第43話 帰還準備
「そういえば、エイダさん、マギアストームの治療はおそらく一回で完治するものではないので、寝るたびに魔力は回復しますからまた魔力が溜まり過ぎでしまうと、吸収の必要があるかと」
新米もいただいたので、そろそろ帰り支度を始めた俺はエイダさんの家に挨拶に来た。
「え、あっ、すると定期的に治療を受けないとまた私はあの苦しみを味わう事に!?」
俺がエイダさんの言葉におそらくと頷くと、彼女の顔色は可哀想なくらい青くなった。
でも大事な情報なので……。
「俺、いえ私はヴィヒトリ辺境伯領から領地を分譲してもらい、いずれそこに住む予定なので危険な気配をら感じたらそちらへ、なんとかお越しください。人族の住まう地では有りますが」
森を越えるのはかなり厳しい条件かもしれないが、一応来てくれたら見れるとは言っておく。
「……治療師様について行ってもいいですか?」
「はい?」
「あなたは今からお帰りになるのでしょう? この森を出て……」
「はい、それはそうですが、いいのですか?」
「もうあの苦しみを味わうのは嫌なのです! メイドでも何でもいいのでお側に置いてください」
エイダさんは赤い瞳をうるうるさせて懇願してくる。
さもありなん。
発作の起きてる人は皆、苦しそうだもんな。
「ええと、エイダさんのご両親は?」
「もういません、アルテも……私も、両親は森で魔物に襲われて……」
こちらで親らしき方を見なかったし、何か事情がありそうだとは思ったが、孤児だったのか。
「アルテも行く! エイダといっしよに行く!」
お昼寝してたと思ったアルテちゃんがムクリと起きてそう叫んだ。
二人は本物の姉妹のようにして育ったのかもしれない。
「そ、そうか、俺は構いませんが」
「私、急いで旅立つ準備をします。たいした財産はないので、ほぼ村でお世話になった人に挨拶周りをすれば済むので、少々お待ちいただけますか?」
「それはもちろん」
帰りは王弟殿下からいただいてる転移スクロールでサクッと帰れるので、村人さえ滞在を許してくれるなら別に少しくらい構わない。
◆ ◆ ◆
「そうか、定期的に魔力を吸い上げて貰わないとまた苦しい思いをするなら仕方ないな、でも人族の中には邪悪なやつもいるから外では気をつけるんだぞ」
「分かってるわ」
「アルテも一人で家の外をチョロチョロすると奴隷商人に捕まるから気をつけるんだぞ」
「うん……」
最後の挨拶周りを少し離れた場所から見守った俺達。
夕食はなんとなく肉じゃがを作った。
せっかく醤油も手に入れたからな。
お外のテーブル席で夕食を食べることにした俺達。
湿度の高い日本と違い、残暑も厳しくないのだ。
もうすっかり夕刻には涼しくなって、鈴虫のような虫の声を聞きつつの食事は風情がある。
「この料理も美味しいですな」
騎士も満足のこの一品。
「ありがとうございます、肉じゃがという料理です」
「ホクホクのじゃがいもにいい感じで味が染みてますね!」
巫女さんにも好まれたようだ。
「白米のおかずにも合うでしょう?」
「はい、素晴らしいですわ」
ややして村の仲間に挨拶を終えたエイダさんが戻って来た。
「おかえりなさい、良ければエイダさんとアルテちゃんも肉じゃがをどうぞ」
「ありがとうございます」
「これ、ほくほくでおいちいー」
「ええ、本当にネオ様は料理がお上手なのですね
。こちらからはかぼちゃのパイをどうぞ、餞別に貰ったものですが」
かぼちゃのパイのお裾分けだ。
「ありがとうございます。俺、かぼちゃのパイ、大好きなんですよ」
「そんなんですね! 良かったです」
秋感もあっていいよな、かぼちゃとか栗とかって。
「うん、やっぱりこのかぼちゃパイ、美味しいな」
「マルルおばさんのパイは絶品なんです」
明日の朝には、この獣人の村を立つ。
「アルテ、今夜はこの村で過ごす最後の夜になるわよ」
「うん……」
エイダさんとアルテちゃんは夕陽色に染まった村を見渡した。
結局、うさ耳さんと猫耳ちゃんをお持ち帰りすることになった俺って凄くないか?
大本命の米、醤油、味噌に加えてうさ耳美女とかわいい猫耳幼女!
この遠征、大収穫となってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます