第48話 焼き鳥と白飯

 話は少し遡る。

 俺達が分譲される領地に向かう、旅の間の話。


 その土地は1日では着かない距離にある。

 旅の途中に立ち寄ったそのシンプルで庶民的な宿には王弟殿下にふるまえるような食事が出せないと言うので、



「では、雄か卵を産まなくなった鶏、食べてもいい個体を譲って貰うことは可能だろうか?」


 という提案をしてみた。

 ちなみにもうすぐ子爵になるのでわざとこんな喋り方だ。

 いつもなら譲っていただけますか? と、低姿勢で丁寧な言葉を使うところだけど。



「ああ、それなら用意できます」


 と言って宿の店主は庭に駆け出し、その辺を散歩させていた雄の鶏を2羽捕まえた。


 そうして潰したばかりの、新鮮であること間違いなしの鶏肉を手に入れた。


 俺は大森林でついに醤油を手に入れたので、焼き鳥のタレを作ろうと思う。


 宿の敷地に王弟殿下の持っていた料理用魔道具を借りて料理開始。

 外気温は暑くも寒くもないから良かった。




「あ、令嬢達にもお米……ご飯を振る舞う予定だっのに晩餐会があったからすっかり抜け落ちてた」

「こ、今度にしようか」

「うん。王弟殿下には素人料理ですが、今から作りますので」


「そうか、楽しみにしている」

「ネオ、お米の炊き方は僕、覚えたから手伝えるよ」

「ありがとうユージーン」


「アルテはー?」



 アルテちゃんは退屈そうに庭のベンチに座って小さな足をブラブラしてる。



「じゃあそこで大人しく座って応援しててくれるかな?」

「この子は私が見ていよう」

「ありがとうございます、王弟殿下」

「なんの、食事を任せてしまっているからな、これくらいは」


 めちゃくちゃ贅沢な子守り爆誕!

 なんと王弟殿下は自分のお膝にアルテちゃんを乗せた。

 かっわいいな! イケオジと幼女かわいい!

 今、俺がタレを作っていなければ撮影したのに!



「あ、あの閣下、代わりましょうか?」


 護衛騎士が見かねて交代を申し出た。


「そなたらは周囲の警戒があるだろう、気にするな、この子はかわいいからな」


 子猫の可愛さはやはりイケオジにも通じる!


「は、はい、それでは……」

「あ、アルテちゃんに仕事がある!」

「なーに?」


「俺が今から料理するから、それをこれで撮影してくれるかな、これをこーして、こう」


 例の魔道具を貸して使い方を教えてみた。


「うん、分かったー」



 アルテちゃんは笑顔で返事をして、王弟殿下の膝からぴょんと降りた。

 王弟殿下は少しがっかりした顔になってしまった。

 す、すみません!!


 想像以上に膝抱っこ状態を楽しんでましたか!

 子猫はかわいいからな!



 気をとりなおし、俺は材料を魔法の布から取り出していく。


 焼き鳥のタレの材料は……おろししょうが、おろしにんにく、ごま油、白すりごま、砂糖、醤油。


 本来これに日本酒とみりんを入れるが、それはないからそこは白ワインとはちみつで代用し、コクをだす。


 白ワインは醤油と組み合わせることで「和」の味わいに近くなる為、和食などを作る時に料理酒などを切らして白ワインしかないのなら、代用することができる。


「ユージーン、すまないがこの鶏肉を切り分けて塩をふって串に差してくれるか」

「はーい」


 米を洗い、土鍋をセットし終わったユージーンに新たな仕事を申し付けてしまった。

 そして俺とユージーンは串打ちの後に焼きの作業も進めた。


 タレ付きの肉が焼けていい匂いがそこら中に……。

 護衛している騎士の方からはゴクリという生唾を飲む音さえも聴こえた。

 罪深いな、この匂いは。


 そしていい感じに焼けた焼き鳥から王弟殿下とアルテちゃんに渡していく。

 撮影は護衛騎士に交代してもらった。


 ご飯はお茶碗サイズの器に入れて、箸は無理だろうからスプーンでどうぞと差し出した。



「これは……美味いな。タレと塩のどちらも程よい味付けで、ジューシーな鶏の旨味もある。お、この白い粒も優しい甘さがあり、美味いな!」


「その白い粒はお米です。お気に召していただけて光栄です」

「これどれもおいちい!」


「この串焼きは本当にしっかり味がついてて、最高だな。この白い米と合わせていくらでも食べられそうだ」


 しかし手持ちの米には限りがあります!


「塩味もタレ味もすごく美味しいね! 肉の合間に食べる塩キャベツのあっさりした味わいは口直しにもピッタリだし」


「ありがとうございます」


 そして護衛騎士たちにも焼き鳥を振る舞った。


「よければどうぞ」


「ほほう、この塩味のものは鶏の脂もあいまって甘味さえ感じる美味さですな! 個人的には両方美味いのですが、どちらかと言うとタレよりも塩の方がより美味しく感じられました」


「私はタレの方が濃厚な味で好きです! 酒が進みそうな味ですね、任務中ゆえ飲めませんが」


「ハハハ、私は酒を貰うぞ! 悪いな」


 王弟殿下は料理にも使った白ワインを上機嫌で飲んでいる。


「王弟殿下はお気になさらず存分にどうぞ!」


 護衛騎士達は口を揃え、慌ててそう言った。



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