第6話 プレゼント攻撃

 たとえひと月分の仮住まいでも、ホコリと蜘蛛の巣まみれでは過ごせない。

 キモイから。


 俺は金を払って他人に掃除を頼んでる間に、図書館へ出かける事にした。


 あ、図書館の場所は宿屋の人に聞いた。



 つまりあのマギアストームの患者とは女性のみなのか? という疑問があって、滞在中の領地内にある図書館に向かった訳だ。 


 平民でも銀貨一枚で入れるが、平民は盗難防止で出る時にカバンなどの持ち物チェックはされる。


 貴族はほぼ多めに寄付金を入れるので荷物検査は無い。


 着いてみれば、なかなか立派で大きな建物だった。

 窓には部分的にステンドグラスまで使われていて華麗。


 沢山並ぶ本棚の前で一瞬途方にくれたが、司書らしき人発見!

 マギアストームの病に関係する本のありかを訪ねた。


 そしてユージーンには別の調べ物を頼んで、手分けすることにした。


 俺は備え付けのテーブル席に向かい、椅子に座って探し出した本のページをめくってみた。

 しばらく読み進める。


「えーと、魔力嵐の病は女性に多いが、男性にも当然発症する」



 あー、男にも発症するんだ。

 更に読み進める。



「未だ有効な治療薬は開発されておらず、痛み止めの薬などの対処が一般的だが、効果は薄い。

 魔力の強い家門の者同士で婚姻を重ねた結果、増えて来た現代の難病とされている。なるほどぉ」


 ふーん。

 強い魔力にこだわり過ぎた貴族の末路か。




「何か有効な情報あった?」


 ユージーンが一冊の本を抱えて声をかけてきた。



「例のマギアストームは男性にも発症する病みたいだ、でも男の胸とかはあんまり揉みたくないな」


「お金のためだろ」


 ユージーンは呆れ顔だ。


「それはそうだけどな。ところでユージーン、竹の生えてる土地を調べてくれたか?」



 俺はユージーンには竹の事を調べてもらってた。

 せっかく図書館にいるので。



「あったけどかなり東の島国発祥の植物のようだよ、でも材木店で輸入ものがあるっぽい」

「近場で竹林もってる人はいないのかな」

「ネオは竹をどうしたいの?」


「ユージーンが魚を捕るの、釣りより罠の方が楽だって言ったじゃん」

「確かに言ったけど」

「竹で罠が作れるんだよ」

「あれじゃないと無理ってことはないよね?」


「それはそうだがな」

「とりあえず手軽な糸と針でやってみようよ」

「そうだな」


「餌はどうする? ミミズ?」

「ミミズの他に大物狙いで豚の脂身でも買おうか、脂身の部位なら安いし」

「いいよ」


 図書館帰りに針と糸と脂身と自分達用の食材を買って宿屋に戻ると、例の貴族令嬢の使いの者がいた。


 お嬢様は近くのカフェで待機しつつ俺を待ってるらしい。

 宿屋の自分達の部屋に荷物を置いてから、俺達はカフェに向かった。



 程よく蔦の絡む可愛い外見のカフェだった。

 扉の側に護衛騎士が四人いる。



「お待たせして申し訳ありません」


 俺が謝罪しつつ店内を見ると、彼女とお付きの者と護衛騎士と店員さん以外いない。

 客っぽいのがいないのだ。

 もしかしたら貴族の財力で貸し切ってる。


「ネオ様! いいえ、とんでもありませんわ」


 早速、といった感じで侍女のサーラさんが魔法陣の描かれた布をテーブルの上に置き、口をひらいた。

「追加の御礼をお持ちしました」


「そ、それはご丁寧にありがとうございます」


 次にニコレットお嬢様が魔法陣に魔力を注ぐと、魔法陣の中からイヤーカフが出てきた。

 色はシルバーでクールな印象の、男が着けてても違和感がなさそうなやつで、なんか刻印みたいなマークが入ってる。



「この耳飾りは遠く離れた場所にいても通話ができる魔道具ですわ」

「おお!」


 スマホに変わる通信道具!!

 彼女が自らの耳に着けている、俺のと同じ刻印付きクリスタルの耳飾りを触れつつ更に説明してくれる。


「こちら、私のイヤリングと対になっておりますから、私とだけなら通話できますの」


 限定した相手のみの通信道具か!

 でもそうだな、彼女は自分が発作を起こした時に俺を呼ばないとだから、当然かも。


 俺はひとまず目の前でイヤーカフを耳に着けた。



「なるほど、これで呼び出せればどこかに出かけていても駆けつけることができますね」

「お似合いですわ」


 令嬢はとても嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとうございます」


 俺が照れながら御礼を言うと、令嬢は更に魔法陣から巻物を取り出した。



「そしてこちらが転移スクロールで、当家の敷地内にあるゲートに飛べます。これは臨時の、非常事態に備えるものであり、基本的にはネオ様の居場所さえ把握できていたらこちらから伺うことができますので……」



「なるほど」


 これは瞬間移動みたいなことができる巻物だ!

 とても高価なものらしい。

 流石貴族。

 こんなのまで用意してくれたんだな。

 こちらも借家の地図くらい渡さないとな。


 俺はカバンから地図を取り出した。



「こちら、当方がとりあえず一ヶ月契約で借りる借家の地図です。海の側にあります」


「ありがとうございます。私の発作は月一くらいの周期で起きますので、月に一度、できれば発作前に吸収をお願いしたいと思っています」

「なるほど、わかりました」


「それにしても、こちらでお住まいも用意出来ましたのに、貸家はもう契約されたんですね」

「はい、すみません、ありがとうございます」



 家かー、話がうまい。うますぎる。

 でも甘えすぎも怖いんだよな。

 囲い込みに必死な感じするし、何しろ相手は貴族だし。



「そして更にこちら衣装と宝石をお受け取りください」

「いや、そ、そんなには、もらいすぎかと」

「まあ、命の恩人ですのよ」


 はっ、私の命を軽く見るつもりかと怒らせた!?


「いえ、その、こちらはただの庶民ですので」


 小市民アピール!

 しかし、ニコレット嬢は苦笑いしつつ、さらなるプレゼント攻撃をして来た。



「そして今朝届いたこの魔法の収納布も差し上げます」

「ええっ!? こんな便利なものを!?」


 これって持ち運びが便利なアイテムボックスと同じやん!

 嵩張る重い荷物から解放される!

 超助かる!


「ええ、もちろんですわ」


 さすが貴族だ! こんな貴重なものをくれるなんて!

 今なら靴でも舐められる!


「ありがとうございます! 助かります!」

「ただ、3年くらいはこの地に留まっていただきたいのです」


 !!

 それはそうだよな!

 話がうますぎると思ったよ!

 でも10年とか言わないだけ優しいかもな!


「こんなすごい贈り物をされたんですから、3年はいますとも」

「でも三年の間に旅行などに行きたい時はお声がけくださいませね、私も同行させていただきます。

費用もこちらが持ちますので」


「なんと、そこまで……」

「こちらは命がかかっておりますから」

「確かに……」


「それと、同じ派閥内の同じ病にかかっている友人の令嬢に貴方様の事を話しました。命にか関わりますから、秘密にしたくても、できませんでした」

「なるほど、では連絡が来るかもしれないということですね」


 口コミで新たな顧客と仕事ゲットだぜ!


「そうです、でも、誘惑されても専属契約などはなさらないでくださいね?」


 ニコレット嬢は瞳をうるうるさせて懇願してくる。


「わかりました」



 彼女は約束ですよ! と言って俺の手をぎゅっと両手で握ってきた。

 思わずドキッとしてしまう。


 周囲にはサーラさんやユージーンや使用人と護衛騎士と店の店員さんもいるから、めちゃくちゃ照れる。

 それに前世含めて俺の人生において、こんな美人に手を握られるのは初めてだ。


 何とか誘惑を振り切り、照れ隠しに早々と退散することにした。



 「では、まだ買い物が残っているのを思い出したので、これで失礼します! 行くぞ、ユージーン!」

「はいはい」


 ◆ ◆ ◆


 俺とユージーンは布系の生活用品を売る店に来た。



「ネオ、買い物ってこれ?」

「そう、あの家のホコリまみれの布団など使えないから」


 ブランケットを二セット買った。

 ぐるぐる巻きにして紐で縛ったものを魔法の布の魔法陣に突っ込むと、ちゃんと収納された!

 ありがてえ!






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