第47話 視線


「ネオ様、食事の後に私と一緒に踊っていただけますか?」

「え? ダンスですか? 久しぶり過ぎて上手くないかもしれませんが」



 晩餐会の最中、俺はニコレット様にダンスに誘われた。

 ジョーの体の記憶でなんとかなるか。と、ひとまず引き受けた。

 なにしろこの城へ行く時に馬車の同乗の誘いを断ったばかり。

 この上レディのダンスの誘いを断るのは至難の業だ。



「では、ニコレット様の後にわたくしも!」

「わたくしもレベッカ嬢の後にお願いします!」

「は、はい、では順番に踊りましょう」


 結局いつメンの三人の令嬢と代わる代わるにダンスを踊ることにした。


 あちらの国では婚約破棄までされたのに、こちらではガチのモテ期のようだ。


 ジョーはどん底の行き止まりの人生だと思い込んで池に身を投げたけど、足元や暗がりの向こうには、ちゃんと灯りはあったのかもしれない。

 見渡す余裕がなくて、それが見つからずに、生を放りだしてしまったけれど……。

 女性は自分を振った婚約者だけじゃないのにな……。



 ところでこの晩餐会には近隣の貴族達も呼ばれているようでそこそこ人がいる。

 急に開催されたわりに、結構な人数だ。


 なので俺達以外も当然ホールで踊っている人達はいる。

 ジョーの肉体に刻まれた記憶を頼りにして、優雅な楽師の奏でる音楽に合わせてダンスを踊った訳だが、そのダンスの最中、壁際からやたらと視線を感じた。


 知らない貴族令嬢だと思うけど、俺を凝視してる気がする、何者なんだろう?

 眼鏡をかけ、髪をきっちりまとめ上げていて学者風でもある。


 三人の令嬢と踊った後にでも声をかけられるかと思ったが、そんなことはなかった。

 この銀髪が珍しかっただけかもしれない。


 ひとまずなんとか女性の足は踏まずに無事ダンスを終えたから、そこは助かった。



 * * *



「さて、明日に備えて寝るか」


 と、ベッドサイドで伸びをする俺だったが、


「ほら、アルテ、私達の部屋に戻るわよ」

「やーなの!」



 アルテちゃんが食事の後にまたユージーンと俺の二人の部屋に来て俺の方のベッドに乗ってる。


「ドレスも夜着に着替えないとシワになるでしょ」

「いいの!」



 俺と離れるのが寂しいのかな?

 かわいい子猫ちゃんだ。



「エイダさん、このベッド広いから俺はアルテちゃんと一緒でもいいですよ」

「ネオ様、すみません。ではお願いします」

「あ、王弟殿下から預かった札は無くさないでくださいね、あなた達の身を守る物なので」

「はい!」



 明日の視察を楽しみに思いつつ、子猫の隣で眠りにつく。



 朝になって目が覚めたらやはり子猫は腹の上で俺の寝間着をしゃぶりながら寝てた。

 寝間着が濡れてるけど、かわいいから許す。



 ◆ ◆ ◆


 馬車に乗って辺境伯領の城下町の衣装店に来た。

 メンツは王弟殿下と、護衛のユージーンと俺からはなれないアルテちゃんだ。


 最初に衣装店の人に大事なお願いをする。


「では、このリボンとマントにこの紋章の刺繍をお願いします」

「かしこまりました」


 今後獣人の二人にとって重要なものを頼めたことに俺はホッとした。


「さて、せっかく衣装店に来ているし、アルテちゃんとエイダさんの着替えも買おうか」

「アルテの服?」

「そうだよ、いつも同じ服ってわけにはいかないだろ」

「子供服ならこちらにございます」


 店員さんがすぐに気を利かせて子供服のありかを教えてくれた。


「好きなのを選んでいいぞ、代金は私が出す」

「ありがございます、王弟殿下。ほら、アルテちゃんも御礼を言って」


 アルテちゃんはもじもじしながら、


「ありがとう……ごじゃいます」


 と、か細い声で御礼を言った。


「ああ、うさ耳の子の分も私が払うから好きなのをお土産に選ぶといい」



 王弟殿下は気前がよくて素晴らしいな!



「ありがとうございます」



 王弟相手にここは断るのも失礼だろうから素直に甘える俺。

 数着選んで買って貰った。奢りだ奢り!



 王弟殿下と同乗して衣装店に行った後、俺に分譲してくださる土地の視察へ向かう為、しばらく馬車で移動した。


 1日では着かない距離だったので、途中宿に泊まったりして、2日ほど時間をかけた。

 城に置いて来たエイダさんが少し心配だが、王弟殿下の札が守ってくれると信じよう。


 そうして馬車移動3日目の昼。

 その時、俺は緑色のあるものを見つけて興奮し、指を差す。



「竹林だ! あそこに竹林がありますね!」

「王家からもらったあの植物は植えてあのように増やしたら、籠などを作れるようだから、地元の主婦達の工芸品として出せるようになったんだ」

「ですよね! 竹は便利な植物です! 私は魚の罠を作りたいのです、あれで!」


「そうか、あれが欲しいのなら城に用意させよう」

「ありがとうございます! 王弟殿下!」


 もうじき子爵にもなる男が何故漁師みたいに魚を捕ろうとしてるのか、というツッコミは幸いなことになかった。

 おおらかな性格をされているのかもしれない。





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