第7話 意外な物

 掃除が終わった仮住まいの家に来た。

 なかなか、綺麗になっている。

 これで寝れるな!

 新しいブランケットも買ったし!


 貸家紹介の人にお金を払ってひと月分のお支払いをした。


 そして軽くパンなど食べてから、針と糸という釣り道具を揃え、朝から川に来た。



「ユージーン、木の枝、棒のようなものを探そう、糸をくくりつけるためのある程度しっかりしたやつ、あとミミズも」

「わかった」


 ゴソゴソと、木の枝と、ついでに釣りの餌のミミズも探す。

 三本ほどいい棒を見つけた。

 仕掛け罠なのでしばらく餌を針先にかけて放置するのだ。



「この木からいい枝ぶりのやつ、残り何本か貰う?」

「そうだな、それが手っ取り早い」



 生い茂るヤブの中の木の枝をナタで伐採した。

 ナタやスコップは借りた家にあったもの。

 やや錆びてるが、十分使えた。



 川の縁の地面の部分の穴を掘り、杭のように棒をつき刺す。


 糸をくくりつけ、糸の先にはつり針と餌の脂身。

 これで仕掛けの完成だ。


 川辺の木の枝も罠に利用してくくりつけた。

 罠は全部で八個だ。



 ざぶざぶと水に入ったが、夏なので大丈夫。

 気持ちいいくらいだ。

 しばらく夕刻ぐらいまで一旦放置。



 その間、ニコレット様から魔法のカフス経由で連絡があって明日の予定を聞かれた。



『明日の夕刻に川に仕掛けた罠の確認にいきます』

『川に? それ、私も見学に行っても構わないでしょうか?』



 平民の川遊びに興味があるのかな?



『構いませんよ、しかし私たちはおそらく水浸しになりますから、あまり近づき過ぎないように注意なさってください』

『分かりましたわ♡』



 夕陽の照り返しの美しい頃に、また川に来た。

 仕掛けの確認だ。


 ニコレット様も護衛騎士やサーラさんとメイドも連れて見学に来ていた。



「ごきげんよう、ネオ様」

「夕日の美しい午後ですね、ニコレット様、サーラ様」


 二人はニコリと微笑んだ。


「おふたりの邪魔をしないように見ておりますね」



 ニコレット様に日傘を撐すサーラさんがそう言ってくれたので、俺達は俺達で気兼ねなく楽しむことにした。




「さて、仕掛けの確認からしてきます」

「あ、あの糸、引いてますね! 何かかかっているようですわ!」


 ニコレット様が目ざとく一つの罠を発見した。


「そのようです、ユージーン、俺が魚を掴むから、網の用意を」

「はいはーい」



 かかっていたのは大型のナマズ!

 手から肘くらいまである!


「なかなかでかいナマズだ!」

「まあ! 大きいわ!」

「くっ、滑る! ぬるぬるする!」

「ネオ! 早くこの網に入れて!」


 ユージーンが口を広げる網にナマズを入れる!

 とうっ!



「よし! 無事に入ったぞ!」

「入ったわ! ネオ様、お見事ですわ!」

「ありがと……ん!?」



 ところでこの世界では意外なものを目にすることがある。



「ネオ様、どうかされましたか?」

「ニコレット様? 何をなさっているのですか?」



 ぱっと見、スマホのようなもので俺達を撮影してるように見えるのだが。



「あ、これですか? 撮影機能付きの魔道具です! 匿名掲示板で書き込みや閲覧もできる機能もついてますの! 先日発売されたばかりの限定100個のうち二個をオークションで買いました!」


 ホクホクした顔で報告してくれたニコレット様。


 な、なんと!

 スマホに似た板状の魔道具で、巨大掲示板が使用できるものがつい先日発売されたらしい!


 俺と同じ地球出身の転生者が錬金術師にでもなったのか? 



「素晴らしいですね、それ!」



 掲示板を俺も見たい!! 

 暇つぶしと情報収集にもってこいでは!?

 だってこの世界テレビもないし、本は高級品だし、漫画もない!



「ふふ、そうですわね、貴族しか参加できないオークションでいい値段がしましたもの」


 うっわ、めちゃくちゃ高そう!



「それで個人宛のメール、あの、遠方に住む友達とメッセージのやりとりもできる感じですか? あるいは通話機能とか」


 思わず矢継早に質問してしまう俺氏!



「そのような個人間のやり取りまではクーデターとかの反乱防止法でできませんの、結託して悪企みに使われるといけませんので。

 掲示板は匿名で書き込めるのですが、一応国に検閲もされます」



 ほーん、なるほどね。

 前世にあった3チャンネルみたいな掲示板は使えると。


 ところでこの耳のカフスの通話は大丈夫なのですか? クーデター防止のホニャララにはひっかからないのかな?

 とかは聞かない方がいいのかな。

 パッと見はただのアクセなんだよな。

 

 て、ゆーかさ、どうしてもその魔道具が欲しくなった! 

 が、貴族しか出入りできないオークションでのみ購入できるらしいしな、今のままだと難しい。



「ネオ様もこれが欲しいのでしたら、予備をお譲りしてもよろしくってよ」

「え!?」


「ただし、条件つきですが」

「ど、どんな条件でしょうか?」


 思わずゴクリと生つばを飲む我。


「簡単ですわ、今度私とデートしてくださいな」



 条件とはデート!?



「そ、そんなことでよければ」



 この体、スタートが婚約破棄と追放で不遇ではあったが、イケメンでようやく得したな!



「うふふ、では、成立ですね」

「ですが、ニコレット様には婚約者とかはおられないのですか?」


 侯爵令嬢がいないはずないと思うのだが。



「先日調査の結果、婚約者が浮気をしていた証拠を押さえましたの、それですぐ婚約破棄を申し出ました」

「は、速い!」


 それで、デートをすることになった。

 俺は物欲に流される男!

 ユージーンにも特に止められたりはしてないし、まあ、デートくらいはな!



「とりあえず今は仕掛けの回収だよ、ネオ」

「そうだよな! 貴重なただ食材!」



 その後、仕掛けた罠を全部確認し、八個の罠をしかけて六匹の魚をゲットした。

 罠にかかった魚は川なのにイシダイに似たやつ二匹と鯉に似た魚一匹とナマズ三匹だった。



 地元の人に聞くとナマズが一番美味いらしい。

 マジか。


 帰り道で市場に寄り、ナマズとイシダイに似た魚を一匹ずつ残し、ほかは売ることにした。


 安価にしたのでわりとすぐに売れた。



 自宅に戻って二匹魚の下処理をして、ナマズとイシダイに似た魚を唐揚げにして食べてみた。



「あれ、このナマズ、ほんとに上質な白身でクセもなくなかなか美味いやつだ」

「ほんとだね、こちらのしましま模様のあった魚も食べてみよう」

「こっちもなかなか美味いが、ナマズのが肉厚で食べ応えがあるな」

「だねぇー」



 ◆ ◆ ◆


 先日令嬢から貰った衣装一式あれば高級レストランでもオペラにでも行けるけど、全身貰い物って男女逆なら貴方色に染まりました的な感じでいいのかもしれないけど、男の場合、ひも感ない?


 なんとなく恥ずかしいので、一式だけ残して置いた貴族服でデートに行く事にした。


 白いシルクのシャツとゴブラン織り系のベスト。

 黒のズボンと靴。

 夏だし、この程度でいいだろ!

 ピクニックらしいから、ジャケット無しで!



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