第8話 ロボット生命体のレイちゃん五歳

 レイちゃん五歳と名乗るロボット生命体に、召喚の間に集う神官や聖女たちが温かな眼差しを注いでいる。


 カイル王子だけが「いや……やだ……スキ……」とか呟きながら、頬を赤く染めて身をくねらせるという奇行に出ているが知らん。


 初恋のときめきか、ロボットにはまった瞬間かは知らんが、大丈夫か?


 カイル王子は未来の国王だぞ。


 と思ったりもしたが知らん。


「勇者さまは五歳なのですか? それは流石に幼すぎるのでは……」


 クリスティンさまが言った。


 流石聖女。常識がある。


 勇者を召喚するのはいいが、幼女はいかんぞ、幼女は。


 いくらロボット生命体であっても、幼女はいかん。


「ですが神託通りにしたはずです。何か理由があるのでは?」


 ん、それも一理あるよアズロさま。


 流石は神官。


 でも幼女であることに理由を求めることは無理があるよね?


 五歳なら親元で教育してください。


『それについては私から説明させていただきます』


 今度は赤いおリボンが喋ったよ……。


『私はレイさまの養育係のAI、セツです。子守りや守護の役割を果たしています』


 リボンの中央がハート型にくぼんでいて、そこがスピーカーとしての役割を果たしているようだ。


 AIというものを理解できるような国ではないはずだが、皆ウンウンと頷きながら聞いている。


 さてはAIを妖精みたいな何かだと思っているな?


 まぁ、そう思っても不都合はないか。


 説明しろって言われてもオレも分からん。


 ここはスルーで!


 オレの動揺をよそに、AIであるセツは淡々と説明を続けている。


『レイさまは、五歳のロボット生命体です。私たちは、こちらの世界から見て異世界にあたる、ロボット生命体の世界から参りました』


 おお。ロボット生命体の世界。


 そんな世界があるんですか?


『こちらの世界では神話に近いような話のようですが、ロボット生命体の世界はあります』


 あるんだ。


 夢がある~。


『あちらの世界でも神託が下り、召喚される者としてレイさまが指名されました』


 ご指名制か。


 なら仕方ないね。


「では、保護者さまも承知の上で召喚に応じていただけたと理解してよろしいのでしょうか?」


『はい、聖女さま。そのように承っております』


 ちなみに、この間、レイちゃん五歳を名乗るロボット生命体は女の子座りをしたままウンウンと頷くのみである。


『保護者さまから預かった同意書もあります。レイさま、書類をそちらの方に渡してくださいませ』


「ん? なにを?」


『白いポシェットに入ってる白い紙ですよ、レイさま』


 何かに気付いたような素振りを見せたレイちゃんは、ポシェットの中をゴソゴソと探している。


 目的のものが見つかったようで、ピカンと表情が変わった。


 ぶっちゃけカワイイ。


 これはどうみても愛玩用ロボットだろう。


「どうぞ」


「ご丁寧にどうも」


 レイちゃんから紙を受け取ったアズロさまが、目を通しながらウンウンと頷く。


「確かに保護者さまは同意されていますね」


 至れり尽くせりだね。


 ロボット生命体の世界は気遣いにあふれているらしい。


「そうね。これなら安心だわ」


 聖女さま、そこで安心したらダメだと思うよ。


 好意とはいえ、五歳児を勇者にして戦わせたらダメでしょ?


 こっちの世界の見識を疑われるよ。


『レイさまは五歳とまだ幼いですが、ロボット生命体ですのでしぶとく生き延びることができます。安心して任務を与えて鍛えてください、とのことです』


 くぅー、ロボット生命体の世界ってスパルタ~。


「食事などはどのようにしたらよいのでしょうか?」


 聖女さまが聞くとセツが淀みなく答える。


『レイさまは何でも好き嫌いなく食することができます』


 ウンウン、好き嫌いのない五歳児か。偉いねぇ。


『道端の石を食べて生き長らえることも可能です』


 それはちょっと……どうだろうか。


 勇者さまなんだから、もうちょっと待遇が良いと思うよ?

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