者がいるか聞こうと思ってたところだ。
「おなかすいたとき、森でたまにとってた」
「待て待て、小さい子が村の外に出て、森の中でのキノコ狩りは危険だよ。ちゃんと大人、大きい仲間と行ってた?」
「エイダ、胸いたくてうごけない時あったから」
「いつもはエイダが食事を用意してくれたけどたまに体調が悪い時があったのだな」
護衛騎士もアルテちゃんに話しかけた。
あ、もしやその時もマギアストームの発作をおこしていたのか?
そしてもうアルテちゃんの両親もいなくなってた後の事だろうか……。
こんな小さい頃から健気に二人で支えあって生きていたエピソードを聞くと涙が出そうだ。
俺も前世では孤児院育ちだけど……。
「アルテちゃんはお腹が空いてたのか。でもエイダ以外にも村に仲間いたろ? 他の周りの大人に相談するんだよ、そういう時は。森は危ないからね」
こんなかわいい女の子がお腹空かせてたなら血族じゃなくてもパンの一個くらいくれると思う。
「なんの病気でもきくキノコ、アドリクスが森にあるんだってむかしパパが言ってた」
他の村人には懐いてなかったのかな? 俺の提案はスルーされた。
「アドリクス、私もそれはおとぎ話に出て来たのは存じあげてますが、空想上の伝説のキノコだと思います」
護衛騎士がアルテちゃんの話に混ざって来た。
こちらの世界で有名なおとぎ話に出るキノコ?
大森林の獣人の村にまで伝わるほどの有名な作品をアルテちゃんのパパが昔話して聞かせてくれたけど、アルテちゃんは幼すぎて作り話の童話と認識していなかったってことかな。
「アルテはどれかわかんなくて、見つけたキノコとって帰ったら、これはアドリクスじゃないけど食べられるよって村のものしりフクロウが」
「そうか、これはとりあえず食べられるんだな。そしてアルテちゃんはキノコは別に好きじゃないみたいなのに、エイダのために探してあげてたんだな」
「エイダはキノコ美味しそうに食べるから」
なるほど、エイダはキノコが好きなんだな。
「じゃあこの卵みたいなキノコは持って帰ろう」
「あそこにもある!」
アルテちゃんは駆け出して、違うキノコを指差した。
「今度は舞茸みたいなキノコだ! というかこれは舞茸では?」
「あれも食べられる」
目の前をチョロチョロするアルテちゃんの今日の服装は自前の短パンに尻尾用の穴が空いてるやつを着てる上に、ニーソのように長い靴下を履いている。
絶対領域は本来素敵なものなんだが、森には虫がいるから心配だ。
今度は長ズボンを用意しておこう。
しばらく周囲のキノコを採っていると、またアルテちゃんの耳がピクピク動いた。
「あっち!」
そう言ってまた走り出した! すばしっこい!
「アルテちゃん待ってくれ!!」
前世のおじさんの肉体だったら絶対息切れして完全に置いて行かれてヘロヘロになっていただろう。
せめてジョーの肉体が若くてよかったよ。
「はあっ、はあっ。次は一体どんなキノコが……って、人間!」
魔法使いみたいな黒いローブを纏う服装の女の子が蹲っていた。冒険者かな?
「ど、どうしました? お嬢さん、具合が悪そうですが」
よく見たら女の子はお腹を抑えて顔面は土気色で、額からは脂汗のようなものが流れていた。
「苦しい……トドメを……さしてくれませんか?」
急にトドメとは!
「魔物にどこかやられたのか!? 腹!?」
騎士が周囲を警戒しながら訊いたが、彼女は「違う」と小さくか細い声で答えた。
「あ! 子爵様、そこに嘔吐した痕跡があります!」
確かに地面に吐瀉物が!
尿管結石の人が痛みに耐えられず悶え苦しみつつ吐いた話を聞いた事がある……!
「お腹が痛いのか!? 毒キノコでも食べたとか!?」
しまったなあ。
騎士はいるけど治癒魔法の使えるクレリックは連れて来ていない。
「おなかとむねいたいならエイダとおなじだよ」
アルテちゃんがポツリと言った。つまりマギアストーム!?
「ま、マギアストームなら俺がなんとかできるが、違ったらセクハラ男になってしまう」
「トドメ刺しを望むくらい苦しいなら胸を触るくらい許してくれるのでは? 治療な訳ですし、見たところ魔力持ちの平民ですし」
なるほど! 平民相手だと貴族ならどうにでもできるのか!
とはいえ、俺は慎重派! 助けようとしたのにいやらしい事をされたと怒られたくはない!
傷つくから!
「でも一応聞くぞ、君がマギアストームなら私が胸を触るとどうにかなると思うけど、訴えないでくれるかな!?」
「もういっそ殺して欲しいくらい辛いから、楽にしてくれるなら、なんでもいいっ!」
言質取ったし、証人もいるし、今にも泡吹いて倒れそうな顔をしているので俺は騎士にアルテちゃんの目隠しを指示して治療を開始した。
「なんで? アルテ、まえ見えないよ」
「すまない、命令なので少しだけこのまま大人しくしててくれ」
騎士がその手でアルテちゃんの目隠しをしてる間に、魔法使いのローブの下に手を差し込む。
「魔力吸引!」
「ううっ!!」
胸を素早く揉んで魔力を手のひらから吸収する!
「ああっ、くっ!」
土気色だった顔色がだんだんマシになって来た。
これはガチでマギアストームの患者っぽいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます