第3話 特殊スキル

 港の灯台の手前に着いた。

 途中まで荷馬車をヒッチハイクして乗ってきたけど、降りてから少し歩いたせいで汗をかき、俺は頭のターバンを取ってその布で汗を拭いた。


 そしてそこに海からの涼やかな風が、吹き抜けた。



「ふー、風が気持ちいいな! そして灯台に登らなくてもここで十分眺めがいい」


 などと海に沈みゆく夕陽を見ながら呑気な事を言うと、


「お嬢様! しっかりしてください!」

「ううっ」


 切迫した女性の声が聞こえた!

 本当に誰かいた!



「ネオ! 灯台の中から人の声が!」

「よし、行ってみよう!」



 俺達は駆け出して灯台入口の扉を開けた。



「ああっ、胸やお腹が苦しい! 救世主はまだなの!? いっそ殺して!」

「ニコレットお嬢様! しっかりなさってください!」


 するとその中で、一人の巨乳の女性が胸を押さえ、苦しみもがいていた。

 傍らにその人を心配して声をかける侍女らしき女性もいる。



「だ、大丈夫ですか!?」

「!! お嬢様! 銀髪の男性です!」


 珍しい銀髪は確かに俺だ!

 ユージーンは茶髪だし!



「あっ! た、たすっ、助けてください!」


 呼吸を乱し、蒼白になった女性が涙ながらに俺を見てすがってくる。



「え!? ど、どうやって? 医者を呼んでくればいいですか!?」

「む、胸を、胸を触ってください!」


「「えっ!?」」


 またユージーンとセリフが被った!

 しかし予言の通りに女性から要求してきた!



「お嬢様をお助けください! む、胸を触ってください!」

「胸をって、後で通報とかしないでくださいますか!?」

「しません! お早く!」


 侍女っぽい人にも頼まれたから仕方ない!


「ええい! ままよ! これは人命救助!」


 俺は目の前で苦しむ女性のたわわをドレス越しに掴んだ!

 ムニュッとして柔らかい!

 ブラをしてない! ノーブラだ!



「……あっ」

「すいません! 痛かったですか!?」

「もっと!」

「え? もっと激しく!?」


 こうかな!? 揉みしだく!

 すると俺の手のひらからなにか、エネルギーの奔流のようなものを感じた!


 手のひらもなにかオーラを纏って白銀色に光ってる!



「なんだこれ! 俺の手が光ってる!」

「お嬢様は魔力が体内で荒れ狂い、暴走するマギアストームという病なんです!」 


「マギアストーム?」

「この灯台に来ればいずれ荒れ狂う魔力を手のひらから吸い上げてくれる銀髪の救世主が現れると予言をいただいたのです! 患者の胸に触ればそこから吸い上げてくださると!」


 !!


「すごい分かりやすい説明ありがとうございます!」

「ネオは魔力なしでも吸収ができたんだね……」



 ユージーンも女性の胸をもみしだく俺を呆然とながめつつ、そんな事を言った。



 女性の方は、俺の魔力吸収で楽になったのか、いつの間にか頬を赤らめ、恍惚な顔をしていた。

 ん? 逆に気持ちよくなってるまである?



「──ハァ、ハァ、ありがとうございました。あまりの苦しさにもう死にたくなっていたところでした」


 息を乱しつつも巨乳のお嬢様に感謝され、俺は胸から一旦手を離した。

 いつまで揉んでるんですか! と、キレられる前に。



「レディのお力になれて何よりです。お手をどうぞ、このままですとドレスがシワになります」

「あ、ありがとうございます!」


 俺は今度は令嬢に手を差し伸べて立ち上がらせた。

 地べたで悶えてたからな。



「ユージーン、あの腹ペコ占い師、どうやら本物だったんだな」

「ほんとだね、驚いたよ」

「銀髪の方、お嬢様を助けていただき、ありがとうございました! これはお礼です!」


 侍女らしき人が鞄の中からじゃらりと音の鳴る巾着袋を出して来た。

 多分、お金だよな!?


「あ、ど、どうも」


 お金目当てではなく純粋な人助けです! なんてカッコつける余裕は実家から追放された今の俺にはなかったので、ありがたくいただいた。


 今すぐ巾着の中身を確認したいが、目の前でそれはいやらしいかな?


「ネオ、ちゃんと中身を確認しなよ」



 あ。そういう作法でオッケーなのか。

 確認したら金貨と銀貨が沢山入ってる!



「ありがとうございます! こんなに沢山」

「魔力嵐の発作は内臓にもダメージを与えるので、あなたは命の恩人ですから、まだ少ない方です」


 え、これ少ない方なのか?



「私はオラール侯爵家のニコレット・モリス・オラールと言う者です。

 よければあなたをこの病の治療師として雇いたいのですが、当家にいらしてくださいませんか?」


 今度はお嬢様の方からそんな申し出があった。

 珍しいスキル持ちだが、その為にのこのこ行ったが最後、屋敷の地下に監禁でもされたらどうしよう? という疑念が脳裏をよぎる。



「いえ、失礼ですが我々はたまたまここに来たばかりの旅人ですし、即答は致しかねます。しかしまた発作が起きようとしたら、小鳥の宿り木亭まで来ていただけませんか?」


 いきなり貴族の屋敷は怖い。

 何しろ貴族の実家に殺されかけたんだ。



「そ、そうですよね、いきなり過ぎました。ではせめてお名前を」


「ネオと言います。姓はなく、平民です」


 しかも偽名です、すみません。

 さらには平民のくせに高位貴族の屋敷への誘いを断るのかよ!

 って感じだが、ひとまず命の恩人てことで無理強いはされなかった。



「ネオ様とおっしゃるのですね、私は侍女のサーラです。あなたはしばらくは宿屋におられるのですね?」


 侍女は慎重に確認をとってくる。


「ええ、今謝礼をいただいたので、そのうち小さな家でも借りるかもしれませんが、三日は宿にいる予定です」

「わかりました、後日またあらためて連絡をいたします」

「はい」



 とにかくこの力があれば同じ病の人を救ってお金が稼げるのがわかったから大収穫だ!


 ニコレット嬢がどこからともなく魔法の鳥を出して飛ばすと、ややして彼女らの馬車がやってきた。


 最寄の町まで送ってくれるそうなので同乗させてもらった。

 道すがら色々聞かれるかと思ったら、馬車の中でニコレット嬢は疲れたのか寝てしまった。


 なので街まで静かにして、到着してからは素直に降ろしてもらえた。



 そして彼女らと別れてから俺達は宿屋に向かった。

 宿に帰る途中、市場に寄って行く。

 パン屋でパンを買い、八百屋でトマトと玉ねぎとにんにく。

 そして魚屋ではエビと白身魚、調味料屋でシナモンとローリエと赤唐辛子と砂糖と塩を買い、油屋でオリーブオイルも買った。



 鞄に色々詰め込んで宿屋に到着し、そこの調理場を借りて、俺はエビをフライにし、ハード系のパンに挟んで食べることにした。


 まず生のトマトを切って煮た後、タマネギやスパイスを入れて煮詰めるだけの手作りトマトケチャップを作る。

 材料はトマトが約12個、すりおろしタマネギが1/8個。

 すりおろしニンニクが1片分で赤唐辛子が1/3本。

 後は水と酢。

 そしてスパイスはシナモンとローリエが各少々

 塩は小さじ1で砂糖は大さじ2ってとこだ。


 そして下処理をしたエビと白身魚をフライにし、

 買ったトマトで作ったトマトケチャップをかけたエビフライと白身魚のサンドイッチの二種類を作った!


 そして二人で早速エビサンドにかぶりつく。


「あれ! ネオ、君ってほんとに料理できたんだね!」

「だからできるって言ったじゃないか」 

「これ、すごく美味しいよ! エビはプリっとしてて、トマトペーストがなんとも絶妙な味わいで!」

「まあな!」


 二人して大満足でごきげんな夕食だった。

 食後に白湯を飲んだ後は風呂が付いてないので仕方なく濡れた布で体を拭いて、二人で一部屋とったベッドの上で雑談をば。



「ところでユージーン。マギアストー厶という病の患者って、わりといるのかな?」

「魔力の多い人ほどかかりやすい病気らしいよ」

「でも貴族世界では魔力の強さが重要なんだよな?」


 婚約破棄の理由になったし。



「それにこだわり過ぎて魔力多い者同士で結婚して子供を作ってるから、たまにああして苦しむ人が出るんだそうだよ」

「うーん、魔力強い者同士のかけ合わせも危険な博打だな」


「実際、君の元婚約者の家も魔力の強い貴族だったし、病気の発症を避ける為に中和したくて魔力無しの君と婚約したのかと思っていたよ」

「そ、そうなのか、彼女は俺を恥じていたようだが」

「でも婚約はたいてい親が、家長が決めるもんだろ?」

「まあ、それはそうか」



 ユージーンの言葉に納得しつつも、俺はここに定住すべきか、もっと色々な土地を見ておくべきか悩んだ。


 でも移動するにも船賃とか、危険もあるんだよなー。

 山越えは山賊、海にはもしかしたら海賊、それと悪天候的なやつの危険がある。


 せっかく異世界憑依転生したなら色々な場所を見てみたい気はするが……。

 


「ネオ、どうする? 明日は家を借りる為に探しに出かける?」

「三日はここにいると貴族令嬢と約束したから、その間この宿にいるけど、そうだな、買うじゃなくてひと月単位くらいで借りるなら何かあったら移動できるか」



 そして俺はひとまず治癒で得られたお金をユージーンと山分けしようとしたけど、特に何もしてないと本人が言い張るので、ひとまず護衛が貰えるくらいの分を給料として渡した。



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