第4話 物件探し

 翌朝もパンにフライを挟んで朝食に持ち、景色のいいとこで食べようって話して出かける。


 ひとまず、ずっと宿屋暮らしだと逆に費用が嵩みそうなので借家探しだ。


 雑貨屋の前を通り過ぎようとすると、竹製品の釣り竿とカゴなどがあった。

 こちらの世界にも竹がどこかに生えてるんだな。



「海が近いから釣りも悪くないな」

「ネオ、竿はまた今度。遊ぶ前に借家探しだよ」



 俺の視線が釣り竿に注がれてるのでユージーンが釘を差して来た。



「わ、わかってるよ。でも釣りで魚釣れたら食費が浮くよな? 餌はミミズとかの虫でもそのへんにへばりついてる貝でもいいと思うし」


「釣りねぇ、なんにもかからない日のほうが多いと思うよ」

「まあ、それはそうだな……」

「川で罠を作った方がまだ取れる気がする」


「川魚より海魚のが美味い気はするけど、そちらも夏だし、悪くないかもな」



 そのうち川遊びもしてみたい。

 何しろ俺はあちらの世界で過労死したから、リラックスできるゆったり時間も必要だ。



「えーと、とりあえず酒場か食堂かな」

「ユージーン、借家探しなら不動産屋、いや貸家を扱うとこじゃないのか?」


「貸家を扱う店がどこにあるか聞くんだよ、この国は僕も初めて来たんだし」

「そういやそうだな」



 納得である。

 とりあえず情報収集は酒場と相場が決まってるが、まだ朝だ。



 なので朝は食堂、夜が酒場になってるとこに来た。

 そしてまず、俺達は飲み物にレモン水を頼んだ。



「貸家を扱っているところをご存知ないですか?」 



 と、ウエイトレスに訊いてみた。



「あちらの緑色のトンガリ屋根のとこよ」

「ありがとう」

「お兄さん達、注文はレモン水だけ?」



 ハッ!!

 にっこり笑ってるけどウエイトレスのお姉さんから圧を感じる!



「あ~、ごめん。さすがに飲み物だけは失礼か。じゃあ……あちらのテーブルと同じパイを」

「ミートパイね」

「ああ、ユージーンはどうする?」

「あちらのテーブルと同じじゃがいも料理を」


「はーい! かしこまり!」

「ネオ、持ってきたお魚挟んだパンはどうする?」


「なんならまたあの場所の例の占い師にお礼にあげようか? あの人のおかげで儲かったし、神スキルに目覚めた」

「なるほど」


 俺達は貸家が開く時間まで時間がまだあるので、ミートパイとジャーマンポテトに似た料理を分け合って食べた後、例の占い師に会いに行った。


 でもあの場所にはもう占い師はいなくなっていた。

 あの簡易な作りの店もない。



「腹ペコ占い師、移転したのかな」

「儲からなくてお腹空かせてたなら、ありうるね」

「占い、驚異の的中率だったのに」


 ◆◆◆


 仕方ないので、貸家屋に向かった。

 目印は緑のトンガリ屋根。


 扉ノックした後、開けてカウンターに座るお姉さんに問いかける。



「すみません、ひと月単位くらいで借りれる家とかありますか?」


 お姉さんは俺達の頭から足先まで軽く見やってから、物件の資料を棚から取り出して言った。



「ありますよ、旅行中の方ですか?」

「そんな感じです」



 どうやら旅行中の人に見えるらしいな。



「では、こちらの物件とこちらの物件などがおすすめですよ」

 


 二つほど物件を紹介してくれた。

 やや古い一軒家とアパートみたいな建物だ。



「ユージーンどう思う?」

「アパートだと隣人に気を使うから、この予算なら多少古くても一軒家が良くないかな? 海も近くて景色がいいって書いてあるし」



 確かに、急に貴族が治療を頼みに来た時にアパートだと隣人とかがびびるよな。


「じゃあこの一軒家の内見、下見をさせてもらうことにするか」



 車持ちなら海の近くは潮風で車がはよやられるとか心配しないとだが、そんなものはこちらの世界にはない。

 馬車の世界だ。


 そもそも向こうの世界でもマイカーはまだ買ってなかった。

 資金を貯めてる最中に死んだ。

 はー、切ない。

 こんなことになるなら節約生活するよりもっと美味しいもの沢山食べておけばよかったな。



「では、案内の者をお呼びしますね」



 案内の者は小さめの荷馬車に乗ったおじいさんだった。



「なるほど、これに乗せて行ってくれるんだな」

「徒歩じゃなくて助かったよね」

「じゃあお客さん、乗ってくれるじゃろか?」

「はい、よろしくお願いします」



 ◆◆◆


 海のそばの一軒家に来たら流石のオーシャンビューじゃん!

 白い壁でわりとかわいい作りだし、悪くない。


 アパート系よりやや高くはなるが、貴族が訪ねて来ることがあるなら、こちらのが良いはず。


 中も古いし掃除も必要だが、補修すればなんとかなりそうだ。


「ホコリとか蜘蛛の巣とかあって掃除がいるけど悪くない」

「じゃあ、ネオ、ここでいいんだね?」


 俺はユージーンに頷いてからおじいさんの方に向き直った。


「ところでおじいさん。

掃除は借り手の俺たちが自分でしなきゃだめかな? 俺達あと2日は宿にいるから掃除を頼める人がいたら助かるんだけどさ」


「銀貨5枚が出せるなら掃除の者を雇って掃除させておきますがのぅ」

「じゃあお願いします」


 俺がおじいさんに支払いすると、


「自分達でやらなくて大丈夫だったの?」


 節約はどうした?

 という目でユージーンが俺を見てくる。


「汗だくになって掃除とか今はしたくないんだ……」

「しょーがないなぁ」


「それと手付け金だけは今払ってくださいますかのぅ?」

「あ、はい」



 俺はまた巾着からおじいさんの契約書に書いてある手付け金分を払った。

 後は掃除の後にひと月レンタル分をまとめて払う。



「はい、どうも。鍵はこちらで予備の鍵は掃除の時に掃除の者が使うので、掃除が終わってからのお渡しになるんじゃが」

「はい、それで大丈夫です。よろしくお願いします」



 それからランチは男二人で海を見ながら浜辺の木の下に座って朝に食いそびれたフライサンドを食べた。

 爽やかな潮風を感じながら……。


 これ、かわいい彼女とだったらかなりいいシチュなんだがな!

 まあ、ユージーンも女の子ではないがイケメンだからいいか!

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