第9話 能力
「レイちゃんはカワイイが、勇者さまにしてしまっていいのか? ロボット生命体とはいえ、こんなカワイイんだぞ。悪者と戦わせて、ケガでもしたらどうするんだ? こんなにカワイイのに」
カイル王子が王族として真っ当なことを言うと見せかけて、恋するゆえの愚かな者ムーブをとりはじめた。
愚かだが一理ある。
「そうですね、言われてみればレイさまは少々お体が小さいですねぇ」
いやアズロさま、それは言われなくても見ればわかるだろ。
「カワイイは正義ですけれど、可愛らしい体型は戦いには不向きかもしれません」
カワイイは正義なのか、なら安心……ってならないだろっ、クリスティンさま。
「か弱きオトメは守ってあげなくては!」
七歳児の王子さまが、キラキラしながら何か言ってますけど。
それだと召喚した意味、なくなっちゃうからね。
確かにレイちゃんはカワイイけれど、それだと召喚した意味が……。
「むんっ? レイちゃん、弱くないモン。強いモン」
レイちゃんはロボット特有の面で出来た顔にムッとした表情を浮かべて不満げに言った。
モンモン言ってる時点でカワイイしかないけど、幼児だから。幼児体型だからレイちゃん……。
『やはり見た目も大事ですね。ここは一発、デモンストレーションを行いますか。レイさま、ちょっとやっちゃってください』
「んっ。レイちゃんやるっ」
言葉と共にレイちゃんの顔面に力が入った。
ちょっとアレな感じで踏ん張っているようにも見えるが、変化はすぐに起きた。
「なんと!」
「デカくなる⁈」
皆が見守る中、レイちゃんのピンクと白のボディが発光しつつ巨大化していく。
これはマズイ。
「マッピング、記録!」
オレは叫びつつ魔法陣を発動した。
これはオレの使える魔法のなかでも特殊なものだ。
意識した特定のものについてマッピングすることができる。
今は神殿の内部について現状を記録した。
「ああ、天井がっ!」
誰かが叫んだ。
あっという間に巨大化したレイちゃんの体で、天井がメキメキと音を立てている。
天井を圧迫しているのはピンク色したツインテールの頭だけど、現状ちっとも可愛くない。
パラパラと落ちてくる天井だった石を避けながらアズロさまが叫ぶ。
「分かりましたっ! 分かりましたので、元に戻ってください!」
その横でクリスティンさまが素早くバリアを張っている。
これでケガ人の心配はなくなった。
「むぅ? まだレイちゃんはつよいトコみせてないよ?」
「大丈夫です、分かりましたから! また小さくなってください!」
レイちゃんは焦りまくっているアズロさまほか同席者の様子を見て満足したのか、にんまり笑って頷いて、再び光ながら元のサイズへと戻っていった。
「あぁ、なんて素晴らしい勇者さまなの!」
ちんまいのがデカくなっただけですよ、クリスティンさま。落ち着いてください。
「そうですね、本当に素晴らしい。お強い上にカワイイとは。これで我が国も安心です」
いやいやいや。
ついさっき天井壊されたじゃないですか、アズロさま。
不安要素だらけでしょ?
大丈夫か、この国⁈
「大きくなれるなんて……カワイイ上に強いなんて最強か?」
とか呟きながら目にハートを浮かべている王子とかいるし、不安しかない。
まぁ、そんなことより、壊れた室内をどうにかしなければならない。
このままじゃ天井がいつ落ちてくるか分からないし、バリアを張っているクリスティンさまの負担になるだろう。
オレは魔法陣を発動した。
「マッピング、修復!」
オレの声と共に、崩れた天井や壁が元に戻っていく。
マッピングで記録して修復することで元に戻すことが出来るという便利な魔法だ。
魔法陣を使えば難しくはない魔法だが、魔力量の消費が激しいのでオレ以外はあまり使わない。
オレの保有する魔力量は多いらしく、たいして消耗はしていない。
ちなみに失われた魔力は自然界から吸収できるので、適度な休息をとれば元通りだ。
「流石はルドガーさま。ありがとうございます」
クリスティンさまがバリアを解きながら頭を下げる。
いえいえ、どういたしまして。
お役に立ったなら幸いです。
「勇者さまだけのことはある。いつも落ち着いてらして
いえいえ、アズロさま。
オレのはただのコミュ障です。
オレに対する賞賛の声が上がったが、こういうのはどうも落ち着かない。
「カワイイはセイギなのだ。レイちゃんとお友だちになるぞ! 絶対だ!」
七歳児だけ別視点ではしゃいでいる。
……ま、いっか。王子とはいえ七歳児だから。
室内の喧騒を聞きながら、レイちゃんも勇者ということは、この世界は勇者ダブル体勢なんだな、などと薄ぼんやりと考える。
ロボット生命体とのコンビというのは萌えるが、幼女だからな。
頼れるリーダータイプのロボット生命体なら、オレは後ろからついて行きますぜ旦那、ってな感じでイケるんだけど。
相棒が幼女か……。
AIは子守り用だしな。
これはちょっと大変だぞ、とオレは他人事のように思った。
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