第45話 大森林よりの帰還

 あの後、門番さんに朝から村長さんと面会出来るよう頼んだら、どうせ年寄りで夜中には一回起きてると言われた。


 なので御言葉に甘え、丑三つ時に面会して話をつけた。

 村長さんは白く長いおヒゲのヤギの獣人だった。



「では村長さん、こちらはソイソースとミィソと米の対価として、布と入手困難な一部の薬、砂糖や塩などの調味料、海の幸など、その時必要な物、紙に書かれた望みの御品を送る事にしますね」


「ああ、出せる程度で構わないぞい」

「なるべく希望に添えるようにします」


「エイダとアルテの事は頼んだぞい、あの子達は早くに親を無くし、寄り添いながら生きてきたんじゃ」

「はい、ちゃんと守っていくつもりです」



 寝る前に俺は魔道具のスマホ的なあれで、掲示板に明日の朝には、某神殿にスクロールで帰還しますと書いた。



 ◆ ◆ ◆



 そして朝になってスクロールを使って王弟殿下の辺境伯領の神殿まで帰還した。


 スクロールの転移陣の場所指定が辺境伯領だったのだ。神殿名が書いてあるから分かった。


 令嬢達は気合いで辺境伯領の神殿まで来ていた。

 多分スクロールを使ったんだと思う。



「あっ! 転移陣から人が!」


 エマ様が一番に叫ぶ声が聞こえた。


「「おかえりなさいませ、ネオ様!!」」


 令嬢達が声をかけてくれた。


「よく戻った」


 王弟殿下まで迎えに来られていた。

 恐縮です!


「ただいま帰りました!」



 そして周囲の注目を集める俺の胸元。

 猫獣人のアルテちゃんはすっかり俺に懐いて俺に抱っこされている。

 いわゆる縦抱っこ状態なのだ。

  


「と、ところでネオ様、その子達は?」



 非常に気になるらしく、ニコレット様が醤油や味噌の確認より先に二人の獣人について言及して来た。



「そちらのうさ耳のエイダさんがマギアストームの患者だったので、置いてくるわけにいかなかったのです。小猫ちゃんはそちらのエイダさんと姉妹のように育った家族で一緒にいたいと言うので」


「まあ、患者なら、仕方ありませんね」

「ですわ」

「大変でしたのね」


「それなら納得だな、ひとまず立ち話もなんだから、私の城へ向かおう」



 王弟殿下のひと声で俺達は辺境伯領の城に向かう事になった。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 〜 お茶会中の令嬢達のお話 〜


 話は少し遡る。

 衣装展と靴屋がニコレットの屋敷に集っていた。



「レベッカお嬢様、エマニュエルお嬢様、なんとか衣装と靴は間に合いましてございます」


 ニコレットの屋敷の応接室にて頭を下げる衣装店の店員達。



「そうね、想像以上に治療師様の帰還が早かったから衣装の刺繍が必要最低限になってしまったわ」


 レベッカは納品された衣装を確認しながらそう言った。


「そこは申し訳ありません」

「なんにせよ、お疲れ様」


「ニコレット様、こちらは騎士になる方の衣装です」

「ありがとう、ご苦労でした」


 * * *


 そして品物を受け取る令嬢達は優雅なティータイムである。



「王弟殿下は国中の土魔法に秀でた者を集めてネオ様のお住いを大急ぎで作っておられるそうですわ」


 レベッカの家は輸入品の納品に行ったので詳しい情報を持っていた。


「デザインはわりと簡易なものになるでしょうが魔法が一番早いですものね」



 エマニュエルはサーラの淹れてくれた紅茶を飲んでいたのを一旦置いて、そう口にした。



「屋敷と言うより堅牢な砦の作りらしいですわ」


 レベッカはこの場で一番位の高い家門のニコレットの方を向いて説明する。



「他所から絶対に奪わせないという気迫が感じられますわね、よいことですわ」


 ニコレットは扇子で優雅に仰ぎつつそう語る。



「ところで……うちの騎士が……ネオ様は女性を二人連れ帰ると報告してきたのですけど」


 レベッカは少し声のトーンを落として二人の令嬢を見た。


「まさか、獣人の愛人を!?」


 エマニュエルは目を見開いた。


「うちの騎士も似たような報告をよこしております。いくらかわいいからってそのような事……」

「まあ、ニコレット様の騎士も流石ですわね。うさぎ獣人と猫獣人の若い女性らしいのですが」

「これはネオ様に詳しく問いただす必要がありますわね」


 ニコレットはギラリと目を輝かせた。

 

「ところでニコレット様、レベッカ様、転移スクロールにか書かれた神殿は王弟殿下の辺境伯領の神殿ですが、当然お迎えに行かれますよね」


 エマニュエルは貴族ではあるが、二人の令嬢ほどには裕福ではないので、上目遣いでそう問いかける。



「「当然ですわ」」

「私も便乗して辺境伯領の神殿へ向っても?」

「もちろん構いませんわ」



 ニコレットは上位貴族の余裕を見せ、高価な移動スクロールのタダ乗りにも寛大であった。


「ところでエマ嬢、例の魔道具は楽しんでおられますか?」

「もちろんですわニコレット様! 騎士と主の恋物語が描かれたルームもございますの! それが文才のある令嬢が書かれておられるらしくって!」


「ふふふ、そうなのね」

「ところで私はそこ経由で不穏なニュースを見つけてしまいましたの」

「まあ、レベッカ嬢、なんなの? 不穏だなんて」


「例の隣国からの魔力嵐の治療師もしくは薬を求める書き込みの主なんですが」

「なんなの? もったいぶらぶにはっきりおっしゃって?」

「いくつかの情報の断片をつなぎ合わせてみれば、ネオ様のかつての婚約者の令嬢がマギアストームを発症したようですわ」


 「まあ! なんて因果応報なのでしょう、ネオ様を手酷く振った女があの病にかかるなんて!」


 ニコレットは畳んだ扇子で手を軽く叩き、応接室にパシンと小気味よい音が鳴った。



「現状唯一の治療師がネオ様だと知るような事があれば、また接触を図ろうとする可能性がありますわ」


 レベッカは語りつつも眉根を寄せた。


「許せませんわ、断固拒否ですわ。せいぜい数年はあの痛みで苦しむといいと思いますの! お二人とも、ネオ様が元婚約者の現状に気がつかないようにしてくださいまし」



「「もちろんですわ! ニコレット様!」」



 令嬢達は固く団結をした。

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