第57話 続、騎士と令嬢

 別邸に帰ってから、今度迎え入れる予定のドジっ娘さんのことを執事に伝えたら、


「何故そんな身元もよく分からない者を……」


 と、言われた。


「ノブリス・オブリージュ。持てる者は持たざるものに配慮するものだろ」


 と、貴族風に言っておいたが、実際のところは、目の前でお前はいらないと切られている人を見ると、いつの間にか両親がいなくなって一人になっていた自分の事のようで辛くなったからだ。


 救えるのなら救いたい。

 数字が苦手でも、他に出来ることはあるはずだ。

 あるいは単に疲労でミスっただけかもしれないし。

 

 ◆◆◆ 掲示板 ◆◆◆


【素敵な太ももの騎士様♡大捜索中】


 ★名無しの部屋主令嬢〈先日王都の騎士見習いの訓練所に行きましたら、捜索に進展がありました! あ、部屋主には分かりやすく★マークが着くようになったようですね〉


 名無しの令嬢〈騎士の訓練所! なるほど、騎士の事は騎士に聞くといいという訳ですわね!〉

 名無しの貴族〈この令嬢、訓練所まで行くとはかなり本気だ〉


 ★名無しの部屋主令嬢〈私は最初から本気ですわ!〉


 名無しの貴族〈それで、進展内容をはよ〉

 名無しの令嬢〈そうですわ! 報告を!〉


 ★名無しの部屋主令嬢〈訓練中の騎士に話しかけるのは気が散るのでやめてくださいと施設の者に言われましたので、私は観客席にいる銀髪の美青年に声をかけましたわ。人柄が良さそうな方だったので〉


 名無しの令嬢〈銀髪の美青年!? ガタッ〉

 名無しの令嬢〈銀髪! ガタッ〉

 名無しの令嬢〈その銀髪の方、もしや猫の獣人を連れてましたか?〉 


 ★名無しの令嬢部屋主令嬢〈ええ、よくご存知ですね? お知り合いですか?〉


 名無しの令嬢〈ええまあ〉

 名無しの貴族〈そろそろ焦らしプレイはやめてください〉


 ★名無しの部屋主令嬢〈銀髪さんにヒントをいただきました! その騎士のいる侯爵家の令嬢は金髪の美人だと! なので10家門まで絞り込めました!〉


 名無しの貴族〈その銀髪、知ってるなら素直に教えてやればいいのに〉


 名無しの貴族〈それじゃ面白くないだろ、もっとドラマチックに運命を感じたい、か細い糸を手繰り寄せるようにだな……〉

 名無しの令嬢〈運命ならば必ず見つけられます!〉

 名無しの令嬢〈銀髪さんは個人情報だから慎重にされてるのでは?〉


 ★名無しの部屋主令嬢〈そうかもしれません!とりあえず今回の報告はここまでです!〉


 名無しの貴族〈金髪令嬢のいる侯爵家か……

 侯爵家は我が国に17家門……そのうち金髪令嬢がいるのは10家門……メモ。〉

 名無しの貴族〈もうじき王家で新しい貴族の叙爵式があるから探せるだろう〉


 名無しの令嬢〈そのおかげで新しいドレスの仕立てが立て込んでいて馴染みの店が多忙でしたわ!〉

 名無しの貴族〈随分急に開催が決まったな〉


 名無しの令嬢〈私は仕方ないので星祭り用に用意していたドレスを使う事にします。星祭りまでにまた、一着増やさねばなりませんが〉


 名無しの貴族〈面倒だから同じ服で行く。誰も俺の服なんて覚えてないばず……〉

 名無しの貴族〈おいおい、同じ服ばかりで婚約者に恥をかかせるなよ〉

 名無しの貴族〈ま、間に合わないから仕方ないんだし!〉


 *

 *

 *


 ◆ ◆ ◆


 ほーん、令嬢のソルさん捜索スレもなかなか盛り上がってるな。


「またなんか見てるー」

「はいはい、ごめんな」


 俺は隙あらば魔道具での掲示板チェックをする習慣があるので、よく子猫に突っ込まれる。

 今は昼の少し前って時間だ。



「ごはんー」

「わかった、わかった、アルテちゃんは何が食べたい?」

「お肉ー」

「エイダさんは何か食べたものはあるかな?」



「さん付けはおやめください。食べられるならなんでもかまいませんが、にんじん……とか」


 流石は猫とうさぎ獣人だ。


「よし、ハンバーガーとにんじんのポタージュにしよう」

「ハンバーってなに?」

「ハンバーガーはアルテちゃんの好きな肉、肉の料理だよ、パンにお肉が挟まってる」 

「ふーん」



 よくわからないけど肉があるならいいやって顔をするアルテちゃん。


 米は残り少ないから、次に送られて来るまで温存してるからパンだ。


 そして錬金術師に今、脱穀、精米機の設計図を見せて作れそうな人を王弟殿下のツテで探してもらってるところ。


 コンソメが無いからまた鶏手羽から出汁を取るかと、俺とアルテちゃんとエイダさんは厨房に移動した。  


「この肉と豚と鶏肉を細かくしてくれ」

「はい、分かりました」


 俺は厨房の料理人に指示を出す。

 全部自分でやらずに何かしらここの人に仕事を振らないとあちらが困るらしいから。


「それとにんじんのポタージュ用に、にんじん、じゃがいも、玉ねぎ、鶏手羽、ミルク、塩、バター、チャービルを用意してくれ」

「ネオ様、申し訳ありません、チャービルとは?」

「あ、ハーブなんだが、ないならなくていい」



 それから王弟殿下の別邸の料理人達に、俺はあれこれ指示を出して料理の手伝いをしてもらった。


 ちなみにその間、エイダさんは俺のレシピを覚える為にせっせとメモを取っていて、アルテちゃんにはクッキーをもぐもぐさせている。

 子供は何かを食べさせておけば大人しいから。

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