第58話 そして王城へ

 ランチメニューはにんじんのポタージュとハンバーガーだ。


 できたての料理からは温かい湯気が立ち上っている。



「おいちい」

「だろう? ハンバーグとチーズとレタスとパンの組合わせで、まずくなりようがないんだよな」


 俺は指示出しばかりで作ったのはほぼ料理人であるが、美味いもんは美味い。


「このにんじんのポタージュもクリーミーで濃厚で、とても美味しいです!」



 エイダも目をキラキラさせて喜んでる。

 本当ににんじんが好きなんだな、このうさぎさん。



「ありがとう、二人が気に入ってくれたみたいでよかった」


 今日は朝から雨が降って今は曇りなせいか、だいぶ涼しいからにんじんポタージュでほっこり温まるのも悪くない。



 ◆ ◆ ◆


 祭り当日となった日。

 晴れてよかった。


 今日は朝からアルテちゃんとエイダさんと護衛騎士とで王都の祭りに出かけた。

 会場となる公園には出店がいくつも並んで盛況だ。

 秋の豊穣を祝う祭りに相応しい。

 頭には草花で編んだ冠を被る女性達が沢山いて、そちらも華やかで素敵だ。


 出店で焼かれる串焼きの香ばしい肉の匂い、香油の香り、珍しい果実の香り、色んな匂いがする。

 俺は雑貨を扱う出店前で足を止めた。



「お、木で作られたカチューシャだ、これなら紋章も彫れるな」


 いいもの発見。


「これー、かわいい」


 アルテちゃんが指差して見てるのはお花のペンダント。


「じゃあそのペンダントとこれとこのブレスレットを買おう」

「まいどあり!」



 公園のとあるスペースでは楽師の演奏に合わせて陽気なダンスをする人々の姿があった。


 貴族のダンスとはまた違う趣きがあっていい。

 街娘達は精一杯着飾って、パートナーの男性と踊っていた。



 ◆ ◆ ◆


 祭りから王弟殿下の別邸に帰ると例のドジっ娘さんが到着していた。


 名前はスザンヌと言い、鞄一つで来たようだ。

 荷物が少ないのは資産がほぼないって事かな。

 苦労してそう。



「ではスザンヌ、ひとまず別邸には料理人が既にいるからお針子の仕事をしてくれるか」


 とりあえず刺繍の腕を見てみるためにも俺は彼女に仕事をふった。


「はい、何を刺せばよろしいですか?」

「この図案の家門だ」

「分かりました」



 そうしてひとまず別邸にいる間はリボンに家門の刺繍を入れて貰った。

 エイダと一緒に。

 一人で黙々と作業するより仲間がいたほうが楽しいだろうと。


 結果として、スザンヌの刺繍の腕は確かだった。

 なのでエイダと二人、交代でユージーンのマントにも刺繍を入れて貰うことにした。


「カチューシャの紋章はどうしますか?」


 エイダからはそんな疑問を投げられた。


「そっちは木工職人に頼むよ、彫刻刀と針ではかってが違うだろうし」

「なるほど、わかりました」



 ちなみに子猫のアルテちゃんはこの先、必要になるだろう文字と食事のマナーの勉強をさせはじめた。

 そうしたらその他の時間は大抵日向で寝るようになった。

 勉強がかなり疲れるようでな。


 ◆ ◆ ◆


 そしてついに王城に入り、叙爵じょしゃくの日となった。


 王城はさすがにその国の権力と富を示す事が重要な為、堅牢さと華麗さと、歴史の重厚さも感じられる場所だった。


 映画の中にいるみたいな雰囲気の中でパーティー会場に入るなり、俺は視線を集めた。

 治癒師の服は普通の貴族男性の正装とは違うからなぁ。



「……あの銀髪の方は?」

「初めて見るな、銀髪は珍しい」

「オラール侯爵令嬢のニコレット嬢と会話してるぞ」

「ん? 金髪の侯爵令嬢に銀髪の組み合わせ……どこかで……」



 貴族達の噂話が聞こえる。

 今日はめちゃくちゃ注目されるのが分かっていたから、獣人の二人は屋敷に置いてきた。

 でも、見習い騎士のユージーンは見守りに駆けつけてくれているので、握手を交わす。



「ネオ様、ついにこの時が来ましたね」

「ありがとう、ユージーン」

 


 流石に人が多いので、今日はユージーンにも様付けで呼ばれた。



 そしてついに会場にラッパの音が鳴り響くと、国王夫妻が入場した。

 王弟殿下が筋肉隆々の武闘派イケオジの印象なら国王陛下は知性派な美形の印象を受ける。

 王妃もエレガントで流石に美しい。

 俺は治癒師としての正装をして、陛下の前に膝をついた。


 まず詳しい内容は伏せられたが、俺は王弟殿下の窮地を救ったという功績を称えられた。



「汝にネオ・エウアン・ソーテーリアの名と、我がツェーザルロ王国の子爵の位を授ける」

「ありがたき幸せ」


 わーーっという歓声と拍手が会場に響いたらゾクリと鳥肌が立った。

 御前を離れるといつメンの令嬢達に囲まれた。



「おめでとうございます、ネオ様」

「ありがとうございます、ニコレット嬢」

「おめでとうございます、これからはソーテーリア子爵ですわね」

「感謝します、レベッカ嬢」


「ネオ様は陛下から福音、救済の意味を込めた名をいただいたのですね! ぴったりですわ!」

「エマニュエル嬢、ありがとうございます」


 いつもの令嬢達に挨拶をした後に、また強い視線を感じたので振り向くと、騎士の訓練所で話しかけて来た太ももの魅力的なソルさんに夢中なあの黒髪の令嬢だった。


 彼女は驚いたように目を、パチパチと瞬きをさせていた。

 更に俺の次にニコレット様を見てるので、なんとなく察したのだろう。

 例のヒントの侯爵家の金髪の令嬢が、誰なのかを。







 

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