第8話 賢くて勇敢なやつ

 ピクニックデートを控え、俺達は貸家で夜を過ごした。

 幸い金縛りとか霊障には合わなかった。


 セーフ!!

 ところで貸家なんだったらホコリまみれにしとかず清掃くらいしといて欲しい。

 もしやこの物件借りる人が少ない?


 やっぱアパート風のやつのが借り手多いのかもなぁ。


 まあ、今更だが。



 ◆◆◆



 新しい朝が来た。いい天気だ。

 俺はスマホっぽい魔道具の為にデートに行く物欲に負けた男。



 俺は朝から卵サンドを作ってランチボックスのカゴに詰めた。

 つまり弁当の残りのもので朝ご飯にする。




「わあ! この卵を挟んだやつ、すごく美味しいね!」

「フフン。マヨネーズを自作したしな」


 俺はドヤ顔で異世界でマヨネーズを作る男になってしまった。


「これ、今日のピクニックに持って行くんだね」

「そうだ」



 そして二人で美味しく朝飯をいただいた後、俺は貴族服に着替えを終え、洗い物を終えたユージーンが窓辺で海を見ながらお茶を飲んでたので声をかけた。



「ユージーン、そろそろ支度できたか?」

「はい? なんで僕?」

「ピクニックデートの日は今日だって聞いてたろ?」

「それは分かってるけど、デートになんで僕を連れてくの?」



 こいつマジか?

 みたいな顔をされた。



「だって、相手のニコレット様だって侍女のサーラさんとかをお供に連れてくるだろ? 貴族なんだし」

「そ、そうかな?」

「そうだよ! 会話が上手く続かない時はさりげなく助けてくれよ」


「仕方ないなぁ、でも、相手側からお前外せよ? みたいな気配感じたら僕は先にこの家に帰っておくよ?」

「わ、わかった」



 でも貴族令嬢相手にデートしてホテル行ってワンナイトとかはないと思うんだよな。

 まず先に婚約するし、今の俺は平民だし。

 実家に破門されてなければ同じ侯爵の位だから地位的には釣り合ってはいたが。



「おはようございます、ニコレット様、素敵なドレスですね」


 今日の彼女は夏の陽射しの下で淡いラベンダーカラーのドレスを着ておられる。

 そしてやはり侍女のサーラさんもついて来ている。



「ありがとうございます」



 ニコレット様ははにかみながら微笑んだ。

 馬車に乗ってしばらく移動。

 窓の外の景色が興味深い。


 ややして広い公園のような場所に到着した。




「景色のいい場所ですね」

「ありがとうございます、うちの別荘地ですの」

「そ、そうだったんですね」


「今日はピクニックバスケットも持ってきましたので、あの木の下あたりでお茶などいかがですか?」


 ニコレット様の指し示す場所をみると、小高い丘になっている場所に、大きな木が生えていた。


「いいですね」


 そこに日傘を差したニコレット様の空いてる方の手をとる俺。

 デートのエスコートってこんな感じだよな?

 ラノベや漫画で異世界令嬢ものも読んだ事がある!


 ユージーンとサーラさんは少し離れた後方からついてくるっぽいし、多分合ってる。



 木の下に向かっていると、自然豊かな場所だったせいか、大きな野生動物もいた。


 ヘラジカ!

 立派な角のある鹿!!


 何故か人間である俺達の方に向かってくる。

 俺は一旦エスコートの手を離して、ヘラジカからニコレット様を守るように前に出た。



 こんな時に限ってデートのせいか護衛騎士がいない!



「おいおい、なんだ君は?」



 などと無駄とは思うがつい、ヘラジカに声をかける俺。

 ヘラジカは物言いたげな様子で俺を見つめた後、至近距離まで来て頭を下げた。

 なんだ? 撫でて欲しいのか?



「ヘラジカが頭を下げましたわ」

「ニコレット様、ここのヘラジカは人間に懐いてて撫でられるのが好きなんですか?」

「いいえ、このように無警戒で人間に近づくことは稀ですわ」



 その時、俺の脳裏に前世の記憶が蘇る。

 助けを求めて車に乗ってる人間にわざと近づくヘラジカがいたことを!

 SNSの動画で見た!



「もしかして、何か困ってるのか?」



 ヘラジカが物言いたげな様子で林の中に俺をいざなう。


 ニコレット様達も後方からついてくる。


 すると、マジでもう一匹のヘラジカが泥沼にハマってるではないか!



「あっ! ヘラジカが泥にハマって動けなくなってますわ!!」

「これ、仲間を助けてほしくて人間のとこに来たのか! 賢いなあ!」



 俺は貰ったばかりの魔法陣の描いてある収納布からロープを取り出した。


 確か動画では角にロープを巻きつけて引っ張り上げていた。



「まさにこの状況、男の人呼んで! な、案件だな! えーと、このロープを角に巻きつけて引き上げるしかないと思うが」

 


 ロープを上手に投げる技が俺にはない!




「僕達が男の人だよね。ネオ、ロープを貸して」

「お、いけるか、ユージーン! 角にロープを巻き付ける作業は頼んだ、引き上げは一緒にやろう」



 ユージーンは、俺からロープを受け取り、それをヘラジカの角をめがけて投げた!

 ちゃんと角にかかった!



「お見事! 流石騎士の息子! だが、1回だけ引っ掛けてもスポッと抜けるかもしれんのでもっと左右の角にぐるぐるにできるか?」

「や、やってみる!」


「私が魔法でアシストしますわ!」



 ニコレット様が風魔法を使ったようで、ふわりとロープが浮いて、いい感じに角に絡まった。


「わあ! すごい! 助かりました!」


 ユージーンがニコレット様に御礼を言う。



「アシストありがとうございます! ヘラジカを引っ張りあげますので、レディは泥ハネに注意して下がっていてください!」

「ええ、ネオ様、分かりましたわ!」



「行くぞ。ユージーン! せーの!」

「はい!」



 そしてユージーンと一緒にロープを引っ張って泥沼からヘラジカを救った。


「ニコレット様はお水をお持ちでしょうか? この泥沼にはまっていた鹿に飲ませてやりたいのですが」

「あります! 出せます!」



 ニコレット様はなんと魔法で水も出せた。

 流石魔力が豊富過ぎで病になる人だ。

 泥まみれのヘラジカ相手に水魔法で泥を流してあげてる。


「すごい、魔法便利……」



 サーラさんがピクニックバスケットから皿を一枚取り出し、そこにニコレット様が魔法の水を注ぐとヘラジカはそれを飲んだ。



 それから俺に助けを求めた賢いヘラジカがまた頭を下げてから、救われたヘラジカと去って行った。



「あいつ前世が人間か? 賢いなぁ」

「珍しいこともあるものですね」


 俺は頷いた。



「一歩間違えたら……俺が腹ペコなら自分も仲間も殺されて食われた可能性もあるのに仲間の為に勇気を出して人間に助けをもとめに来たんだなぁ」


 しみじみと仲間思いのヘラに感動した。



「ネオ様が優しい人だとあのヘラジカにも分かったのかもしれませんね」



 ニコニコ微笑むニコレット様のセリフに焦った。

 照れる!

 確かにあんな大きくて賢い動物狩るのは心理的に辛いけど!



「えーと、今日はたまたまお弁当があるから見逃したんですよ」

「ふふっ、そうですね」


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