第44話 夜の出来事

「ネオ様こちらを……うっ!」

「マーヤさん!?」


 マーヤさんが夜、寝る前に俺の部屋まで来て、布のようなものを俺に渡しに来た途端、胸を押さえて疼くまった。

 布は床に落ちたのをユージーンがテーブルの上に避けた。



「すぐ巫女のレリアさんを呼びます! って、その前にベッドか!」

「ネオ! ベッドには僕が運ぶよ!」

「分かった! ユージーン、マーヤさんは頼んだ!」



 俺と同室のユージーンがマーヤさんをベッドに運んでくれるから、俺はレリアさんを呼びに女子部屋に走った。

 獣人の村の人が用意してくれた空き家の部屋だ。


 急いでレリアさんを呼んで来たら彼女の診察結果は、



「ネオ様、こちらもマギアストームですわ、私ではどうにもなりません」

「えっ、じゃあまた俺の出番か!」


 デジャブを感じるのである。



「じゃあ、男の僕は外に出てるね!」


 ユージーンは気を利かせて外に出たので、俺は急いで手を洗って布で拭いた。



「マーヤさん! 知ってると思いますが治療なので胸を触りますけど、怒らないでくださいね!」

「は、い……っ」


 念の為に許可をとってから、胸に手を置いた。


「魔力吸収!!」

「んっ! く!」


 しばらく胸をマッサージした。

 吸収! 魔力吸収の医療行為です!

 モミモミモミモミモミモミモミモミ。



「ハアッ、ハア……ッ!!」


「マーヤさんには前兆のような症状はあったはずなんですよ。たまに苦しげに胸を押さえてたらしくて、でも研究で魔力を使いすぎたとか、ちょっと寝不足なだけと言い張って診察をうけなくて……」


 治療を見守るレリアさんがそのように話してくれた。

 詳しいな、そもそも知り合いだったのか。



「ごめん……認めたくなかった……マギアストームだなんて、この私が……治療法も最近まで無かった病だったし……不安で」


 わりと喋れるくらいに落ち着いたようだ。

 今のとこ俺が唯一の治療師だと言うからな……。

 あまり公にもしてなかったし。



「王弟殿下はマーヤさんの病に見抜いておられた可能性が有りますね。だからこの旅に同行すると借金も帰せるとお誘いになって……」


「なるほど、部下思いの方なんですね。男ばかりだと花が足りないから女性を入れたなんて言いつつも」


 マーヤさんは王弟殿下の辺境伯領の魔法使いらしいからな。


「そういえば獣人の二人ですが、我々人族の地では保護するために子爵領の者だと一目でわかる印が必要だと思いますわ」


 レリアさんがそう言うと、


「一般的には首輪とタグのようですが」



 俺の治療で回復したマーヤさんがベッドから起き上がりつつ、首輪とタグが多いと教えてくれたが、



「奴隷でもないのに首輪は無理です。可哀想だし。せめて大きめのリボンに紋章を入れるとか、冬にはマントとかで、さもなくば紋章入りブレスレットやカチューシャとか」


「とにかく何かを用意する必要があります、貴族の庇護下にあるという印が」


「あ、用意で思い出しましたが私はこの布を渡しに来たのでした」


 起き上がりテーブルに向かったマーヤさんが魔法陣の書かれた布を俺に渡して来た。


「これは?」


「ミィソやソイソースを手に入れるために毎回ここまで行き来するのは困難です。特に人族は基本的にここでは歓迎されません。ネオさんが領地持ちとなれば動きにくくなるかもしれませんし。これは人のような生物は無理ですが、一度に壺2つ分位の物を置いて転送させることが出来る魔法陣です、私が作りました」


「おお! それはとても助かります! 村への行き来が大変だから交易をどうしようかと思っていたんですよ! ありがとうございます!!」 


「はい、ですのでこの布をここの村長にでも預け、転送を頼むといいでしょう。交易品の対価はここで手に入り難い海の幸でも衣服の布など、何かで交渉なさってください」


 布! そういえば布も入手が大変かも。

 男性は腰に毛皮の人も多いけど布の服を着てる人は着古した雰囲気の方が多い。



「わかりました! 門番さんならまだ起きてるはずですから村長さんに明日の朝には面会したいと申請を出してもらいます! 森の外に帰る前にパパっと!」

「はい、私は部屋に戻ります。治療ありがとうございました」

「いえいえ! ことらこそ大変貴重なものをいただきました!」



 俺達はお互いに感謝の言葉を伝えた。

 そして俺は魔法陣の布を抱えたまま村の入り口に立つ門番さんの元へ走った。




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