第42話 新米収穫

 黄金色の稲が風に靡く、その様は懐かしい故郷を思い起こさせる。

 少しセンチメンタルにもなったが、今は食欲が上回る。


 * * *


 そして収穫の時が来た。

 鎌を持って、俺も収穫の手伝いをした。

 楽しい!


 更に自分の目の前や横で獣人達が尻尾をフリフリしつつ収穫作業をしてる。

 あの尻尾、めっちゃモフりてぇ。

 特にフサフサ系の尻尾の誘惑がすごい。


 だが、今は稲刈りに集中しよう。


 しばらくせっせと新米の為の収穫作業をした。



「よーし、皆、お疲れ様ー!」

「お疲れ様ー!」


 稲刈り作業の終わりに獣人の皆がそんな声を掛け合う中、


「さあ、稲を束ねて縛り、干しましょう! はさがけです! 10日は干して乾燥させてください!」


 俺がそのように張り切って言うと、


「ただの飼料になんであんなに熱心なんだ、あの人族は」

「あいつは自分で食べるんだってさ」

「へぇ、あれを? 美味いのか?」

「お前は肉食だもんなぁ」



 周囲の反応はイマイチ薄かった。

 はさがけ作業はやってくれはするけど。


 ちなみに俺は稲刈りをしたら稲を束ねて縛り、竹等の木で組んだ「はざ」にかけて数週間日光や風に当てて乾燥させるというやり方は前世で学んでいる。


 さて、先に古米の方を食うか、新米を食うか、悩む所。

 んー、新米は帰ってから令嬢達にもふるまって食うべきかな。護衛もつけてくれたし。


 俺は獣人の村にあった雑貨屋で土鍋を5個も買ったから、先日せっせと脱穀精米した分を炊いてみることにした。


 ここはシンプルに米の旨味を感じたいから塩おにぎりにしよう。


 そしてしばし2つの土鍋でグツグツやって、ついにその時が来た!

 土鍋の蓋を開けるとぶわーっと蒸気が上がる。



「炊けたぞ! 白米だ!」

「へー! 白くてツヤツヤしてるね」

「少し冷めたらおにぎりにするよ、今はちと熱すぎる」


 しばらく待ってからまだ熱いけど、「熱い!」などと叫びつつ、おにぎりを握る俺。


「ネ、ネオ、大丈夫? もっと冷めてからでもいいのでは?」

「あんまり冷め過ぎても味が落ちるから! ここは気合いで乗り切る!」

「この、米への執念が凄いな……」


 ユージーンにやや呆れられながらも、俺は水で手を冷やし、塩をまぶしては、おにぎりを数個握ってく。


「お手伝いしましょう、我々は多少の熱は大丈夫ですので」

「騎士さん達! ありがとうございます!」


 三人の騎士達とユージーンも手を洗ってからもう一つの土鍋で炊いた分を、俺の見よう見真似でおにぎりにしてくれた。



「ネオ殿、この三角に握るのは難しくないですか?」

「おにぎりは無理せずに丸でも俵型でもいいんですよ!」


 俺は丸と俵型も作って見せた。



「それならできそうです」

「私も」

「右に同じく」


 そうして、三角と丸と俵型のおにぎりが大皿の上に並んだ。


「できた! おかずは魚の干物!」



 今日のランチはおにぎりと干物である。

 庭にあるテーブルセットに腰掛け、俺は旅の仲間たちと食卓を囲む。


 さて、手を合わせて、


「いただきます!」


 と、改めておにぎりを手にした。



「ご相伴にあずかります」

「私も」

「いただきますねー」


 皆がそれぞれひと声かけておにぎりに手を伸ばす。


「はい、皆さんもどうぞー」


 ぱくり。

 口の中に白米を入れると優しい甘さと程よい塩加減のご飯がほぐれていく。


 美味い!!


 あー、久しぶりの白米は沁みる美味さだ!



「おや? 美味しいぞ? これを彼等は飼料にしてたのか?」

「本当に美味しいわね」

「あらー、優しい甘さがあるわ」


「脱穀も精米もしなくて美味さに気がついてないのにちゃんとした棚田があるから不思議なんですよ」


「だいぶん昔、旅をしてきた私達の仲間が飼料にいいからって種籾を使って育てはじめたのが始まりらしいの」


 エイダさんが、声をかけてきた。

 アルテちゃんもいる。


「お二人も良ければどうぞ」

「本当にいいのかしら?」


「はい、この村でとれた米なので」

「ありがとうございます」


 エイダさんとアルテちゃんは控えめに小さく丸いおにぎりをえらんだ。


「あら? 本当に美味しいわ」

「おいちい」



 エイダさんもアルテちゃんも目を輝かせ、米の美味さに目覚めた!


「精米して炊くとこんなに美味しくなるってお仲間さんにも伝えて稲をどんどん育ててくださいね!」


 種籾ももらったけど、米作りは盛んにやってほしいから。


「わかったわ! もう一つ小さいのもらっていい?」

「どうぞ」


 エイダさんは小さ目のおにぎりを一つ持って仲間の元へ走った。

 ややして、



「なんじゃあ! こりゃあ! 美味いーーっ!」

「おい! セイマイってやつはどうやるんだ!」

「私が様子を見てたから教えるわ!」

「でかしたエイダ!」



 って村人の叫び声が聞こえた。

 


「この干物も美味いな」

「干物はソイソースで余計美味くなるな」

「辛いの美味いな、酒が欲しくなる」

「違いない」


「このおにぎりも醤油を、ソイソースをつけて焼くとまた違う美味しさになりますよ」



 俺は焼きおにぎりも好きだ。


「ほほー、いろんな食べ方があるんですな」

「そうなんです! 貰った米には量に限りがあるのであとは帰ってからのお楽しみにします! 令嬢達にもふるまわないと!」 


「ニコレット様も、お喜びになるでしょう」

「レベッカ様も!」

「エマ様も!」



 自らの主君の家の令嬢達のアピールを忘れない騎士達は大変健気だと思った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る