第13話 歌と金貨
吟遊詩人のいる公園に馬車で向かいつつも、魔力吸収の報酬に珍しい調味料を要求してもいいかもと俺は思い始めた。
現状価格も決めず、お気持ちでどうぞみたいになってしまっているし。
せっかく貴族とコネができた今なら、この世界に醤油や味噌なども……。
待てよ、とりあえず令嬢達に聞いてはみるが、あの掲示板の使えるスマホが手に入れば、そこでも聞けるかもしれないな。
今、あれを持っているのは確実に高位貴族だけであろうが、もっと普及していけば閲覧者も増える。
切り出すタイミングは晩餐の時でいいかな?
エマ嬢もその頃には回復しているといいが。
そんなことを考えつつも、我々は敷地内の公園に着いた。
大きな噴水の側で、吟遊詩人が謳っている。
かつて何処かにいた姫と王子の恋の歌のようだ。
藁をまとめて縛ってある簡易な椅子の貸出しがあったので平民達はそれに座って聞いていたので、ひとまず同じようにした。
「さて、私は色んなところで新しい歌を仕入れるのが好きなのですが、お客様の中に私の知らない歌を教えてくださる人はいらっしゃいませんか? この私が全く知らない歌なら金貨一枚差し上げます!」
客達はどよめいた。
歌を教えるだけで金貨一枚は破格だ!
「わ、私が教えます!」
一目で平民だと分かるお嬢さんが挙手をして、はじめの方のフレーズを歌って披露したが、
「ストップ! このあとは……」
こうですね? と続きを吟遊詩人が歌い出した。
「あ、この曲はご存知だったんですね」
お嬢さんは、しょんぼり。
残念! 報酬の金貨は逃した。
その後も三人くらい挑んだが、全て吟遊詩人が知っている歌だった。
俺なら異世界の歌を知っている。
こちらの人は絶対に知らないはずだから有利。
こちらの言語と異なるが、まぁ、いってみようか?
他人の作った歌一曲で金貨一枚はボロ儲けだ。
どうせ今はユージーンもいないし。
でも、一応著作権セーフそうな曲……。
古い民謡みたいな?
「はい! 私が挑戦してもいいですか?」
意を決して名乗り出た。
「はい! 銀髪のハンサムさん! もちろんどうぞ!」
「まあ、ネオ様の歌が聴けるなんて、嬉しいですわ」
「わたくしも!」
ニコレット様とレベッカ様がワクワクしながら期待をかけてきた。
「伴奏なしですが、では……」
エルフィン・ナイトの歌を歌う。
原曲は作者不詳で記録によれば地球の”10世紀ごろ”には歌われていたイングランドの古い民謡。
少し恥ずかしいけど、この新しい体はイケメンだからそれなりに様になるだろうし、いいだろうと。
そして歌い終わり、物悲しくて切なく美しいメロディが聴衆の心をうったようだ。
「ほぼわからない言語でしたが、なんという切なく美しいメロディでしょうか! 感動しました! 曲名はなんという歌ですか?」
「エルフィン・ナイトです」
「内容はどのようなものなのですか?」
吟遊詩人に詳しく説明を求められた。
「かつては人だったけど、戦争で亡くなり、人ならざる妖精の騎士となった男はとある土地の市場に向かう旅人に話しかけ、魂を取るために無理難題を言います。
その市場にいる女性に声をかけ、針の縫い目のない薄手のシャツを作ってもらってくれとか。
しかし旅人は、この話にのってしまうと命をとられるので、関係のない香草の名前を唱えます。
「パセリ、セージ、ローズマリー、タイム」と。
この香草は病気など、魔除けにも使えると言われていますので、思わず唱えたんだと思います。
多分恐ろしい人外の者と遭遇したらおまじないにハーブの名を唱えろってことを伝えたかった伝承歌かと思います」
「なるほど! ハーブのところだけは分かったので、納得です!」
ここは異世界なのにハーブの名前は奇跡的に被ってた。
そして吟遊詩人は今、熱心にメモをとっている。
その間、俺は令嬢達に素敵な歌でしたわ! などと褒められたが、今歌ったのは俺でも曲を作ったのは俺ではない。
恐縮です!
メモを取り終わった吟遊詩人は俺に約束どおり、金貨をくれた。
「お約束の金貨です。素敵なメロディーの曲を教えてくださってありがとうございました!」
「いえいえ、俺が作った曲ではないので恐縮ですが」
「民間に受け継がれた曲ならそういうものでしょう、作者不明なのはよくあります」
「ですよね~」
て、ことにしとこう!
ともかく金貨ゲット!
「さて、ネオ様の素敵な歌声も聴けましたし、屋敷に戻りましょうか」
サーラさんに促され、俺達は晩餐の為に別荘に戻った。
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